「お気に入りのパンが買えない」を無くす——パンの事前決済・取り置き予約アプリ「sacri(サクリ)」が正式ローンチ

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Image credit: Sacri

競争が激しい飲食業界の中でも、最も生き残りが難しいとされる業態の一つはパン屋ではないだろうか。パンブームの影響から市場全体は前年比25%の勢いで成長するものの、ある統計によると開業から1年以内に3分の1が廃業し、3年後に営業が継続している店舗となれば、当初の数の3分の1にまで激減するいう熾烈な世界。つまり、チェーン店舗やほんの一握りの人気店が、業界全体を牽引している構図だ。

パン屋にももっと可能性があるはずだが、他の飲食店や食料品店とは違った問題がある。多くの店では朝仕込んで焼き上げるため、客が遅くに店を訪れた時には好みのパンが売り切れている、そして、これが常態化すると、結局、売り切れているだろうからとパン屋に客が来なくなってしまうのだ。気に入ったパンを求めて買い物に出かけても、店で好みのパンが売り切れていた時の落胆たるや、計り知れないものがある。

パン屋にもパン屋の事情があるだろう。もともと飲食店や食料品店というのは在庫リスクが大きいので、営業時間の途中で特定の商品が売り切れたからと言っても、そこから追加製造できるとは限らない。閉店時に売れ残りが出てしまっては元も子もないし、小規模な店舗であれば、手数的に営業時間中に仕込むのが難しいケースもあるだろう。

sacri(サクリ)」はそんな問題を解決してくれるアプリ( iOS / Android )だ。博報堂 DY ホールディングス(東証:2433)の社内ベンチャー制度で街歩きメディア事業を経営していた大谷パブロ具史氏が昨年独立、街歩きメディアで個人店舗約300店を廻っての取材から知ったパン屋の抱える経営・マーケティング課題を解決すべく sacri を創業した。今年6月からパン屋の取り置きアプリをβ運用している。

大谷パブロ具史氏
Image credit: Sacri

sacri を使えば、気に入った店の気に入ったパンが焼き上がるとプッシュ通知で知らせてくれる。ユーザはそのパンを購入する場合、アプリを使って事前決済で予約しておき、後から店に取りに行けるというものだ。焼き立てを買いにパン屋に走るもよし、仕事帰りに焦ることなく店でピックアップすることもできる。事前決済されているので、店は客に予約をすっぽかされる心配を極小化できる。

街のパン屋の平均客単価は800円くらい。それは、トレイに載せられる MAX のキャパがそうさせている。でも、β運用で動かしてみると、sacri のモバイルアプリでは平均客単価は2.5倍の1,800円くらい。予約しておいて買うので、客はトレイに載る量を気にしないでいいからだ。アップセルできる上に、「焼けたよ」っていう一番おいしい、シズル感あふれるタイミングで客を集められる。(大谷氏)

この分野では「パンタベル」というパン予約アプリが先行しているが、大谷氏は事前決済ができる点で sacri の強みを強調する。また、「PICKS」などのテイクアウト専用アプリで商品を販売しているパン屋も存在するが、大谷氏は前職で街歩きメディア事業がスケールしなかったことを教訓に、スタートアップの事業ではことごとくバーティカルに特化して攻める事業を作る必要がある、と考えたという。

Image credit: Sacri

フィンランドの「Wolt」なども日本市場に参入し、熾烈な争いを続けるフードデリバリアプリ各社がパン屋の取り置き予約に商機を見出す可能性は否定できない。しかしこの点について大谷氏はあまり心配はしておらず、むしろ楽観的だ、

フードデリバリアプリが扱うのは、弁当に代表されるように、オーダーされてから料理を盛りつければ商品が完成できるものが多い。一から仕込んで調理をしていたのでは間に合わないからだ。パンは予約に基づいて仕込みから完成までに時間がかかることを考えると、まるでフィールドが違ってくる。

それに、フードデリバリアプリは店が支払う手数料が高く、パンの価格を考えるとパン屋では利益を出しづらい。sacri では取扱手数料は決済手数料も込みで10%と設定しており、在庫ロスを減らせることやマーケティングコストを考えれば、パン屋がペイできる水準に設定している。(大谷氏)

sacri の手数料は店舗がマーケティングコストとして負担しているケースが多いが、人気商品が売り切れ続出する一部の店では、予約販売できる機能を客への付加価値提供と捉え、sacri 上では店舗価格に手数料を上乗せして販売しているケースもある。客からしてみれば、10%の価格上乗せで確実に気に入ったパンを手に入れられるなら安いのかもしれない。

sacri の客層も面白い。大谷は当初、モバイルアプリという性質上、比較的若い層が多く使ってくれることを想定していたが、βローンチして以降、40代〜60代の女性ユーザをオーガニックだけで獲得できたのは意外だったという。sacri は現在、首都圏を中心に約20店舗で導入されているが、年明け前後をめどに加盟するパン屋を大幅に拡大・増加させる計画だ。

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