東大発・水で衛星を移動させる推進機開発Pale Blue、約7,000万円をシード調達——米小型衛星メーカーと合意書締結

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左から:中川悠一氏、柳沼和也氏、浅川純氏(代表取締役)、小泉宏之氏(CTO、東京大学先端科学技術研究センター准教授)
Image credit: Pale Blue

超小型衛星用のスラスタ(推進機)を開発するスタートアップ Pale Blue は21日、シードラウンドで約7,000万円を調達したことを明らかにした。このラウンドに参加したのは、インキュベイトファンドと三井住友海上キャピタル。これと合わせ、インキュベイトファンド代表パートナーの村田祐介氏が、Pale Blue の社外取締役に就任したことも明らかになった。

Pale Blue は、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻の小泉研究室のメンバーを中心に今年4月創業。直前まで同研究室で特任助教を務めていた浅川純氏が、Pale Blue の代表を務める。同社はこれまでに千葉県の中小企業総合支援事業助成金、三菱 UFJ 技術育成財団の研究開発助成金、文部科学省の宇宙航空科学技術推進委託費(東大との共同採択)などで約7,000万円を調達済。

人工衛星はロケットで打ち上げられ定められた軌道に投入されるが、その後、軌道修正や移動をするためにはスラスタが必要になる。この際の推進剤にはヒドラジンのような化合物が用いられることが多いが、人体に毒性のある劇物であるなどの理由から取り扱いが難しく、結果として大型の衛星にしか搭載できないのが現状だ。

一方、最近では多くの宇宙衛星スタートアップの参入により、1基あたりの製造・打ち上げコストを下げ、多基の低軌道衛星でコンステレーションを組む手法が現実味を帯びつつある。この場合、使われる超小型衛星にスラスタは技術的に搭載できないため、ロケットなどから宇宙空間に放出後、衛星は軌道を変えられない。地球周回衛星の場合、地球の重力の影響を受けて、軌道や高度がズレてもマヌーバ(位置・姿勢の修正や高度の維持)も不可能だ。

Pale Blue が開発するのは、水を推進剤とするスラスタだ。水レジストスラスタ(水蒸気式)、水イオンスラスタ(水プラズマ式)、さらに、その両者のハイブリッドのスラスタを開発している。水レジストは構造上の容易さから複数の方向軸に付けられるものの推進力が弱く、一方、水イオンは推進力はあるものの複数の方向軸には付けられないため、その双方の一長一短を補えるのがハイブリット型である。

水推進システムを搭載した実証衛星
Image credit: Pale Blue

水は安全無毒で安定しており、低圧でも貯蔵可能であるため取り扱いがしやすい。したがって、水を推進剤としたスラスタは超小型衛星にも搭載しやすいことになる。水は宇宙空間のさまざまな天体にも存在することから、必ずしも地球から持っていかなくても、宇宙空間で調達することも可能だろう。衛星の寿命は、この軌道維持のための推進剤の容量に依存することが多かったが、推進剤を水にすることで寿命を数倍以上に伸ばすことも期待できる。

また、地球周回衛星の場合、スラスタを持たない衛星は役割を終えた後、地球の重力に負けて自然落下し燃え尽きるのを待つ他なく、これが宇宙ゴミ(デブリ)増大の一因となっていた。超小型衛星にスラスタを備えられれば、役割終了後の衛星を意図的に大気圏突入させられるので、宇宙ゴミの解消にも役立つ。

Pale Blue では2019年に国際宇宙ステーションから放出された小型衛星に水レジストスラスタ(水蒸気式)の搭載に成功している。今後、2021年に2基の水レジストスラスタ搭載衛星の打ち上げ実証、2022年に水イオンスラスタ(水プラズマ式)搭載衛星の打ち上げ実証を目指す。

Pale Blue は今年、東京大学協創プラットフォーム開発(東大 IPC)の起業支援プログラム「1st Round」第2回の支援先に採択。また、水を推進剤としたスラスタシステムが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証3号機に搭載する実証テーマに選定された

Pale Blue はまた、アメリカの小型衛星メーカー NanoAvionics と MoA(Memorandum of Agreement、合意書)を締結したことも明らかにした。一般的な携帯電話をそのまま使える衛星通信ネットワーク「SpaceMobile」を計画する AST & Science は NanoAvionics の経営権を取得しており、AST & Science に楽天モバイルを展開する楽天が多額を出資したことは記憶に新しい。

<参考文献>

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