デジタルツインへ繋がる“ハードウェア版GitHub”ーー未来の成果物を予測する世界へ

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Image Credit:Wikifactory

ハードウェア・エンジニアリングの考えが大きく変わろうとしています。

会社に集まって多人数でブレストをしたり、開発進行することが難しい今、リモート、かつオンラインで意見を出し合い、ファイルのやり取りを通じて成果物を作っていく工程が必須となりました。そこで登場したのが4月に5,000万ドルの調達を果たしたオンラインホワイトボード「Miro」や、2月に630万ドルの調達を発表したデザイナー向けプロトタイプツール「ProtoPie」などです。

同様の流れがハードウェア分野にも起きています。注目されるキーワードは「ハードウェア版GitHub」です。

例えば240万ドルの調達を実施した「Valispace」は、宇宙衛星や航空、医療機器、原子炉といったエンタープライズ・エンジニアリング向けの開発プラットフォームを提供しています。NASAが火星探査機の打ち上げにかつて失敗した際、問題とされたのがチーム間の単純な単位表記の違いでした。ただし、当時はペーパーベースで開発資料のやりとりがされていたため、最終的に気付かれることがありませんでした。こうした失敗をGitHubのコンセプトを用いることで防ぐのがValispaceです。

また、300万ドルの調達を果たした「Wikifactory」も挙げられます。190か国以上で利用され、7万ユーザーに使われるほどの共同プラットフォームに成長しています。チャット機能付きCADツールとして、リアルタイムに世界中の開発者が制作活動を行えます。コロナ禍の環境で高い提供価値を発揮しています。

Image Credit:Wikifactory

ハードウェアに関しては、成果物がどのように動くのかを実際に試すか、もしくはデジタル空間でシミュレーションする必要性が出てきます。特にValispaceは大型で危険なモノを作り上げることを想定しているため、シミュレーション機能に強みを出している印象です。

そして「ハードウェア版GitHub」の考えは、昨今頻繁に聞くようになった「デジタルツイン」のコンセプトへと繋がります。ではデジタルツインとは何か。一言でいえば、“機能する”デジタル世界です。下記がデジタルツインのざっくりとした定義です(定義は諸説あります。あくまでも筆者の現時点での考え)。

  1. 共同プラットフォーム:オンライン上に多人数にコラボレーションをしながら制作していく
  2. 同期性:時間軸を考えず、非同期であってもその場で一緒に作業しているように制作できる。そのため履歴機能が重要となる。決してリアルタイムだけでなく、非リアルタイムでの作業に強くなければ、世界中の人材をフル活用できないため。
  3. ノーコードと事前予測:ユーザーの作りたいものを機械側が先回りで提案して制作を支援する。また、iPadアプリで雑なスケッチ手書きを綺麗な図形に自動で直してくれる機能のように、AIがユーザーの期待成果物を予想して形にしてくれる機能が必須となる。
  4. シミュレーション:デジタル空間でプロトタイピングデータを実際に動かす。その際、現実世界を限りなくリアルタイムに反映したデジタル世界で効果を確かめる。宇宙衛星の打ち上げや、都市開発シミュレーションなど。
  5. デジタルと現実世界が融合:デジタル空間での結果を基に、現実世界に操作指示を送る。もっともわかりやすい事例はエアコン。室温が一定以上(もしくは以下)になったら自動で点くようになっている。デジタルから現実に介入する。ここで仮想世界の想定成果と、現実世界の事象が重なり合い、「ツイン化」へと至る。もちろん現実世界からデジタル世界へ指示を出す逆の流れも存在する

単に現実の都市や工場に代表される大型施設の環境情報を丸ごとデジタル空間に作り出すことを「デジタルツイン」とは呼びません。それはただの「デジタル化」や「バーチャル化」です。AIをトレーニングさせるための仮想トレーニング環境の下地になるか、ユーザーが自分の行けない場所を観光するためのVRコンテンツどまりになってしまいます。

デジタルツインの真価は、現実世界とデジタル世界を“繋げる”ことです。正確には“反映”させることと言った方が正しいかもしれません。“ツイン”の文字に踊らされると、環境反映という必須条件を見落としがちです。デジタル上で作り出したモノをシミュレーションし、現実世界に反映させることで初めて成り立つのがデジタルツインです。

ちなみにデジタルツインが住宅単位で完成しているものを「スマートホーム」、都市単位で完成している「スマートシティ」と呼びます。現在のように部分的にIoTが導入されているものは未だ完全体とは言えません。そして地球規模単位で完成したものを「ミラーワールド」と呼びます。“ミラー”が指し示す“反映”しあう世界です。

さて、ValispaceやWikifactoryが紐解ける世界観はここまで説明してきたデジタルツインの先にある、スマート化された世界であり、ミラーワールドに繋がります。

遠隔で働く人同士が、AIの力も借りながらオンラインで構造物を作り上げ、仮想空間上でシミュレーションする。実際に製造してみた後も、リアルタイムに情報を取り続けてデジタル空間と現実世界の反映関係を維持し続ける。この一連の流れを実現できるのが先ほど説明した2社となります。

デジタルツインの世界を体現するスタートアップは、これから益々登場してくるはずです。今は単なるツールに過ぎないものであっても、5〜10年スパンでプロダクトの価値が最大化されるものが多く生まれると感じます。日本から世界へ、デジタルツイン文脈でどれほどのスタートアップが誕生するのかにも注目が集まるでしょう。

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