ギフティ上場のリアル:社員数人のスタートアップが挑んだ大手とのコンペ Vol.3

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

これはとある新社会人がスタートアップし、上場するまでのストーリーである。

彼はソーシャルメディアの可能性を感じ、人と人とが繋がる「ギフト」で新たな世界を創ろうと考えた。2010年に創業した社員数人の小さなスタートアップは、いくつもの支援を受けながら幾多の困難をクリアし、社会の公器となるべく2019年9月、東証マザーズに上場を果たした。ギフティという名前でスタートアップした彼らは、創業時「ソーシャルギフト」という新しい概念を提唱し、その後のeギフト市場で着実に成果を出し、現在もなお成長を続けている。

このロングインタビューでは、スタートアップのリアルとして、KDDI ∞ Labo第一期生であるギフティ創業者、太田睦(むつみ)氏と共にその上場までの道のりを辿る。後に続くスタートアップ起業家、そしてその成長を共に共創しようと試みを続ける大手各社のヒントになれば幸いだ。(文中の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は太田氏)

念願のスターバックス導入に向けてチャレンジを続けるギフティ。信用の面からコンペ参加を打診された同社は、アイデアやeギフトの実績を買われて決勝にコマを進めることになる。しかし、その最終対戦のプレゼンテーションで顔を合わせることになったのは、某大手通信会社だった。

助け舟を出したKDDI

太田:トライアルの後、スターバックスさんからやはり会員向けにそういったオファーを贈るキャンペーンをやりたいよね、でもそれならやっぱり(不正利用防止の)仕組みはどうしても必要だよね、という話になったんです。だから改修について検討したい、けれどそれはコンペになると連絡をもらったんです。提案には大手の印刷会社さんや通信会社さんがバンバン出てきて(苦笑。当時の社員数って3人とかそういう時期でしたから入れたこと自体幸運なんですけど、結果的に最終で当たったのが大手通信会社さんだったんですね。

なかなか痺れるコンペですね

太田:eギフトを実際に運用してきた実績は評価いただいたのですが、与信面ではどうしてもそちらに軍配が上がる。至極当たり前のことを言われてしまって。それでKDDI ∞ Laboの∞ラボ長だった江幡(智広氏、現・mediba代表取締役)さんに相談したところ、飯田橋のソリューション部隊の方々を紹介してもらったんです。最初は説明に苦労しましたが、それでも当時、スターバックスとの取引がなかったことや、コンペの相手が競合の通信会社だということでご一緒いただけることになって。

ーーこうしてKDDIのソリューション部隊をバックに付けたギフティは与信面での課題をクリアし、このコンペに見事勝利を収めることになる。その後もKDDIと連携したeギフトのソリューション・パッケージを同じような座組みで展開し、この出来事は数人のスタートアップにとって大きなマイルストーンとなった。

ギアチェンジの時

個人がeギフトを贈り合う、という世界観を実現するための山の登り方は二つあった。ひとつは個人の力で拡散して世の中にムーブメントを起こす方法。もうひとつは既存の商流に乗せて、じわじわと世界を変えていく方法だ。ギフティは後者を選び、そして成功した。

KDDIとの連携でビジネス向けのeギフト・ソリューションを求める企業の声が徐々に届くようになり、大手ブランド向けに導入を進めるギフティ。ただ当時、絶対的なeギフトの流通量が不足するという課題を抱えていた。というのも、スターバックスなどのブランド向けソリューションで最終的なユーザーにeギフトの存在を知ってもらうための接点が、ギフティのサービスサイトと各ブランドのオウンドメディアなどに限られていたからだ。太田氏はこう振り返る。

アイデアだけのスタートアップから徐々に企業への階段を登るわけですが、その後の展開は

太田:スターバックスさんやローソンさんといった大手のブランドさんに導入いただけるようになったのですが、eギフトの流通先が基本的にギフティという個人向けのサイトと、各ブランドさんの自社サイトとかアプリ内にギフトの機能を埋め込ませていただく、という方法しかなかったんです。C2Cだけだと正直そこまで流通が伸びなかったっていうのが当時の本音でした。それを理由に解約されるということはないですけども、基本的に流通金額に応じた売上っていう形になっているので、このペースだと難しいかなという風に思って。

当時はどうしてC2Cで伸びないんだろうって考えてました。

日本人の方って特にギフトというコミュニケーションにおいては失敗したくないという気持ちがあると思うんです。自分がそのものの良さを分かってるから相手に送るわけで、いいとも言えない、知らないものをいきなり送るってなんか難しかっただろうなと。イノベーターみたいな人たちはそれでも理解してやっていくんですけどマジョリティーの方々については、ここを打開する何かが必要だなと思案していたのが2015年頃です。

ーーギフティにはビジネス向けのソリューションが大きく二つある。ブランドがリワードとなる商品を提供し、顧客向けにeギフトを提供できるようになる「eGift System」と法人が独自にeギフトを贈ることができるようになる「giftee for Business」だ。

ここまで語ってきたスターバックスの事例などは全てeGift System、つまりギフティとして提供するSaaS型のギフティングサービスだった。しかし、このプラットフォームだけでは、太田氏が悩んだようにプラットフォーム全体の流通の伸びがそのまま企業の成長キャップになってしまう。

もっと能動的に攻めていけないか。そう考えていたギフティをもう一段階変化させるきっかけがある日届くことになる。

太田:雑誌社さんからある日、読者アンケートの謝礼で使いたいという問い合わせが入ったんです。最初は正直、意外というかまあ、こういうケースもあるかなという感じだったんですけど、そういう問い合わせが続いたんですね。で、実際に話を聞きに行ったらそれまで読者アンケートの謝礼って金券とかを一枚一枚、封筒に入れて住所書いてっていうのをやってたらしいんです。実際に贈る景品よりも人件費とか送料の方がかかってるという状況で。ギフティだったらURLを送るだけで済むので間接コスト一気に削減できるよねという話になって。あと、読者アンケートって回答してから謝礼をもらうまで2週間とかかかってたんです。メール送付だったらすぐなので読者さんも喜んでくれる。

ーー企業は常にユーザーとの接点を求めている。そしてそこには実は業界によって見えないペインや無駄が隠れていることを知った太田氏らは、これをチャンスにビジネス向けのソリューションに力を入れることにした。上場時に6割の売上を支えた「giftee for Business」がそれだ。

これまでのギフティはeギフトなどの生成の仕組みを持っていないブランドに対してその仕組みを提供し、そこから「消費者同士が」ギフトを贈り合うことができるものだった。ビジネス向けのソリューションでは贈り手が企業になり、直接消費者とギフトを通じたコミュニケーションができるようになる。

ありがとうの形は企業によって様々だ。読者アンケートの謝礼やポイント交換、福利厚生など、感謝の解像度を上げることで企業はeギフトの使い方をより鮮明にできる。結果、これまでコンビニや飲食などに留まっていた利用企業が、人材や銀行、保険、不動産、通信会社など一気に広がることになった。

ギアチェンジを終えたギフティはここから上場への道のりを駆け上がることになる。(次回につづく)