【インタビュー】「Google」から「giftee」まで、ウェブデザインを手がけて10年。「いま、ここでしかできない」を形にすること

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「Google」や「オロナイン」など有名企業と仕事をする一方で、「greenz.jp」や「giftee」などスタートアップのウェブサイトも手がけるnD inc.のウェブデザイナー、中原寛法さんにインタビュー。

いまの仕事をするようになって今年で10年。ウェブデザインは自分にとって「遊び」に近いと話す中原さん。いつでもアイディアに溢れてる彼が、余暇時間でつくったユニークなサイトなどを交えてお伝えします。

画像工学科を経て、大学院ではユニバーサルデザインを学ぶ

昔からデザインへの関心が高く、中学3年生くらまで積み木が異常に好きだったと話す中原さん。同じ車の形を少し色やパーツを変えて何度もつくってみたり。そんな彼が、高校生のときに初めて知ったのがMacの存在。NHKの番組に出演していたグラフィックデザイナーの立花ハジメさんが、撮った写真を加工する方法を教えているのを見たことがきっかけ。何これ!と衝撃を受け、大学に入ったらとりあえずMacを買おうと心に決めた。

大学は工学部、画像工学科で画像解析を勉強。4年のときの研究テーマは、NASAの衛生が撮った海のデータをもとに植物プランクトンの分布を調べること。宇宙開発などの仕事に就く人が多い中、大学をドロップアウト。その後、大学のデザイン学科でユニバーサルデザインを学んだそう。当時流行していた「ユニバーサルデザイン」は、文化、言語、老若男女問わず誰でも使えるデザインを設計すること。中原さんが研究/デザインしたのは、目の見えない子どもと目の見える子どもが一緒に遊べる音のおもちゃだった。

ツールを使いこなすうちに気づくとウェブ制作の世界に

主に塾講師のアルバイトをしていた大学時代、知り合いのウェブ制作会社がたまたまデザイナーを募集しているのを知って自ら手を挙げた。もともとPhotoshopを使ってフライヤーや写真をつくったり、当時新しかったFlashで映像をつくって遊んでいた中原さんにとって自然な流れだったそう。

また、企業が製品の使いやすさなどの調査を依頼するユニバーサルデザインの調査会社でもアルバイト。データを元に、Adobe Illustratorでグラフをデザインしたり、プロセスを効率化するためのAppleScriptのプログラミング、Adobe Indesignを使った画像や文章データのDTP作業などを担当。ページ数が膨大な企画や提案書の文字スタイル・テンプレートパターンを工夫して柔軟なつくりにするなど、ウェブとも共通する考え方が鍛えられた。

そんなアルバイト経験を経て、徐々に「デザイン」の世界に踏み込んでいった。就職活動は一切せず、大学院を出てすぐフリーランスのウェブデザイナーに。nD inc.という株式会社にしたのは3年前。駆け出しの頃は、大学時代にお世話になった会社に仕事を発注してもらい、それをきっかけに口コミで案件が舞い込むようになっていった。

自分の「こんなのあったらいいな」を企業が採用

一時、趣味としてハマっていたのが走ること。その延長線上で何か面白いことができないかと思いついたのが、自分の代わりに旅行をしてくれるウェブサイト。バーチャルなキャラクターが、ひたすら日本を横断して写真を撮り、その場所を見せてくれる。アイディアのラフを打ち合わせでたまたま見せたところ、最終的にある大企業の企画で採用されることが決定。中原さんが好きに描いていたキャラクターごと採用されたんだそう。

当時はフリーランスで活動するウェブデザイナーがまだ少なかった。大手企業が外部の人間に仕事を発注することも珍しい中、その仕事を皮切りに、GoogleとGoogle Mapを使ったキャンペーンのプロジェクトを行うなど仕事の幅が広がって行った。

「今でこそ、会おうと思えば会えるグーグルの人…でも当時はかなりビビりながら、それでも猛勉強して打ち合わせに望みましたね。出来上がったサイトの評判は上々でした。この仕事をきっかけに、以降、選挙の仕事なども一緒にやらせてもらいました」。

遊びをウェブサイトとして表現

アイディアが尽きない中原さんが、自分の「こんなのあったらいいな」をもとに実際につくったサイトはいくつもある。今回の記事では3つご紹介します。

「fancy search」

Google Seach API をつかった、ファンシーな気分になれる検索サイト「fancy search」。私たちが使う検索結果画面はすごく機能的な反面、その画面を知ってしまっているから入力する検索ワードも機能的なものになってしまう気がしたと話す中原さん。「疲れちゃった」とか、例えば、試しに感情を検索してみようと思うようなインタフェースに変えてみたそう。

「Othello War」

盤面/マス目が広がり、ほぼ負ける敗北感を味わうオセロ「othelloWar」。誰もが知ってるゲームのシンプルなルールを少し変えてみようと思ったのがきっかけで生まれたサイト。「マスの数が増える」というルールに変えることで「角を取る」という定石が消え、さらにいろいろ変えて、最終的に「必ず負ける」後味の悪いゲームに出来上がった。

「TagSight」

自分の好きなキーワード(タグ)をベースに情報収集できるサイト「tagsight」。del.ici.ous、flickr、タギングなどCGMが盛り上がっていて、それを使って興味のあるタグで見られる雑誌っぽいサイトをつくりたかったそう。

サイトは重心が大事

最近、中原さんがテクニカルディレクションや実装で制作に携わったウェブサイトには、大塚製薬オロナインの公式サイト、Googleの「Go 節電 プロジェクト」、「丸の内 SUPER COOLBIZ」、また人気ウェブマガジン「greenz.jp」などがある。これまでの実績はnD inc.のウェブサイトにあるWorksをどうぞ。

オロナイン公式サイト

インパクトがある、オロナインが中央にどーんと構える公式サイト。スクロールすると、オロナインがくるくる回る仕掛け。サイトデザインへの反応は上々で、Twitterなどでもポジティブな意見が届いたそう。

「ウェブは建物っぽい感じがするというか。重心の座りがいいかどうかは大事にしています。個人的に強い感じのビジュアルが好きなのもあるけれど、余裕がありそうで安定感がある感じがいいんです。その一例が最近つくったオロナインのサイトですね」。

Go 節電 プロジェクト – powered by Google

Googleによる節電ツール「Go 節電 プロジェクト」。中原さんはディレクション、デザイン、一部実装を担当。情報量が多かった「Go 節電」では、コンテンツの整理に時間をかけつつ、プロトタイプをいくつも組んで進めていった。

丸の内 SUPER COOLBIZ

「すずしいね」ボタンのディレクションを担当した「丸の内 SUPER COOLBIZ」。ちょうど、いいね!ボタンを押すのが盛り上がって来た時期、テーマに合わせて新しいボタン「すずしいね!」を導入した。

giftee

gifteeのデザインでは、どのカフェ/商品がきてもはまるデザインを心がけました。いわゆる「ギフト」なデザインではない感じというか。ただ、カフェ/商品を集めたのではなく、gifteeのブランドが見えることも大切にしましたね。デザインの見た目でも、やりたいこと、ユーザのメリット、サービスとしてのトーンが見えること。他のサービスに似ているサービスであっても、独自の部分がちゃと見えるものは、良いなと思います。ちゃんとブランドとして成立しそうな感じだとなお良いですね。」

昔はウェブもサブカルだった、タイミングと文脈が鍵

ウェブ制作の仕事をするようになって祝10年。ウェブの存在そのものの意味、デザインの傾向の変化を目の当たりにしてきた。昔はウェブもサブカルチャーだったと話す中原さん。あらゆることが自分流で、DIYな感じだった。

大学4年生の頃、「最初のウェブサイトは、就職をきっかけに遠距離恋愛になる彼女がいて、2人の連絡用の掲示板でした。スマホもない時代で、掲示板なら図書館とかからも連絡がとれたので。よくわからないままプログラムをダウンロードして、見た目を色々いじってフリーのサーバにあげました。アドレスを知らなかったら誰も見ないし、そもそも見つけられない。その頃はまだGoogleを知らなかったから、まさか全ページがクロールされる世の中がくるとは思ってなかった(笑)」。

自分でサッとウェブサイトを立ち上げてしまった。そんな風に、昔はいい意味でウェブにサブカルチャーっぽさがあった。今でも2チャンネルはその名残がある気がする、と。規格が決まっていないため、当時は使いやすさよりもインパクト重視。いまはウェブやウェブサイトが当たり前になりすぎて、洗練された使いやすいデザインが追求されてる。そんな中でも、手がけたサイトの中で成功したものにある共通点は?と尋ねてみた。

「“いま、ここでしかできない”はあると思います。結局、発想力や企画力に関係するところですけど。例えば昔アニメーションGifってありましたよね、new newってぴこんぴこんするやつです。当時は見飽きててから何で?って思ったけど、今やってたらちょっと新鮮な気がするかもしれない。“タイミングと文脈”は大事。

また、技術的な新しさってユーザに理解されないないんです。だから見せ方やプレゼンテーションを工夫しなきゃいけない。古い技術や枯れてしまったものでも、上手く見せるとあ!ってなったりする。逆にすごく高度なものをまんま見せても、へーの一言で終わってしまったり。タイミングと文脈、また見せ方は鍵だと思ってます」。

インスピレーションは「LittleSnapper」 と「LITTLE BIG DETAILS」

銀行の待ち時間に自分では買わない雑誌や新聞に触れる、電車の中吊りに目を配る、タクシーの運転手さんと何気ない会話をするなど、自分の仕事や興味と関係ない「偶然接する話題」に興味があると話す中原さん。アイデアを思いつくのは、朝起きたとき、お風呂に入ってるときが多いそう。

「手を動かす前の段階で、デスクに向かって「さあ、考えよう」みたいなことはあまりしないですね。アイディアやデザインに行き詰まったり迷ったらまず人に意見を聞きます。デザインを考えるプロセスでも、「あいだをおく」ことを大事にしていて。手書きで書いたラフを、半日後など少し時間を置いてもう一度見てみるんです。しっくりくるまでトライアンドエラーを続けます」。

そんな中原さんが普段から使っているのが、「LittleSnapper」。ひたすらウェブサイトのキャプチャをアーカイヴできるMac用のアプリケーション。気になったデザインやパーツは全てそこにストックしてる。ちょっと空いた時間なんかがあると、それをちょこちょこ見てみたり。一番最近クリップしたのは、ユニクロの「クールビズ」のウェブサイト。ちょっとした線だったり、日差しがつくる陰の感じなど、細かいディテールが好きだそう。

「デザインがかっこいいってのもありますが、きちんとネタを仕込むところが上手いです。設定で、クールビズを実践してる弁護士がいるんですけど、弁護士の友達が『こんな弁護士いないよー』とかって盛り上がりました。たぶんネタなんですよね、その辺もいいなあと思います」。

「Whytelist」のコンセプトも好きだそう。ECサイトがこれだけ乱立すると、結局お店を選ぶ理由は安さになってしまう。そんな中、「この人から買いたい」という発想に基づく「Whytelist」はユニークだと。

「知り合いに、レコード屋をずっとやっていた音楽好きの人がいて。昨今の音楽不況で店をたたんじゃって今はCDを手売りで売ってるんです。岡山に住みながら、ライブなどをきっかけに東京に来る度に大量にCDを持ってきてくれる。それを実際に聞いて選んで買える。“流しのCD屋”です。そもそもレアなCDを扱ってるんですけど、彼にファンがいて、彼から買うことの意味合いの方が大きい。そういうのって魅力的だなって思います」。

また、インスピレーションの源として最近特に気に入っているのが、ウェブサイトのパーツをキャプチャしたものが収集された「LITTLE BIG DETAILS」。リロードボタンなど、細かいエレメントレベルでデザインが集まってるそう。切り口が可愛くて、サイトの名前がまたおしゃれ。

面白いアイディアをどんどん形にしたい

最後に、中原さんご自身について幾つか質問をしてみました。

Q。モットーは?
面白いことを面白くやりたいです。例えば、思いついたアイディアを3日間キャンプに行っていっきに作っちゃうとか。Wieden+Kennedyと仕事をさせてもらう機会が何度かあったのですが、その会社の人・カルチャーにはすごく勉強させられました。お客さんと話をしてて、絶対いける!って思えるものと、それはなーって感覚のものがあって。前者の感覚を大事にしたい。そういう時って、その日のうちに全部思いついちゃう感じなんです。

とりあえずFacebookログインありきみたいな、普通な方法じゃない方が好きです。流行で、やれブログだ、Twitterだ、みたいなことより、目的を踏まえてそれを達成する最適な方法を選びたい。インターネットはすごく大好きだし、テクノロジーってすごいって思う反面、なんでもかんでもインターネットを経由してやることはないとも思っています。その辺のバランスというか。

Q。お気に入りの本やバイブルは?
捨てない本はいっぱいあります。中でも気に入っているのは、「アンビエント・ファインダビリティーウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅」と、「社員をサーフィンに行かせようーパタゴニア創業者の経営論」。ちなみに最近社員を一人雇ったんですけど、彼は初日からサテライト勤務で千葉の一宮に住んでいて、朝はサーフィンしてから、うちでエンジニアをやっています。

Q。自分の強み、弱みは?
「できるんじゃないですか?」ってすぐ言ってしまうところ。そのあと以外と大変で必死に頑張るみたいな。全然できないことを言うわけじゃないですけど。あと、いいアートディレクターと一緒に仕事ができたらいいなと思います。自分が作ったものをいいねとか面白いって言ってもらえると、もう一晩寝なくても頑張れるかなって思えるし。

強みは、柔軟なこと、タフなこと。とにかく体力とか気力はあるから、面白いと突っ走れる感じ。あと、こうでなきゃいけないみたいなこともあまり気にしないことかな。

Q。いまの自分のゴールは?
自分のいろんなアイディアを形にすること。それに近づきたくて最近社員を雇いました。どんどん生み出せる状態ができたらいいなって思う。そんな体制みたいなものができたら嬉しいです。3人くらいのチームでガンガンつくってくとか。やってみないとわからないことって沢山あるから、とりあえずやってみればいいって思ってます。

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