海外展開のハードルはどこにーー海外進出3つのルール(1)

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本稿は1月に開催されたオンラインイベント「BRIDGE Tokyo」で配信したセッション動画です。アクセンチュア・ベンチャーズ)はグローバル化するスタートアップシーンに必要なノウハウやトレンドの話題を提供しました。

中国スタートアップ市場の話題に続き、今回のテーマは海外進出です。

マス向け商品の広告がテレビ地上波の CM などでプロモーションされる先進国とは対照的に、アジア太平洋地域では Google や Facebook などが広告プラットフォームとして多用されます。それゆえプログラマティック広告は、アジア太平洋地域で成長が著しいバーティカルの一つです。

一方、アジア太平洋地域と言っても国や地域によって法律や規制、現地のビジネス慣習、現地社員の雇用方法などはさまざまです。

スタートアップが事業拡大する上で国際進出は至上命題であり、その問題をどう解決すればいいか。オランダに本拠を置きながら、アジア太平洋地域にの数多くの国に進出するプログラマティック広告のスタートアップ BidMath CEO の KK Sharma 氏と、さまざまなスタートアップの国際事業展開を支援されてきたアクセンチュアの三木陽介さんにお話を伺いました。

池田:お時間をいただきありがとうございます。このセッションで議論する内容ですが、ご存じのように、多くのスタートアップが世界規模や地域規模で事業を拡大しようとしていますが、同時の多くのスタートアップが失敗や困難、それに対処すべき多くのことに直面するでしょう。

従って、グローバルスタートアップがどのように世界拡大しているのか、事業拡大しているのか、そういった話を聞くことには大変興味があります。今日は2人の素晴らしい方にお話を聞きたいと思います。お一人はインド/アムステルダム(オランダ)からもうお一人は東京からです。ではまず三木さん。どういった仕事をされているか、簡単に自己紹介していただけますか。

三木:ありがとうございます。三木といいます。アクセンチュアでExperience Architecture Manager をしています。デジタル広告やデジタルマーケティング業界を17年超にわたり経験し、そのほとんどを、海外進出や日本進出を図る顧客企業の事業拡大の支援に費やしてきました。

顧客企業が抱えるビジネス課題の分析、問題の可視化、戦略立案、ソリューション構築、アイデア実行などにも従事してきました。ここ数年は企業が新会社を設立したり、買収したり、主にアジアですが、海外進出したりするのを支援しています。

池田:ありがとうございます。次に KK Sharma さんです。彼の会社の本社はアムステルダム(オランダ)にありますが、今日はインドにある彼のホームタウンから参加してもらっています。では、Sharma さん、どんな仕事をされているか簡単に自己紹介をお願いできますか?

Sharma:お招きいただき、ありがとうございます。KK Sharma、BidMath の共同創業者兼 CEO です。私はインド出身で教育もインドで受けて育ちましたが、その後、東南アジアで生活・仕事を始め10年超経ちました。東南アジアでは、特に英国や欧州の企業が東南アジアや香港などに進出するのを支援していました。

2020年7月、バンコクのオフィス(アジア地域ハブ)開設時のイベントの様子。(Photo credit: BidMath)

1年半ほど前にシンガポールからオランダに移住しました。そしてオランダで、パートナーと共に BidMath を設立しました。BidMath は、Enora Media Holding の支援を受けており、この会社の本社もオランダのアムステルダムにあります。

しかし、職業経験から言えば、私はアジアで業務従事し、事業展開してきました。東南アジアで事業拡大したり会社を設立したりしていますし、そういった自らの経験に加え、他の会社の話も耳にしますので、彼らがどのように進出し何が困難でそれをどう克服しているか、なぜ、東南アジアに進出すべきかなどについてお話ししたいと思います。

池田:ありがとうございます。Sharma さんの会社の名前 BidMath には、科学的な響きがありますね。ビジネスか何かへの科学的なアプローチを意味するのでしょうか。今、どういったことをやっているのか、もう少しお話しいただけますか?

Sharma:はい。オランダを本拠地としてデジタルメディアソリューションとコンサルティングを提供しています。企業が消費者とうまく繋がれるように、広告やメディアキャンペーンの計画、作成、最適化を支援しています。

しかし、BidMath が特に特徴的なのはデータと機械学習を使い、最適なタイミング、最適な場所、最適なデバイスで企業と消費者を繋げられるという点です。例えば、自動広告出稿や運用型広告プラットフォームを使って実現できます。BidMath は2019年に設立され、アジアでの事業に注力しています。

そこで、アジア太平洋地域のハブをバンコクに開設しました。ホーチミンシティ、東京、香港には営業拠点、インドのハイデラバードにはデータサイエンス拠点があります。我々はブランドに対して、オンラインメディアキャンペーンを提供しています。動画・ディスプレイ・音声・ネイティブなど、広告の形式は多岐にわたりますが、もう一つの事業領域がコンサルティングでブランドが最適な方法、技術、ツールを評価・選択できるよう支援し、事業上の困難解決や目標達成を支援するわけです。

Google Analytics、Adobe Analytics などプラットフォームの経験を持つ我々のチームメンバーが、ブランド各社にトレーニングを提供しています。また、BidMath はトレーニングプログラムも提供しています。ブランドやエージェンシー向けに開発したトレーニングプログラムでは、彼らがデータを複数のデジタルメディア・プラットフォームを活用できるよう支援します。概要はそんなところです。現在は日本を含むアジアに注力していますが、将来は南米、中欧や東欧への進出にも興味があります。

池田:ありがとうございます。2019年の設立ということですから、また創業3年? 4年?3年を過ぎたばかりということで、まだ若い会社ですね。今回はBidMath さん、そして、Sharrma さんを三木さんから紹介いただきました。世界展開で何が大変かを理解するためにですね。三木さんからも紹介いただけますか?Sharma さんとは、どのように知り合いになられたのですか?

三木:はい。BiMath は最近、東南アジアに進出したのですが、タイやベトナムでデジタル広告やデジタルマーケティングの分野で、ビジネスパートナーとして、顧客やプロジェクトのために協業しています。そういった東南アジアの国々で協業しています。それで知り合いました。

海外展開のハードルはどこに

池田:ありがとうございます。では、議論するメインの話題に移りたいと思います。まず、Sharma さんに対する質問ですが、元々いた地元から、他の市場へ事業を拡大するときに、最も難しかった点は何でしょうか?というのも、貴社は欧州のアムステルダムに本社があって、そこからアジアや日本市場に進出するわけですね。他の大陸、異なる文化を持った他の市場だったりするわけです。何が最も難しいですか?

Sharma:極めて難しいですね。欧州に本社があってアジアに進出する場合、特に我々は東南アジアに注力しています。シンガポールや香港にオフィスを開くことは簡単にできます。それこそ、24時間で会社を開くというようなことも。

でも、我々はアジア市場に進出して現地市場に適合するために、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアにオフィスを開設しました。一言でアジアと言っても、そこには多くの国がありますね。特に東南アジアについては常に難しいですね。なぜならアジア、なかでも東南アジアに進出する企業は特に、考えるべき3つの点があるからです。

まず最初は法令ですね。アジア各国には、実にさまざまな法令があり、投資や進出を図りたい外国企業にとっては複雑なものです。私が見てきた中で特に複雑だったのは、現地の人を株主に入れなければいけない制度ですね。外国企業が会社を設立する際には避けて通れない部分です。多くの国は、それぞれ自国の経済の中で規制を設けています。タイやベトナムにオフィスを開設したときにわかったことです。

他に難しい点としてはこういった国々でオフィスを開設する際、自社の知的所有権や独自技術が犠牲になる法律システムです。明らかに法令システムは最も難しいことの一つです。この問題を克服するには、適切な法律チームと手を組むか現地の適任者を雇うべきです。現地会社を設立したり、営業を開始したりする前にやらなければならないことです。

第2の点としては西洋とは違った、独特のビジネス文化ですね。これは、極めて重要な部分になるでしょう。アジア市場に進出を図る多くの西洋企業にお伝えしてきたことですが、西洋のビジネス文化は全く通用しないと思います。一言でアジアと言ってもそこには40超の国があり、それぞれの国に独自の文化と言葉があります。

これは特に西洋から進出しようと企業に重要なことです。例えば、今でもアジアでは政府事業は現地語で行われるので、現地のビジネス文化に適合させるために、運営をローカライズし、現地人材を雇用することは重要です。我々がアジアに進出して分かったのは東南アジアではビジネス文化は階層的で、人々はグループで仕事するということ。個人で自己完結する西洋とは対照的です。

こうしたことはアジアに進出するときには非常に重要なので、注意するようにしてください。さらに気づいたこととしては、全てのアジアの国々に当てはまることではありませんが、多くの国々で、金融規制や法令が西洋とは全く異なるという点です。これらの市場に参入しようとする西洋企業にとってはリスクになり得ます。ここでも、先に述べたのと同じアドバイスができます。現地の法律事務所や監査法人と契約し、進出の前に現地の法令や経済構造を理解することです。

国ごとに通貨が異なることも多くの課題を生みます。新興市場では通貨の価格変動も大きく、事業に影響を与える可能性があります。法令システム、ビジネス文化、金融規制が異なるということ。これら3つが、海外進出を考える上で重要な点でしょうね。

次編に続く)

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