カラオケ事業からピボット、AIでアジア700社をDX支援する台湾iKala(愛卡拉)——東京オフィスを10名体制へ

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iKala(愛卡拉)の共同創業者兼 CEO Sega Cheng(程世嘉) 氏
Image credit: iKala(愛卡拉)

台湾に本社を置く AI スタートアップ iKala(愛卡拉)の共同創業者兼 CEO Sega Cheng(程世嘉)氏は言う。

今日のグローバル市場では、デジタル製品やサービスは非常にローカライズされたものにする必要がある。

創業から11年の同社は、香港、日本、そして東南アジアのほとんどの国で事業を展開している。そして、事業拡大からわずか6カ月で日本の有名企業5社を顧客に獲得した。この台湾のスタートアップが、海外でこれだけの収穫を得ることができたのは、いったいなぜなのか。

オンラインカラオケのプラットフォームが、突然 AI 企業に変身するとは誰も思わないだろう。しかし、2011年に設立された台湾スタートアップ iKala は、まさにその道のりを経て、驚異的な成功を収めたのである。

共同創業者兼 CEO の Sega Cheng(程世嘉)氏(左)は、iKala をオンラインカラオケプラットフォームから AI スタートアップへとピボットさせた。右は、iKala の取締役を務める、元Google 台湾の社長 Lee-Feng Chien(簡立峰)氏
Image credit: iKala(愛卡拉)

大規模な変革は、まず2015年に iKala が B2C から B2B へとビジネスモデルを変更したことから始まった。ライブストリーミングプラットフォームではなくなったこのスタートアップは、企業にデジタルトランスフォーメーション(DX)のソリューションを提供するため、最初の AI 製品「iKala Cloud」を生み出した。

その後、2018年にはさらにサービスを MarTech に拡大し、インフルエンサーマーケティング向けの「KOL Radar」とソーシャルコマース向けの「Shoplus」という2つの主力製品で、ブランドや企業がデータドリブンなマーケティング戦略を打ち出すのを支援するようになったのだ。

特に iKala が元々行っていた分野は現在の分野とはかなり異なっていたため、立て続けの変化に多くの人が驚いた。しかし、iKala 共同創業者兼 CEO Sega Cheng 氏は、次のように語っている。

トランスフォーメーションとは、変化することだと誰もが思っている。しかし、実際には2つの部分が含まれている。「変わるべきでないもの」と 「変えるべきもの」だ。

外見上は劇的な変遷を遂げたように見えるが、iKala のコアバリューとテクニックは揺るがなかった。

変わらないことが最も重要だ。iKala は、これまでずっとクラウドと AI データ分析という重要な研究開発技術を変えなかった。 (Cheng 氏)

それから約7年後の2022年、その大胆な行動は正しかったことが証明された。

台湾、日本、東南アジアのほとんどの国で事業を展開する iKala は、アジアを代表する AI 企業の一つとなった。Fortune 500 を含む700社以上の企業顧客が、同社のソリューションを利用して業務効率とマーケティングパフォーマンスを向上させている。

現在、Google、Facebook、TikTok の信頼できるビジネスパートナーである iKala は、昨年、30~40%の成長率を維持し続け、会社全体の売上を約10億ニュー台湾ドル(約46億円)にまで押し上げた。

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グローバリゼーションに始まり、ローカライゼーションに終わる

iKala の成功の鍵は、グローバリゼーションとグローバル・ローカライゼーションの2つのステップに分けられる。

2018年に iKala Commerce(KOL Radar と Shoplus を含む)を開始して以来、同社はインフルエンサーマーケティングとソーシャルコマースツールで東南アジア市場をターゲットにすることを決定したのだ。

iKala は昨年、台湾ファミリーマートと提携した。
Image credit: iKala(愛卡拉)

その理由は、Cheng 氏が指摘するように、東南アジアではソーシャルコマースでの購入が大幅に増加しているためだ。2021年、マレーシアでは注文件数が186%、GMV(流通総額)が207%急増、またフィリピンでは注文件数が129%、GMVが74%増加したという。

しかし、台湾と比較的市場が似ている ASEAN —— シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシアに進出したところ、課題が見えてきた。iKala の製品は市場競争力があったが、最大の問題は現地でのコネクション不足だったようだ。

例えば、KOL Radar は、リアルタイムのデータ分析、レコメンデーションエンジン、そして本格的なサービスチームを統合し、ブランドが適切な KOL を見つけることを支援する製品だ。しかし、Cheng 氏は次のように述べている。

例えば、タイで最も有名な YouTuber は誰なのか、他の国で人気のあるローカルインフルエンサーは誰なのか、私たちにはわからない。

この問題に取り組むため、iKala はまず、ユニリーバ、タイの有名なハンドメイドバッグブランド「NaRaYa」、ペプシコ・フィリピンなどの国際的なブランドや企業へのサービス提供を開始した。

こういった顧客にアプローチすることで、徐々にローカルマーケットでの接点を得ることができるのだ。(Cheng 氏)

一方、iKala では、東南アジア市場を担当するプロダクトマネージャーとして、現地人材を採用するようにした。また、台北の本社では、タイ語を話せる、あるいは少なくとも理解できる人材を採用した。

エンジニアリングと AI の経歴を持つ Cheng 氏は言う。

デジタル製品やサービスは、現地に根ざしたものでなければならない。今日のグローバル市場では、画一的な製品は存在しないだろう。

これまで、同社のソーシャルコマース・プラットフォーム Shoplus は、東南アジアの17万以上の企業、ブランド、個人商店にサービスを提供してきた。そして毎年、iKala は約450万件のソーシャルコマース取引を完了し、1,000万人を超える東南アジアの買い物客にリーチしている。パンデミック時には、タイでの需要が500%増加し、GMV は約20億ニュー台湾ドル(約91億円)にまで上昇した。

最大79万人のIT人材不足に直面する日本市場の需要

しかし、日本に進出する場合、同じ戦略は通用しない。

東南アジア市場のスピード感に比べると、日本市場にどう足を踏み入れるかは全く違う。(Cheng 氏)

昨年、東京にオフィスを開設した Cheng 氏は、この進出を長期的な投資と位置づけた。

時間がカギになる。日本は定着するまでに時間と労力がかかる市場だ。(Cheng 氏)

つまり、日本では顧客やサプライヤーとの関係を重視するため、相互の信頼関係が徐々に構築されて初めて、他の企業と手を組むという傾向がある。しかし、一度信頼を得れば、安定した長期的な協力関係が約束される可能性が高い。

では、どうすれば外部の人間が日本企業の信頼を勝ち取ることができるのだろうか。Cheng 氏は次のように答えた。

日本の市場に何が足りないのか、どうすれば新しいものを持ち込めるかを考えることだ。

iKala(愛卡拉)の共同創業者兼 CEO Sega Cheng(程世嘉) 氏
Image credit: iKala(愛卡拉)

日本の公式報告によると、2030年までに世界第3位の経済大国である日本は、最大79万人の IT 専門家の人材不足に直面することになる。データや科学的研究に基づくブレークスルーを目指す傾向が強い多くの日本企業にとって、差し迫った危機であることは間違いない。このような流れの中で、Cheng 氏は日本市場におけるインフルエンサーマーケティングと CDP(顧客データプラットフォーム)の需要が旺盛であることを発見した。

KOL Radar が収集した15万人以上の海外インフルエンサーリストを持つ iKala は、日本ブランドの台湾や東南アジアへの輸出を支援することができる。その上、トップクラスのテック人材がいるという台湾の評判に基づき、iKala のデータ分析とAI技術は、ヨーロッパ、アメリカ、日本の競合他社の中でトップ10に入ると評判だと Cheng 氏は主張する。

iKala の充実した技術力とは別に、Cheng 氏は海外での成功のもう一つの重要な要素である顧客志向を持ち出した。

CSM(カスタマサクセスマネージャー)やCE(カスタマエンジニア)など、技術サービスの人材は厳しく評価される。彼らは唯一無二の存在なのだ。(Cheng 氏)

言葉の壁がないように、iKala では最前線で接客する社員はすべて日本人であることを要求している。また、技術サービスを担う人材を募集する際も、それ自体が優れた技術力であるよりも、カスタマサービスをより深く理解できる人材を求めているのが、iKala の特徴である。

人間中心の考え方と高い技術力で、iKala は半年で美容業界を中心に5社もの日本の有名企業やブランドから受注を獲得した。

Cheng 氏は日本での実績を次のように語った。

これは、我々がますます国際的になっていくことを意味している。

2年後の IPO が目標、希望と期待は分けて考えるべき

グローバル・ローカライゼーション」を実践し続けるために、iKalaは 今年、日本チームを2名から10名に拡大する予定だ。そして、当面は日本市場がメインで、それ以上の拡大は考えていない。

2年後のIPOに向け、iKala を変革するための一つ一つの決断を振り返り、成功の鍵は「常に希望と期待を分けて考えること」だと Cheng 氏は語った。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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