期待される「カルシウムイオン電池」の可能性、とあるスタートアップの実用アプローチ

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Photo by Lisa Fotios

ピックアップ:gBETA Startup Accelerator Names Spring Cohort

ニュースサマリ:ウィスコンシン州拠点のスタートアップアクセラレーター「gener8tor」は6月、育成プログラムgBETA Bloomington-Columbusに選出された5社を発表している。7週間のプログラムでシード期の育成を受けたのはハイブリッド自動車向けエンジン交換プロトタイプを開発するAeroflux、医療用レーザー開発のHalophore、教育スペースのThe Hive、カルシウムイオン電池によるハイブリッド動力開発のPerpetua Technologies、翻訳者マッチングのTradualityの5社。

話題のポイント:温室効果ガス削減など環境対応もあって加速しているのがエネルギーの転換です。特に需要が大きくなっているリチウムイオン電池については別記事でも関連技術をお伝えしました。

一方でリチウムイオン電池が持つバッテリーサイクルや、希少金属であるがゆえのコストと将来的な供給量への不安、また電気自動車や貨物列車の要求に耐えられるほどの大容量化への限界が知られるようになった1990年代以降、「脱リチウムイオン電池」の動きは様々なアプローチで行われてきました。

代表的なものはナトリウムイオン電池、亜鉛などの金属負極を利用した金属空気二次電池、多価カチオンを利用した多価カチオン電池、リチウム,ナトリウム,マグネシウム,カルシウムなどのs-ブロック金属を利用した二次電池などがポストリチウム電池として期待されています。

中でもカルシウムイオン電池は、リチウムイオン電池のリチウムをカルシウムに置き換えた構造であるものの、カルシウムが2価イオンであるため1価イオンのリチウムより高容量の電池が設計可能です。さらに地球の地殻中に5番目に多く存在する元素とされているため供給面・コスト面においても優れており、次世代蓄電池として研究開発が活発に進められてきました。しかし、これまで電子が2個に増えたことでエネルギーが高くなりすぎ、電極、電解液ともに耐えられる条件の発見には至っていません。

最近では2021年に東北大学の材料科学高等研究所、折茂慎一教授と木須一彰助教授が発表した研究成果が、高いイオン伝導率と電気化学的安定性を持つとして注目を集めており、大きなブレイクスルーとして実用化に向けた開発が進んでいくことが予想されています。

カルシウムイオン電池のメリット(Perpetua Technologiesウェブサイト)

さて、今回取り上げたアメリカのPerpetua Technologiesは、このカルシウムイオン電池を実社会で取り扱おうというスタートアップです。といってもシード期のアクセラレーションプログラムを卒業したばかりの企業で、Elavete VenturesというVCから2万ドルのプレシードマネーを獲得したこと以外は情報がほとんどありません。彼らはこのカルシウムイオン電池をICEモーター(一般的なガソリンなどによる内燃エンジン)と組み合わせ、列車やトラックなどのハイブリッド動力として使った場合の試算を公開していて、実現した場合の経済性の高さを訴えていました。

例えば列車にICEモーターとリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッド動力を使用した場合、通常、100マイル毎に必要とされるメンテナンス時までにリチウムイオン電池は3から5回の交換が必要になるそうです。彼らはこの交換時に必要な費用を1回あたり20万ドルと試算しました。

一方、カルシウムイオン電池にすれば、この100マイルのメンテナンス期間までに電池交換の必要はないとしています。つまり、60万ドルから100万ドルかかる交換費用が大きく軽減できる、というわけです。ちなみにマサチューセッツ州拠点で、バッテリー開発を手がけるAmbriのカルシウムおよびアンチモン電極のセルは一般的なリチウムイオンのセルに比較して3分の1の価格を謳っています。

カルシウムイオン電池の可能性は現段階で未知数ですが、実現すれば価格の面で大きなアドバンテージが生まれるのは確かなようです。

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