本稿はホテルブランド開発NOT A HOTEL代表取締役、濵渦伸次氏のnoteからの転載。近年、重要性が増しているESG・持続可能(サステナビリティ)な社会作りに対する現実解として学ぶべきことが多い内容だったのでご本人の許諾を得て転載させていただいた。原文はこちらから

『ワクワク』と『サステナビリティ』の両立
僕らNOT A HOTELが追求するのは「超ワクワク」です。
その一方で「サステナビリティとどう両立させるか」も常に考えています。いまよく言われているサステナビリティとかSDGsというのは「地球のために我慢しよう」というニュアンスが強いなと感じます。でもそれだと、結果的にみんな持続できなくなっちゃうんじゃないか、とも思ったりします。
NOT A HOTELが目指しているのは本当の意味での持続可能性です。「ワクワク」しながら「持続可能性」を実現させたい。ではどうやって実現させようとしているのか? 今回はそこについてお話ししてみたいと思います。
NOT A HOTELは「もったいない」から始まった
NOT A HOTELを始めようと思った背景が2つあります。
ひとつは「使われていない別荘がある」ということ。もうひとつは「ホテルの稼働率が低い」ということでした。ようするに「使われていない建物があって、もったいないよね」ということ。そこを解決できないかと思ったこともNOT A HOTELを始める大きな動機になりました。たとえば別荘は「夏の1ヶ月だけ使って、それ以外は空き家になっている」といったケースをよく見ます。オフシーズンに軽井沢などにいくと、使われていない別荘がたくさんありますよね。
「使われない別荘」がどんどん建てられている。これはもったいない!
そこで僕らは「シェア購入」という仕組みを取り入れることにしたんです。ひとつの建物の権利を12人で共有できるようにした。こうすれば「使うぶんだけ買う」ということが可能になります。この仕組み自体にサステナビリティがあるんじゃないかと思うのです。
稼働率100%の建物を目指す
僕らが大切にしていることは「ひとつの建物を無駄にしない」ということです。いまは別荘が年に20日しか使われていなかったり、高級ホテルの稼働率も10%から20%くらいしかなかったりします。せっかく作ったものがあまり使われていない。
そこで僕らは「建物を所有する」だけではなく「建物を利用する」ことも促していきます。NOT A HOTELの所有者は、自分が使わないときは「ホテル」として稼働して、誰かに使ってもらうことができます。もちろん住宅や別荘としても使えますし、自分がいないときは誰かに使ってもらうことができるのです。
先日リリースした「NOT A HOTEL NFT」の目的も、365日の所有権をランダムに割り振って、稼働率を100%にすることを目指しています。
「使われない空間」をとにかくゼロに近づけたい。これは環境的にはもちろん、経済的にも理にかなっています。たとえば高級ホテルの利用者は「空室分の宿泊料」を払っていたりします。つまり「使われない空間」にお金を払ってしまっている。「所有と利用を組み合わせる」という仕組み。それによってNOT A HOTELが「無駄のない建物」になる。
これは環境的にも経済的にもサステナビリティがあると思います。
「仕組み」で世界をよくしていく
僕らはこのサステナビリティの問題を、新しい「仕組み」で解決できないかなと思っています。もちろんひとつの建物で「CO2を何%カットしました」とか「何割効率化しました」とやるのもいいのですが、それよりもそもそも建物を12分の1にしたほうが超合理的です。
たとえばいま、青島のNOT A HOTELはプール付きの建物一棟を12人のオーナーさんで保有しています。もし「あの建物が欲しい」と思った人が、それぞれ同じ建物を作ったとしたら、けっこう大規模な開発になってしまいます。複数の人がひとつの建物をシェアする。しかもそのオーナーさんたちが使わないときには、ホテルとして稼働する。
その仕組み自体がサステナビリティがあると、最近はリアリティをもって感じているのです。
廃墟だった場所が豊かなランドスケープに
最後にこの写真を見てもらえたらと。
これは宮崎県の青島にあった「橘ホテル」の廃墟です。

この建物が取り壊され、瓦礫が埋まったまま数十年「空き地」になっていました。年間100万人が観光に訪れるエリアでありながらも、ずっと“空白”の時間が流れていたのです。実はここがNOT A HOTELはじまりの地である青島です。
僕たちはそこの瓦礫を撤去し、植物を植えるところから始めました。そこの一部に今回NOT A HOTELを6室つくることにしたのです。着工から2年半後の今、こうなっています。
廃墟だった場所が、これだけ緑豊かな空間になりました。
僕らがNOT A HOTELを作る場所はもともとすごく有名なわけではありません。宮崎も那須もメジャーな場所には作っていない。軽井沢も「北軽井沢」という少し外れたところに作っています。でも、そういう隠れた宝物のような土地に、素晴らしい建築をつくり、価値を上げることができれば、地域の方にも喜ばれる。宮崎は僕の地元でもありますが、それ以外のエリアでもこういった貢献ができれば、これほどうれしいことはないなと思うんです。
何もしなければ、その土地は寂れていってしまう。ワクワクするようなものがないと誰も集まらないし地域も発展しない。地域の発展やサステナビリティにはやっぱり「ワクワク」が必要だなと思うんです。しかも僕らは、決して山を大規模に切り開いて建築物を作ったりはしません。環境に配慮しながら作っています。むしろ廃墟だったような場所を自然たっぷりの場所に変える。
そうやって地域に貢献できるといいなと思っているんです。
目指したいのは「ヘドニスティックサステナビリティ」
「ヘドニスティックサステナビリティ(hedonistic sustainability)」は、世界的建築家ビャルケ・インゲルスが提唱している考え方です。彼はBIG(Bjarke Ingels Group)という建築事務所の創設者で、いまトヨタの「ウーブン・シティ(Woven City)」も手がけていたりします。
「ヘドニスティックサステナビリティ」は直訳すれば「快楽主義的持続可能性」。つまり「我慢」ではなく「楽しみながら」サステナビリティを考えようと言うものです。まさに僕らが考えている「世界をもっと楽しく」「ワクワク」と、世の中で求められている「持続可能性」を両立させる概念です。
これまでは「ワクワク」と「サステナビリティ」は分かれていました。サステナビリティというと、ちょっと説教くさかったり道徳の授業みたいな感じになりがちだった。そうではなくワクワクするサステナビリティ=「ヘドニスティックサステナビリティ」を実現できれば、それこそが本当の持続可能性になるはずです。
僕らは建物自体を「12分の1」にして、かつ、建物をワクワクするものにすることで地域も盛り上がって潤っていく。NOT A HOTELが増えれば増えるほど「ヘドニスティックサステナビリティ」という考え方が広がっていく。そうありたいなと思っています。
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