#27 web3時代の小売業、DAO運営実店舗の可能性と課題 〜DeStore大東CEO × ACV唐澤・村上〜

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本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容の一部をテキストとして掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を組み、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャストでは旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

インターネットが経済にもたらした最も大きなインパクトの一つはeコマースでしょう。30年以上前、webが世界で紹介され始めた頃には、この技術を使ってどのようなビジネスができるかは暗中模索でした。その後、高まるeコマースの需要が世界のテックジャイアントを次々と生み出したのはご存知の通りです。eコマースは一つのイノベーションでしたが、全く新しい大発明をしたというよりは、既にあった買い物のペインを、インターネットでどう解決できるか模索した結果、生まれたものと見ることができます。

一方、買い物のインターネット化で失われた体験もあるはず、ということで、近年は、OMO(Online Merges with Offline)のような動きもあります。分散型やトークノミクスといった、サービスを提供・享受する人々に新たなモチベーションをもたらしてくれるWeb3の仕組みを活用することで、買い物体験がどう変わっていくか、の一つの解を出しているのが今回ご紹介するDeStoreではないでしょうか。サンフランシスコで起業した大東樹生さんに話を聞きます。

ポッドキャストで語られたこと

  • DAO運営型「DeStore」を作ろうと考えたきっかけ
  • DeStoreが届けようとする、実店舗でしか得られない体験
  • DAO運営型の店舗で、参加オーナーにとっての重要な体験

大東:大東樹生と申します。Datzとお呼びいただければ幸いです。私は今、DeStoreというプロダクトを作っています。DeStoreはDAOで実際の小売店舗を運営するというプロダクトです。実際には、オーナーシップNFTを買っていただいた方がDeStoreの専用アプリ上でどんな商品を選ぶとか、今月売り上げ・コストがこうとか在庫管理するとか、実際のオーナーとして店を運営するというコンセプトになっています。

現在ヘイズバレーというサンフランシスコの一等地に最初の一号店を構えています。サンフランシスコに来る前は、2015年、僕が15歳の頃から、日本で一番最初のファッションYouTuberとして活動を始めまして、FASHIONSNAP.COM などのメディアにも取り上げていただきました。ファッション・小売は、私にとって比較的大きなテーマになっています。今回はWeb3の波を使って次の小売を作ることができたら良いなと思ってDeStoreを作っています。

松村:DAO運営型の店舗ということですが、そもそもファッションYouTuberをやられていて、なぜNFTでやDAOやWeb3にフロンティアを見出されたんですか。

大東:元々YouTuberやっていた高校生の頃からスタートアップに興味があって、父の駐在の関係で高校3年生の1年間をイギリスで過ごしたんですけれども、卒業間近になって起業について真剣に考えるようになって、日本に帰る家もその時は無かったので、どこでやろうかなと考えた時に、今サンフランシスコで一番お世話になっている小林清剛さん(Knot共同創業者兼CEO、「和組DAO」共同創設者)とか内藤聡さん(Anyplace共同創業者兼CEO)とかの記事やブログを拝見し、「やるのであれば早くサンフランシスコに来てやった方が良い」という言葉を見て、スタートアップをやろうと3年前にサンフランシスコに渡米しました。

最初はいくつかプロダクトを試して、今のDeStoreの一つ前には他の小売店舗のプロダクトをやっていたんですけれど、元々ファッションYouTuberをやっていたのもあって、ファッションとか小売・ショッピングなどの周りであれば、自分が強い世界で勝てるテーマだろうなと考えていました。ちょうど昨年、コロナの関係で不動産がすごく揺れていたので、サンフランシスコの一等地であるヘイズバレーも当時8〜10店舗くらいの空きスペースがありました。

オンラインショッピングももちろん伸びてはいるんですけれど、元々のプレイヤーも伸びていますし、デマンドが単純に一瞬加速した伸びただけかなと思っていました。ただ実店舗に関しては、オンラインと共に実店舗でしかできないデマンドが存在するけれど、既存のプレイヤーがいなくなったのでいという勝機のあるタイミングと思いまして、昨年の末くらいにヘイズバレーの実店舗を一つ借りました。

最初はb8taのようにブランドからお金を預かっいただいてブランドのプロモートをしていました。実際にショップに立っていたのですが、ほとんどのお客さんが来るタイミングで、必ずしも何かを探して買いにくるというより、人と繋がれる場所を探していて、話して、着て、お土産的にコミュニティの帰属意識として、「何かお金を使えるものは無いかな?」と、ものを探してお金を払って帰っていくというようなことが多いと思っていました。

この話を他の小売のアドバイザーとかエキスパートの方に話すと、「やはり実店舗のカギはコミュニティだよね」という話になりまして、それであれば、先にコミュニティが存在していて、そのコミュニティが共同所有して、ストーリーもインセンティブもコストも全てシェアしている状態にすれば、次のレベルのコミュニティドリブンな店の再現性を持てるのではないかと思いました。となると、Web3っぽいなというところで、Web3だと言いはじめたのが今年の頭くらいなので、私もまだまだWeb3のことはわかっていないというのが正直なところです。

松村:今はお店の中の実際の商品というのは、コミュニティに参加してくださる方々でセレクトして置いているという形なのでしょうか?

大東:まだオーナーシップNFTとか店自体はローンチできていなくて、今NFTのローンチの直前で仕込みをしている段階になるんですが、実際に開いた後はコミュニティの皆で選んだブランドとか商品が実際の店舗に並んでいて、必ずしも商品自体がNFTであるとかWeb3っぽいものである必要はありません。どちらかというと実際のものが並ぶまでのプロセスに対してトークン・NFTを使って実際に人がどのように新しく関われるかというところが我々の肝になるところかなと思っています。

唐澤:ものを買いたくて買いに行くのではなく、どちらかというと人に会いたくて、コミュニケーションしたくて、最後ついでにものを買っていくというのはすごく面白い概念だと思いました。これはコロナによってリアルに会う機会が少なくなったことへの反動と捉えているのか、一過性のものではなく新たなスタイルが確立されつつあると捉えられているのか、その辺りの感覚を教えていただけますか?

大東:その流れに関しては、元々あったものがコロナの影響で反動的に一瞬すごく盛り上がったものかなと理解しています。おおもとには、オンラインショッピングが便利になったことが背景にあって、オンラインショッピングが便利になってくると人がものをオンラインで買えるようになるので、必ずしも実店舗に行く必要がなくなってきます。そうすると、実店舗に行かないといけない理由とか実店舗でないと得られない体験のようなものが取り残されてきて、逆に実店舗が重要になるかなと考えています。

コロナのタイミングでオンラインの利便性が跳ね上がったことと、同時にオンラインではできないことが浮き彫りになったというところで一気に加速したかなと思っています。ただECが生まれたタイミングくらいからあった流れで、それがやっと今オンラインの跳ね上がりと同時にしっかり浮き彫りになったものなのかなと理解しています。

唐澤:そう考えると、ユーザーにとっての価値を考えた時に、DeStoreの競合は他のECとか他の店舗では無くて、他にギャザリングできる場所でしょうか?そうなった時に、人々が他のところではなくて「DeStoreに行きたい!」と思わせるしかけみたいなものはあるんでしょうか?

大東:そうですね、必ずしもECが競合になるというより、地元のカフェとか地元のレストランとかが競合になることがあると思っています。我々が作ろうとしているものは、DAOの店舗というより、こういった形で運営をすると既存の店舗よりも、さらにコミュニティドリブンの店を作れるということを証明したくて、それが今、実際に作っているアプリになります。

今の一号店はその実験用というか、「実際にこうなりました」というファクトが欲しいためのものです。DeStoreじゃないといけない理由こそが、100〜200人とかで店を所有して運営し、こういうアクションを起こしてこういう形で運営させる、例えばプロダクト一つ一つを選ぶのはすごく大変なので、こういう方向でこういうフローであれば皆買うと、そこの仕掛けを作ることが、この1年間で証明できると良いなと思っています。

唐澤:オーナーシップを持たせていくというのがWeb3っぽいなとお話を伺っていて思ったのですが、具体的に何ができるのかっておそらくイメージつかない人が多い気がしています。差し支えない範囲で、100〜200人のコミュニティを作ってその人たちにいろいろな決定権やオーナーシップを持たせ、その人達が一緒にStoreを育てていくみたいなことを考えた時に、何をどこまで関与できるものなんですか?

大東:オーナーシップと聞くと、理想的には皆が全部何でもできるみたいなところがあるんですけど、店の運営は楽しくないことが98%くらいなので、我々は楽しいオーナーシップ体験だけを抽出することができるかどうかを考えています。そこに対して我々が今持っている仮説は、本当に一番大事な意思決定に関与できる、店の方向性を決めるレベルの意思決定に関与できることと、オーナーしか見れない機密情報を見ること事ができる、という2つが大事だと思っています。

後者の機密情報に関してはいわゆる売上とかコストとか利益とか在庫情報とかブランドのパフォーマンスとか、これらは必ずしも毎日見るというよりかは「これは俺にしか見れないんだぜ」っていう感覚が大事かなと思っています。もう一つ、店の重要な意思決定というところに関しては、店の名前とかロゴとか音楽とか細かいところも含め、後は一番大事などの商品を選ぶかみたいなところだと思います。

商品も型のベース・SKUで選んでいくと、200人で500の型を選ぶみたいな楽しくない雰囲気になってしまうので、今の仮説としてはブランドリストを用意して、1ブランドあたり10〜20型くらいをブランドからバンドルして用意してもらって、1voteあたり100ポイントくらい持っていて、好きなブランドに20ポイント×5ブランドまで100ポイント×1ブランドなのかDistributeしてもらって、TOP20%のブランドが自動的に選ばれて、細かいマーチャンダイズとかそういったものはプロにDelegateして良い感じに店に並ぶくらいの落とし所が良いのかなと思っています。これはやっていく中でいろいろと変えていくところではあると思うんですけど、今はそのくらいの落とし所が良いんじゃないかと思っています。

唐澤:僕も結構Votingの権利を持たせていくって結構色々なDAOでやったりするんですけども、たまに聞くのは、例えばVoteする人が200人いた時に、自分の一票がどこまで寄与するのか。普通の選挙と一緒で「俺の一票関係無いだろう」みたいな感覚になってしまうケースもあるじゃないですか。強いオーナーシップを持たせてあげるための仕掛けはあるんですか?

大東:重要な意思決定に関わっているかどうかがオーナーシップを感じるかどうかというところから鑑みると、そもそも自分の意思決定が反映されているのかどうかは非常に大事かなと思っています。もちろん参加している人全員が「私の意思決定が全部反映されたか」と言われるとそれは難しいと思っているので、ある程度「TOP20%はこう感じている」とか「残り30%はこれくらい」「残り40%はこれくらい」とかレイヤーがあっても良いかなと思っています。

そこについて我々が打っている手としては、一個一個の店舗のコミュニティの人数を大きくしすぎないことかなと思っています。基本的には店に来れる人がオーナーシップを持っている方がベターなので、変にグローバルで1000人、10000人というよりは100〜200人で留めて、ある程度クローズドなところでやっていく。もちろんその中でもより力が強い人・弱い人は出てくると思うんですけど、一つはある程度数字を限定するところくらいしか今は考えるところが無さそうだなと思っています。

唐澤:すごく分かります。コミュニティって、でかくなるとどんどん濁るというか、1000万人のコミュニティを作っても発言しているのは2%とか、関与しているのはそれくらいなので、逆に言うと、そういうものをたくさん作っていくイメージなんですかね。

大東:そうですね。店舗ごとにコミュニティが存在していて、我々はコミュニティドリブンの店を作ることができるツールを作っているというような感じです。ただまずは手元で自社でスクラッチで一旦証明したいというところですね。

次回へ続く)

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