SaaSのPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)はなぜ必要?Sansan・川村良太さんに聞く、1年半の実践から見えた「PMMの役割」

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本稿はベンチャーキャピタル、ALL STAR SAAS FUNDが運営するサイトに掲載された記事からの一部を転載したもの。全文はこちらから読める。同社のメルマガ「ALL STAR SAAS NEWSLETTER」出資先のスタートアップ転職に関するキャリア相談も受付中

以前に、山田ひさのりさんとALL STAR SAAS FUNDで開講した『SaaS CS集中講座』では、さまざまな観点からCS(カスタマーサクセス)の役割を掘り下げました。

この講義の第5回にゲスト講師として登場したのが、SansanでPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)を務める川村良太さんです。今回はその講義に引き続き、「PMMという職種とその役割」をインタビュー。

ALL STAR SAAS FUNDの投資先をはじめ、ステージを問わずにあらゆるSaaS企業から、PMMに関する質問が寄せられるようになりました。一方で、実践的な情報リソースが足りているとは言えない状況です。

そこでSansanでは、どういった背景からPMMを置き、いかなる仕事に取り組んでいるのかを、川村さんにお聞きしました。PMMとして営業DXサービスの『Sansan』に携わり、並行してCS組織で「カスタマーサクセスプランニング」という組織設計のシニアマネジャーも務めています。

聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDのパートナーである神前達哉です。

プロダクトラインが複線化すると、PMMは必要になる

神前:PMMはIPO後のSaaS企業に多く居る印象を持っていますが、Sansanでは設置されてどれくらい経ちましたか。また、どういった課題からおかれるようになったのでしょう?

川村:2021年1月に試験的に始まり、複数人のPMMがおかれたのが7月からですから、約1年半ほどですね。マルチプロダクト体制下でのサービス競争力をさらに強化することが目的となります。

当社は創業以来、「Sansan」を中心としたクラウド名刺管理サービス事業を主軸に事業を展開しており、「Sansan事業部」や「Eight事業部」といったプロダクトごとに事業部を分ける事業部制を採用してきました。

しかし近年、2020年に提供を開始したクラウド請求書受領サービス「Bill One」など、サービス群が拡大するなかで、それぞれにマーケットと対峙し、どういうふうにプロモーションをかけていくのか、どういう製品であるべきなのか。専任で解像度高く見ていくことが必要と考え、各プロダクトごとにPMMが配置されました。

神前:シングルプロダクトならPdM(プロダクトマネジャー)が兼務として管轄することが多いと思います。ただ、プロダクトラインが複線化していくことによって、それぞれにマーケティングとしても対峙する人が必要になるという背景から、PMMが求められていくのですね。

川村:おっしゃるとおりです。もう一つの理由としては、スタートアップの立ち上げにおけるPMM的な役割は、CEOなど経営層が担っていることが多いはずです。マーケット選定は「会社の方向性」とほぼ等しいですから。

ただ、組織拡大に伴い、経営層がプロダクトマネジメントの権限移譲を進めていくことが必要になってくるタイミングがあります。そのなかで、よりプロダクトに近い側にミッションを持つのがPdMであって、よりマーケットに近い側がPMMという形です。

神前:とても理解が深まりました。シリーズBくらいまでの会社でPMMをおく実感が、僕にはなかった理由を言い当ててくださいました。

経営者がガバナンスに集中していく、より中長期的な投資をしていく、プロダクトが複線化していくといったなかで、マーケティング、プロダクト、エンジニアのマネジャーをしっかり分けていくことで生まれる役割なのですね。

川村:はい、私はそういうふうに捉えています。

営業、CS、開発……現場との泥臭い二人三脚で、検証していく

神前:PMMはエンジニア組織との対話やビジョン設計をはじめ、CSといったビジネスサイドとの仕事も多いのではないかと思います。どういった働きを期待されているのでしょう?

川村:まさにSansanで、試行錯誤しながら形作っている最中です。たとえば、市場に刺さるであろう「売れるためのマーケティングメッセージ」を企画したとします。コンテンツを作ってマーケティングがリード獲得に生かす。また、そのストーリーをPMMだけではなくてセールスやインサイドセールスまで語れるようになり、CSがストーリーどおりに導入企業の成功を後押しできることが理想ですが、まだ距離があるというのが実情です。

組織体制については、「エンタープライズ領域を専門で見るPMM」のようにマーケットごとに分けたり、ソリューション別で分けたりと、PMMのあり方も模索中です。私を含めて10人のPMMがいますが、それぞれに担当を持っています。私はCS領域と、CS側の設計のマネジャーも兼務しているところです。

神前:それぞれの得意領域を担当して、関連部署を助けていくようなイメージでしょうか?

川村:そうですね。サービスラインナップから、エンタープライズの領域では「何が売れるか」を考え、「どう売るか」をユーザー目線に立って検討します。売れるためのストーリーを営業同行もしながら練り上げ、現場と一緒に勝ちパターンを作り上げていくこともあります。

具体的に私が、PMMとして求められている役割に、エンタープライズやSMBといった領域は関係ありません。「オンライン名刺」や「リスクチェック」というSansanの機能をどう進化させるべきなのか、ユーザーのニーズを満たすプロダクトの概念や販売方法の検討に注力しています。

神前:ありがとうございます。「プロダクト戦略室」みたいなイメージが湧きました。

川村:なるほど、そういう見え方もあると思います。ただ、「戦略室」だと現場から少し遠いようなイメージが浮かぶかもしれません。戦略会議で決定した事項を伝えて終わりというよりは、現場と泥臭く二人三脚で、自分たちが書いた戦略やマーケットへのメッセージの有効性を日々検証しながら磨くのが、Sansanで1年半近く取り組んできたことです。

神前:PMMと、VP of SalesやVP of Marketingとの違いを問われることもよくありますが、プロダクトに重心をおいて、各部署と連携を取ってメッセージや戦略を練っていくのが期待されている役割だとわかると、整理がしやすいですね。

川村:より仕事内容をつかみやすくなればと、具体的な話をしてみます。

BRIDGE編集部註:この後の『プロダクトの優先順位付けにつながる、PMMからPdMへのインプット』の続きはこちらから

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