医療品もAIが開発支援「Insilico Medicine」/注目集まるGenerative AI(3)

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Image credit:Insilico Medicine

香港で2014年に創業したInsilico MedicineはAIによる医薬品開発プラットフォームを提供するスタートアップだ。2022年8月にシリーズDで9,500万ドルの資金調達を行い、これまでの累計調達額は4億130万ドルとなっている。

医薬品開発は主に3つ段階を経て行われる。1つ目が病気の原因調査だ。仮説を立て、調査し、学会などで発表する段階なのだが、生物学的評価や薬物動態、バイオマーカーなどのスクリーニングを行いながら標的タンパク質と薬の候補を探す。ここが時間とお金のかかる最大の難関と言われている。2つ目が有効性と安全性の確認だ。候補となった物質が標的タンパク質と反応するのか、また体内への吸収、排出が行われるのかを観察する。3つ目が臨床試験だ。実際に治験を行って人にとって有効で安全であるかを確認する。

同社がユニークなのは、前述した医薬品開発の3段階全てにAIプラットフォームを提供している点だ。

1つ目の病気の原因調査には創薬AIプラットフォーム「PandaOmics」が活躍する。前回取り上げた対話型AIゲームを開発するLatitude同様に、Transformerベースのナレッジジェネレーターだ。これまでの科学出版物の内容とグラフをもとに学習したAIモデルと、疾患のオミクスデータ(網羅的な生体分子についての情報)や臨床試験データ、大手20社の製薬会社から提供された疾患に関するデータセットを活用することで標的タンパク質の提案を行う。有効か安全かの言及に加えて、臨床試験に入れるかどうかの予測、科学コミュニティが注目を示すかどうかも予測する。

2つ目の有効性と安全性の確認には医薬品設計AIプラットフォーム「Chemistry 42」が活躍する。簡単にいうと、病気の原因になると予測される標的タンパク質を無力化できる分子を探すのに貢献するプラットフォームだ。Forbesによると、これまでは何千と確かめていたのが、Chemistry 42が導き出した分子を12個ほどテストするだけで済むようになるという。

3つ目の臨床試験にはマルチモーダルAIプラットフォームの「inClinico」が用意されている。どのように臨床試験をするか、様々な手法と比較して成功確率を予測してベストプラクティスを提案するのが主な機能だ。同社の論文によると、医薬品開発のコストが高くなる原因は、臨床試験における医薬品の失敗率が高いことにあるため、臨床試験の正確な予測は、数十億ドルを節約する可能性があるそうだ。自社のこれまでの大量の失敗データと成功データというアセットをノウハウと掛け合わせることが出来る点も導入動機として大きいように思う。

それぞれの段階におけるAIプラットフォームをもつ企業は少なくないが、End-to-Endで横断的にAIを提案ツールとして用いてる事例はほとんどない。この点を評価されて、これまで様々な製薬会社がInsilico Medicineと提携している。大正製薬もそのうちの一つで、老化に対する新しい治療法を特定するための共同研究を開始した。その他にもコロナワクチンで日本でも有名になったファイザーや、アステラス製薬などとも共同の創薬開発を行っている。

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