初の国際スタートアップイベントを開催する東京都、世界の起業家をどう魅了するか【宮坂学副知事インタビュー】

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東京都副知事 宮坂学氏
Photo by Shun Sasaki / Bridge

※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

筆者にとって、新年の上半期に開催される世界中のスタートアップカンファレンスのスケジュールを整理するのは、正月の恒例行事になっている。新型コロナの感染拡大で世界中の動きが止まったことから、2020年から2022年までこの習慣は中断していたのが、3年ぶりに作業を再開してみたところ、いくつかのことに気付かされた。

まず、コロナ前と現在(残念ながら、まだコロナ後ではないが…)を比べると、消えてなくなったカンファレンスがあり(一時的な休止のみならず、運営会社の倒産や完全な撤退)、新しく生まれたカンファレンスも存在する。ストリーミングが常態化した時代、講演の聴講だけなら海外渡航・現地参加は不要となり、カンファレンスには新たなバリュープロポジションを求められるようになった。

もう一つ言えるのは、各国が「世界トップのスタートアップハブの座」を競う時代は終焉を迎えたということだ。シリコンバレー万能説が否定されるようになって久しいが、金融ならロンドン、エンタメなら LA、フードテックならシカゴ、ライフサイエンスならボストン、web3 ならツーク、サイバーセキュリティならテルアビブなど、領域毎のハブの存在が際立つようになったのも理由の一つだ。

起業家も投資家も、カンファレンスに参加することで期待できるメリットについて、以前よりシビアに考えるようになった。コロナ禍に、以前報じた WebSummit Tokyo も、SLUSH TOKYO の後を継いだ BARKATION も事実上取りやめとなった今、東京には真の意味で、大きな国際スタートアップカンファレンスは存在しない。東京は、どんなスタートアップハブを目指すことができるだろうか。

東京都知事の小池百合子氏の口から「SusHiTech Tokyo」という言葉を東京都知事の小池百合子氏の口から聞くようになったのは、昨秋くらいからだ。「Sustatinable High City-Tech. Tokyo」の頭文字を取った、都市課題を乗り越えるための多彩なアイデアやテクノロジーの総称だ。日本を連想させる寿司にかけた略称にしたことで、外国人の記憶にも残りやすいことを狙った。

東京都はこの「SusHi Tech」をテーマに、2月27日〜28日に国際フォーラムでスタートアップカンファレンス「City-Tech.Tokyo」を開催する。今回が第1回ということや、国内よりも海外のスタートアップを東京に集めることに注力したからか、まだ、その詳細像は我々の知るところとなっていない。このイベントの全体統括リーダーを務める東京副知事の宮坂学氏に話を聞いた。

これからのテクノロジーの主戦場は都市になる

2022年11月、Smart City Expo World Congress で講演する東京都副知事 宮坂学氏
Image credit: Bureau of Digital Services, Tokyo Metropolitan Government

フィンテックやヘルステックなど業界軸で区切った呼称と異なり、都市ならではの課題をテクノロジーで解決を促す概念「City-Tech」は定義が広範だ。そのためか、City-Tech という言葉に当初は海外の反応も鈍かったようだが、小池氏が「SusHiTech」という言葉を使い始め、宮坂氏もバルセロナ(Smart City Expo World Congress)の講演などで披露すると大ウケだったという。

SusHiTech を冠した City-Tech Tokyo には、国内外から1万人以上が参加が見込まれている。基調講演には、Andreessen Horowitz(a16z)の共同設立者 Ben Horowitz 氏や、世界を代表する建築家で東京大学特別教授の隈研吾氏らが登壇する予定。また、30カ国の100都市が参加し、スタートアップブース300のうち3分の2は海外からの参加というのも特徴的だ。

いろんな都市が、気候危機とか、エネルギー問題とか、新交通の仕組みとかを手掛けていて、これらは、それぞれの都市ごとの課題であると同時に、大袈裟に言えば、世界人類共通の課題でもあります。自治体間のオープンイノベーションももっとやらないといけないし、東京でうまくいっているソリューションは他の都市でもうまくいく可能性があるし、逆方向の可能性もあるでしょう。

テクノロジーの主戦場は都市になると思うんです。世界人口の70%は都市に住んでいるので、都市をどうテクノロジーで変えていくかという競争が世界で始まると思います。だから、スタートアップや企業だけでなく、行政も参加することになる。東京都もオープンイノベーションの活動をやっていますが、安定してサービスを提供できれば、日本のスタートアップだけに限る必要はないですね。

時を同じくして、東京都は都庁に近い西新宿で「G-NETS(Global City Network for Sustainability)」という、国内外の首長を集めた会議を開催する予定だ。G-NETS に参加する首長や関係者の多くは City-Tech.Tokyo も訪れるだろう。今回の City-Tech.Tokyo は初開催なので、まだ各都市が参加するモチベーションや意図はさまざまだが、年一回のペースで開催される予定だ。

City-Tech.Tokyo で何を目指すか

City-Tech.Tokyo の Web サイト
Image credit: Tokyo Metropolitan Government

さて、City-Tech Tokyo で何を目指すか。典型的なスタートアップカンファレンスでは、究極的な目的な一つは、起業家にとっては投資家を見つけ投資を引き出すことにあるし、投資家にとっては有望な投資対象となるスタートアップを見つけることだ。Web3 系のカンファレンスでは横の繋がりを増やすことに軸足が置かれているかもしれない。では、City-Tech.Tokyo ではどうなのだろう。

リスクサイドで言えば、先に述べたような気候危機とかがテーマに含まれるんですが、アップサイドで言えば、やっぱり、雇用の問題だと思います。今、ある雇用って、30年前にはなかったものがいっぱいあるわけじゃないですか。例えば、BRIDGE というメディアも、30年前なんて存在し得ない。今ある雇用は、30年前とか、50年前とかの、当時のスタートアップが作った雇用なわけです。

未来に対しても同じことが言えます。未来の雇用を作るのはスタートアップです。スタートアップが未来の雇用を作らなかったら、今の雇用が維持されるだけなので、結果的には給料は低いものになっていってしまいます。スタートアップが事業を成功させられれば、そこから豊かな生活を生み出し、雇用を生み出すことができますね。それは、とても大事なことだと思います。

毎年、スタートアップと親和性が高い都市をランキング発表する Startup Genome という組織がある。BRIDGE でも折に触れて取り上げているが、2021年には東京がトップ10入りを果たした。残念ながら、昨年はソウルの猛追を喰らい12位へとランクダウンしてしまったが、民間機関が発表する指標とはいえ、このランクに注目している都市関係者は多い。宮坂氏もそんな一人だ。

もちろん、(東京は)上位に行きたいですよ。でも、スタートアップだけが元気な街って無いと思うんですよ。そういう街は、アートとかエンターテイメントとか、ありとあらゆることが元気なはずです。文化的にすごく停滞していて、ビジネスをスタートアップするってことは無いと思うんですね。

インタビューに答える東京都副知事 宮坂学氏
Photo by Shun Sasaki / Bridge

もっともスタートアップは社会のペインを解決する側面が大きいので、逆説的には日本のようなインフラが成熟した社会では、途上国のようにシンプルなサービスからはユニコーンが生まれにくいかもしれない。一方で、途上国は基本的に先進国への発展を目指すので、一部のリープフロッグ現象を除けば、先進国で流行ったサービスが時を経て途上国にも浸透するタイムマシン的モデルもあり得る。

先進国のエコシステムは、わりと豊かな都市に多いですよね。東京はやはり、そっち側だと思います。こうした街に必要なのはチャレンジャーです。別に、音楽のチャレンジャーでも、映画のチャレンジャーでもいいんですが、それがビジネスだったらスタートアップですね。チャレンジャーをあらゆるジャンルで惹きつけることが、都市の重要な部分ですね。

昨年、岸田政権はスタートアップ政策の体制強化を発表、東京都も「Global Innovation with STARTUPS」というスタートアップ戦略を発表した。BRIDGE をスタートして以来、国や都が、スタートアップをここまで産業政策の真ん中に置いたことは無かっただろう。宮坂氏は、City-Tech.Tokyo がそんな歴史的転換点を世界の人々に目撃してもらえる機会にしたい、と抱負を述べた。

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