衛星データで農業を支援するサグリ、JAとの協業で実現させた社会実装への第一歩

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左から: 農林中央金庫 デジタルイノベーション推進部 長友千紘さん(伴走者)、 AgVenture Lab JAアクセラレーター事務局兼広報 後藤玲花さん(インタビュアー)、 サグリ 代表取締役CEO 坪井俊輔さん(第4期採択スタートアップ)
Image credit: JA Accelerator

本稿はコーポレートアクセラレーターを運営するゼロワンブースターが運営するオウンドメディア「01 Channel」からの転載記事。JAアクセラレーター第5期は現在参加するスタートアップを募集中で、応募は3月31日に締め切られる予定。5月下旬の選考を経て、6月から11月にかけての約半年間プログラムが提供される

JAグループが設立したオープンイノベーションラボ「AgVenture Lab」。同ラボが2019年から毎年運営するJAアクセラレーターでは、食と農、暮らしなど、さまざまな領域で社会課題の解決に取り組むスタートアップを支援しています。特に、スタートアップの一社一社に対し、JAグループ職員が伴走しながら支援する制度が特徴的です。

JAアクセラレーターはこれまでに4つの期を終え、合計33社のスタートアップを支援してきました。現在は、第5期に参加するスタートアップを募集中です。今回は第4期に採択されたサグリ代表取締役の坪井俊輔さんと、JAグループからのサグリの伴走者を務めた農林中央金庫の長友千紘さんに話を伺いました。

衛星データを使った農業支援を提供するサグリ

サグリは兵庫県丹波市発の岐阜大学ベンチャーで、衛星データをもとに農家が土壌分析を行えるサービス「Sagri」、行政機関が農地調査を効率化できるサービス「アクタバ」や「デタバ」を提供しています。

Sagri では土壌分析をに基づいて肥料の投入量を最適化するための農学的なアドバイスが提供されます。また、肥料削減への貢献、削減できる窒素量、代替で用いられる有機質資材等が吸収する炭素量を評価でき、農家の収入となるボランタリークレジットも発行可能です。

解析された情報は農地の区画に対して提供されますが、海外にはまだこのような区画が存在していないことが少なくありません。サグリは高解像度の衛星データとAIを用いて、農地を自動で区画化する技術「AIポリゴン」を開発し、日本や海外で特許を取得しました。

代表取締役の坪井俊輔さんは農林水産省の「デジタル地図を用いた農地管理に関する検討会」の委員や経済産業省の「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた若手有識者研究会」の委員を務め、国内外の事業をモデルケースとして、政府関連のプロジェクトも請負っています。

グローバルな農業支援を目指すルーツは教育から

サグリ 代表取締役CEO 坪井俊輔さん
Image credit: JA Accelerator

世界人口は80億人を超え、その3分の1が農業人口です(日本の農業人口は、全人口の1.4%に相当する165万人)。坪井氏が農業に興味を持ったきっかけは海外でした。以前の教育事業でアフリカのルワンダを訪れたとき、小学生たちは夢を持っているものの、道半ばで諦める人がほとんど。その原因が、農家である親の仕事を手伝わざるを得ず、進学の道が閉ざされているためだと知りました。教育の前に、農業をアップデートしようと考えたサグリの出発点です。

世界の26億人(世界の農業人口)の作り手に幅広く届けるために、私が一番最適だと思って選んだ技術は衛星データでした。そして、農業のことに没頭し始めた中で最初に農業のことを知ることになった場所が(本社のある)兵庫県丹波市でした。そこで農業のことを農家さんから学びました。(坪井さん)

一方、日本の農業が抱える問題も深刻です。日本の作物の6割以上が海外に依存しているため、食糧危機が起きた場合、日本に大きな影響を与える可能性があります。また、農家の高齢化が進んでおり、農地を引き継ぐ次の世代が不足しています。このため、農業をより効率化し、生産現場の改善が必要ですが、農業は他の分野に比べてデジタル化が進みにくいため、技術の導入が遅れている現状があります。

日本の農業にも課題があるかもしれません。でも、私は、日本の農業の課題だけを解決したらそれで満足じゃないんですよ。それをグローバルに広げていって、それを日本の技術で変えていけると思っています。そこが私の原点で、今は教育の事業をストップして、農業にコミットしています。(坪井さん)

世界を目指すのに、なぜ日本から攻めるのか。その理由は農業の規模にあります。AIやドローンを活用したスマート農業は欧米が先行していますが、ここで採用された技術は一定規模の農地を前提としており、坪井さんが支援したいアジアやアフリカにはそのまま適用できません。日本では北海道を除き、農家一軒あたりの農地面積はさほど大きくないため、日本の多くの農家が受け入れられる農業支援技術を確立できれば、そのモデルを発展途上国にも横展開できる可能性が高いわけです。

JAアクセラレーターへの応募とスタートダッシュ

サグリは開発した技術を日本の農家に届けたいと考えていましたが、そのためには、日本の農家の支援を行っているJAグループと連携した方が近道だと考えました。坪井さんは、以前からJAアクセラレーターの存在は知っていたものの、応募するタイミングを見計らっていました。第4期のプログラムが募集が始まった頃、ちょうどサグリでは、技術をアプリケーションを通じて農家に届けられる準備が整い、応募することに決めたそうです。

第4期は2022年6月から11月くらいまでだったので、農業の最も盛んな時期と重なったのも、実際に農家にソリューションを提供する上で好都合でした。そこで応募したところ、ありがたく採択していただくことができました。

今までいろんなアクセラレータープログラムに参加したことがあったのですが、JAアクセラレーターでは、最初から第4期の参加9チームでナンバーワンの成果を出すぞという気持ちで臨みました。勢いがあったので、長友さんは驚かれたかもしれませんね。(坪井さん)

一般的に、アクセラレーターでは採択後に時間をかけ双方協業内容を検討しますが、坪井さんはプログラムの特典を最大限に活用し、第4期が始まった6月1日の2週間後にはAgVentureLabで記者会見を開いてしまいます。「これを届けるためにやりたいんだ、という思いをJAに受け入れてもらった(坪井さん)」そうです。伴走者の長友さんは当時の印象を次のように振り返ります。

農林中央金庫 デジタルイノベーション推進部 長友千紘さん
Image credit: JA Accelerator

スピード感とか結構速くて、毎週2時間ぐらい対面のミーティングだったので、そこでもうカルチャーショックがありました。一言目に「長友さんは何ができるの」と聞かれて最初はドキッとしたんですが、一緒にやっていく中で、すごく話しやすく、意見を聞いてもらえて楽しかったです。(長友さん)

サグリは発表したソリューションを、農家の支援窓口となる全国の市町村やJAに知ってもらうことを最初のコミットメントに据えました。全国に市町村は1,700以上、JAは600組織以上存在しますが、その全てにテレアポや商談を試みました。JAからの紹介ということもあって、話は聞いてもらいやすかったようです。アクセラレーターに採択されると、JAからPoC助成金として100万円が提供されますが、このお金は全て、テレアポや商談のために投じられました。

私は富山、熊本、そして、愛媛に2回同行したんですが、現地のJAグループの方々と会話させていただいて、いい意見も課題も聞けてよかったです。(長友さん)

アクセラレーター卒業後が正念場

農家への認知度や露出を高めるのに加え、農家が抱える現場の声を聞けたことで、サグリにとって、約半年に及んだプログラム参加は、今後のプロダクトのブラッシュアップにも良い機会となりました。ただ、プログラムを通じて提供されるのはあくまでPoCの機会であるため、これを足がかりに、本運用ベースでのサービス提供が期待されるところです。

やはり PoC で終わっちゃいけないと思うんですよね。社会実装をしっかりしていくことで、多くの方々に届けていくことが使命ですから、アクセラレーターの期間は終わりましたが、第4期卒業生として、今後もしっかり現場の方に届けていけるよう、JAグループの職員の方々と連携していきたいと思っています。

そして将来、社会を変えていける状況をサグリとして作りたい。その技術をグローバルに広げていきたい。海外では、日本が誇る農業技術や管理技術はまだ得られていない方がたくさんいます。世界の農業人口は26億人ぐらい——世界人口の3分の1を占めるわけですから、日本から新たな技術を届けるのは我々の使命であり、JAグループと一緒なら実現できると思います。(坪井さん)

アクセラレーター採択のもう一つの特典として、サグリは「農業WEEK」という大規模な農業の展示会にも出展しました。登壇やブース出展の機会を得て、当日はかなり多くの企業や農業関係者から質問攻めに遭ったそうです。プログラム卒業以降は自腹になるものの、今後も農業WEEKへの参加を検討しているといいます。また、坪井さんは、今後、JAアクセラレーターへの応募を検討中の起業家に対し、自分のようにためらわないでほしいとも語ってくれました。

些細なことでも、JAグループと一緒にやれるんじゃないかなと思ったら、もう(応募書類を)書き始めてみてほしいですね。そこでいろいろ考えてしまうと、僕みたいに2期ぐらい機会を逃してしまうんです。(振り返ってみると)ただぶつけてみるということを、まず僕はすればよかったなと思っています。(坪井さん)

長友さんは、JAグループ内から選ばれる今後の伴走者にメッセージをくれました。

坪井さんのように、すごい農業にかける熱い想いを持った企業があると知れたこと、スピード感やアイディアを形にしていくところは、今の業務では絶対経験できないいい刺激になりました。伴走者にも、ぜひ応募していただきたいと思います。(長友さん)

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