文系と理系という区別を、人はいつ頃からつけるようになったのだろう。筆者も、数学を解くよりは長文読解や外国語の方が得意だったのに、罷り間違って、サイエンス系の道を進んでしまい今日に至っている（そのおかげで今があるので、結果オーライではある）。しかし、インターネットや科学技術が進化し、ジェネレーティブ AI が一般化した世の中では、もはや、文理を分けることすらナンセンスだろう。一方に偏らない知見を求められる局面は増えるだろうし、記憶や思考の多くの部分は自動化されるからだ。

2018年11月から、ケニアのプロサッカーチーム「Ligi Ndogo」でサッカー選手として活躍する傍ら、サムライインキュベートから委託を受け、ケニアでディールソースや投資先支援などを行ってきた川口儀浩氏は、世界的に新型コロナウイルスの感染状況が深刻化し経済がストップしたことから2020年4月に日本に帰国。ケニアでは、ジョブレス化（仕事不足）により、大学を卒業しても5人に1人は就職できないのに対し、日本では就職率こそ高いものの、文系学生の就職先の選択肢が極端に狭くなっていることに気づいた。

日本では高校生の68％が文系に進む（文科省調べ）。文系出身でもコーディングが朝飯前のエキスパートもいるだろうが、就職フェアなどでは往々にして、理系・文系という紋切り型の区別によって、それが学生たちの就職先の選択肢を狭めてしまっている、と川口氏は語る。そうした風潮が追い打ちをかける形で、デジタルネイティブと言われる世代なのに、いわゆる〝IT アレルギー〟を抱える学生も少なくない。やりたい仕事とできる仕事と就いた仕事のミスマッチから、大学生の就職後3年以内離職率は約3割と高い。。

一方、デジタルトランスフォーメーション（DX）という言葉を聞くようになって久しいが、これを自分のものにできているのは、まだ大企業や一部の官公庁だけだ。日本経済を担う9割以上の中小や零細企業にとって DX は程遠い。その原因は、ビジネスとデジタルの両方を扱うことができる人材の不足だ。システムエンジニアやプログラマが必要なのではなく、現場で IT ツールを活用できる〝現場デジタル人材〟が足りていないのだ。政府の IT 人材市場の将来推計によれば、2030年までに79万人が不足するとされる。

そこで川口氏が考えたのが、IT スキルを身につけて就職したい就活生と、DX したいが人材がいない中小企業とのマッチングだ。川口氏の会社 Furahi は IT ツールの学習とスキルを可視化するプラットフォーム「Pluski（プラスキ）」を作り上げた。2月28日にα版をローンチして1ヶ月だが、すでに全国の大学・短大・専門学校生ら100名が参加しており、他方、利用する会社は契約済と契約見込をあわせて5社、提携する IT ベンダーも2社いるという。Furahi は今日、Pluski をα版からβ版へと移行した。

Pluski では、SaaS の運用や RPA を使った業務自動化といった DX において要となるスキルを集中的に学生らに教える。所属大学別で競わせたり、あるスキルを習得するしたらバッジを付与したりするなどして、モチベーション向上とスキルの見える化を実現した。中小企業は DX に必要なスキルを持った新入社員を雇用できることになり、競争の激しい中途採用の IT 技術者獲得合戦に参加しないで済む。大学は vocational school ではないが、より社会で求められる仕事スキルを Pluski が教える形だ。

コロナ禍で学生生活に大きな制約があった数年間を考慮し、一部企業では面接官が就活生に〝ガクチカ（学生時代に力を入れたこと）〟を尋ねない運用を行ない始めた。一方で学生たちは、面接官に対して一つでも多く自己アピールできることを探している。川口氏は、Pluski をそんな学生と企業の双方を支援できる存在に育てたい、と意気込む。

Furahi はこれまでにエンジェルラウンドで、元ラグビー選手で SEITOKU CEO の弓場康平氏、PhilCompany 創業者で投資家の高橋伸彰氏から資金調達している。同社は3月29〜30日、北九州市内で開催される「WORK AND ROLE」にピッチ登壇する予定だ。