Google元AI研究者の2人、東京でSakana AIを設立——自然からインスピレーションを受けた次世代AIを開発

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左から:Llion Jones 氏と David Ha 氏
Image credit: David Ha 氏

話題のポイント:東京を拠点とするAI研究ラボのスタートアップ Sakana AI が、自然界からインスピレーションを受けた次世代のAI技術の開発に取り組み始めました。このスタートアップは、Google で AI を専門としていた Llion Jones 氏と David Ha 氏によって設立されました。

Jones 氏は、AI の進化に大きな影響を与えた「Attention Is All You Need」という研究論文の共著者であり、Ha 氏は Google の日本の AI 研究チームを率いていた経歴を持つ人物です。東京を拠点とする理由については、Jones 氏とHa 氏は、東京が高度に教育を受けた人材プールを持ち、国際的な都市であるため、AIスタートアップの成長を促進し、国際的な専門知識を引き付けることが目的だと語っています。

Sakana AI は AI の進化と自然界の原理を組み合わせることで、現代の AI システムの欠点を克服することを目指すスタートアップです。「Sakana」という名前は、そのまま日本語で「魚」を意味し、現在の AI モデルが固定的で脆弱であるのに対して、魚の群れが単純なルールに基づいて一貫した全体を形成するという自然界の集団知のように、環境の変化に柔軟に適応する AI を目指すというアイディアを体現しています。そのため、自然界の適応性や進化の原理を取り入れた AI モデルの開発を進めています。

単に既存のモデルをスケーリングアップするのではなく、より効果的で効率的な方法を模索する Sakana AI の取り組む新しいアプローチは、現代の AI モデルの高コストやセキュリティリスクといった課題解決に繋がる可能性を秘めています。

Image credit: Sakana AI

AI に自然界の原理を持ち込んだ例は Sakana AI が初めてではありません。Sakana AI のアプローチは基礎研究に興味を持つ研究者たちに刺激を与え、既に多くの研究者が Sakana AI に参加しているとはあるものの、その全容が明らかになってはいないので、類似するスタートアップを例として紹介します。

再帰ニューラルネットワークの一種である「リザーバコンピューティング」を活用して、ディープラーニングが取れない領域を狙う日本のスタートアップ「QuantumCore」も同様のアプローチを採用しています。

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リザーバコンピューティングは複雑系力学といわれる物理分野で研究されてきたものを活用したもので、少ないデータでリアルタイムでの学習が可能であるという強みを持っています。

リザーバは日本語にすると溜め池です。水面に小石を投げ込んだら波紋が発生します。その波紋は小石の重量・大きさ・形・スピードの特徴を全て含んだ形になるので、ここの波紋を特徴として使いましょう!という発想がリザーバコンピューティングです。小石を1,2,3個と投げ込むと波紋がどんどん湧いて、2個目の波紋は1個目の波紋を含んだ形になり、最後の波紋を見れば全ての小石の特徴を含んで、かつ時系列の関係を踏まえた波紋が取れるわけです。つまり、リザバーコンピューティングの最大の狙いはリザーバ層が生成する波紋パ ターンから簡便なアルゴリズムを用いて、時系列入力の識別を行うことだということです。

これにより、数十秒程度のキャリブレーションですぐに使えるようになり、議事ログを自動作成するシチュエーションで、一人あたり大体十秒以下のデータで学習可能なので自己紹介だけで個人を特定することを可能にします。

Sakana AI が取り組む自然界の原理を組み合わせた AI システムは、QuantumCore のような発想で、コストのかかるサーバ負荷を抑え、セキュリティ向上を目指すものになると予想されます。Sakana AI の進化は、ジェネレーティブ AI の分野においては新しい方向性を示していくことになるでしょう。

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