スタートアップにハンズオン支援は必要か~GBの支援を約3年受けた今だから言えること~

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載。執筆は「オフィス おかん」を提供するOKAN代表取締役の沢木恵太氏、編集はGB Universe編集部が手がけた。

こんにちは。OKANの沢木です。

健康的な食事を職場で提供する置き型社食システム「オフィスおかん」や、働きつづけられる組織作りのためのサーベイ「ハタラクカルテ」など、働く人のライフスタイルを豊かにすることを目指した事業を展開しています。

この記事では、起業家である私が思う「VCのハンズオン支援との向き合い方」についてお伝えしようと思います。

事業成長に深くコミットしてくれるハンズオン支援はありがたい一方で、株主であるVCに弱点や課題を見せなくてはならない難しさもあります。

どこまで事業の現状を伝えるべきか、どこまでサポートを依頼してよいのか。悩ましく感じる起業家は多いでしょう。

一方で、ハードシングスを自分たちで乗り越えてこそスタートアップだ、VCの支援なんて必要ない、と考える起業家もいるかもしれません。

「スタートアップにVCのハンズオン支援は必要なのか?」

この問いに関しては正直なところケースバイケースだと思いますが、少なくとも私たちにとってはあってよかったと言えます。

特にグローバル・ブレイン(GB)のハンズオン支援は、お世辞に聞こえてしまうかもしれませんが、OKANの成長に欠かせなかったと心から思います。

OKANは2021年ごろから約3年間、GBの投資先支援に特化した「Value Up Team(VUT)」のサポートを受けながら成長してきました。

今回はその経験をもとに、VC支援を活かせるスタートアップの特徴支援を受け入れた際のVCとのうまい付き合い方などについて、GBからの支援を振り返りながらお伝えさせていただきます。

アドバイスはわかるが「実行」ができない問題

ひと口にハンズオン支援といってもさまざまです。特にVUTは一般的なVCのハンズオン支援とは大きく異なっていました。

スタートアップは、毎日必死に事業に取り組んでいます。それゆえに中長期の打ち手が後回しになってしまったり、客観的に物事を見れなかったりします。

株主も含めて外部の方からいろいろとアドバイスをいただくわけですが、ここに大きなジレンマがあります。

それは、アドバイス後の「実行」が最も難しいということ

アドバイス自体はよくわかるんです。よくわかるんだけれども、それを実行する時間や人手がないのがスタートアップ。やりたくてもできないから困っているわけです。

ただ、VUTはここがまったく違っていました。

衝撃の出会い「現場行くんで、あとは任せてください」

最初にVUTと打ち合わせをした時に驚いたのは、私たちの事業に関する仮説や論点を、「VUTから先に」お話しいただいたことでした。

外部のアドバイザーと関わる際は、まず私たちが課題を整理し、助言をいただく場合が多いかと思います。

ですが、VUTは私たちが論点をまとめるのを待たずに、先に仮説をぶつけてくれたんです。この“超・当事者”としてお会いしてくださった姿が非常に印象的でした。

さらに驚いたのは論点をまとめて「ここからは君たちで頑張ってね」ではなく、「認識が揃っているようであれば、僕ら現場行くんであとは任せてください」と、うちのメンバーと動いていただいたこと。

実際にプロジェクトが始まると、週のうち何日かは弊社にいらして、うちの社員かと思うくらいメンバーと机を並べて仕事されます

終始こういうコミュニケーションで、現場のメンバーとも本当に上手く協調してやっていただけました。

先程も述べたように、スタートアップは的確なアドバイスをもらっても実行することが難しい場合も多いです。

実行の部分まで相談が可能なのか、そして自分たちとしても実行までお任せしたいか/できるか、というのはハンズオン支援を受ける際に踏まえておくべきポイントかもしれません。

「ちょっと後回しにしよう」で広がる傷口

具体的な支援を通してわかったこともあります。新型コロナウイルスが感染拡大した際、日本全体でリモートワークが推奨されたころのことです。

オフィスへの置き型社食というサービスを提供している弊社にとって、出社する人が減ることは事業に大きく影響します。「戦略の転換をしないといけない」「新たな仮説の検証をしないといけない」と早い段階で危機感を感じてはいました。

ですが、コロナ禍という未曾有の事態への対応に手一杯というのもあってケイパビリティや人材の余裕がなく、分析や仮説の検証が後手に回ってしまっていました

そこで非常に頼りになったのが、VUTのデータ分析力です。

過去2年分の商談分析から、コロナ禍でも当社が強みを発揮できる業種を特定いただき、それをもとに営業戦略やマーケティング戦略を再整理。結果として、商談の設定率や受注率があがり、予算達成ベースまで回復することができました

また、戦略を見直したこのタイミングで、当時のOKANにはなかったドキュメンテーション文化の導入にも着手。経営会議の形もVUTとともに一新することもできました。

こうしたカルチャーや社内体制は今でも受け継がれています。VUTは事業成果だけでなく、OKANの文化にも大きな影響を与えてくれました

自社のケイパビリティにない/弱い領域に対して、支援チームのケイパビリティが補完できるようであれば、支援を相談することをお勧めします。逆に領域が被ってしまうようであれば、支援されてもうまくワークしないかもしれません。

VUTと関わるなら知っておいてほしいこと

VUTと約3年間、事業をともにしてみてわかったことがあります。

VUTに最大限に活躍していただくには、受け入れ側である私たちのスタンスも重要だということです。

そこで私が思う「スタートアップがVUTと連携する際に意識しておくべきポイント」を3つお伝えします。

1つ目は、情報開示です。

組織づくりのノウハウとしてよく言われることですが、自社の情報にアクセスしやすい環境が整っていると社内メンバーは新しい挑戦がしやすくなります。

情報がオープンになっていることで、自社の現状やアセットを解像度高く理解でき、良い打ち手を考えられるようになるからです。

VUTは社内メンバーがいる現場に入り込み、私たちスタートアップと同じ熱量で事業を推進するという思想を持っています。

彼らと連携する際には、通常であれば伝えるまでもなさそうな細かな課題や事象も含めて情報を開示すると良いと思います。社内メンバーと同じ量の情報を得てもらうことで、VUTはさらに現場と動きやすくなるはずです。

2つ目は、権限移譲です。

VUTはコンサルやアドバイザーとは異なり、現場での実行にまでコミットします。そのため実装の段階になって「やっぱりそれはやめてくれ」というのが頻発してしまうと、双方にとってメリットがなく成果にも繋がりません。

「この範囲をこういう方向性でお願いしたいので、あとはお願いします」くらいに権限移譲をすると、VUTの真価はより発揮されるんじゃないかなと思います。

少し言い方が悪いかもしれませんが、VUTのことは「客観的な視点で手足を動かしてくれるメンバー」と思うくらいが良いかもしれません。

この意味で「すべて自分たちの力で解決していきたい」「勝手にいろいろ変えて欲しくない」という考えの起業家とVUTは合わないと思っています。

3つ目は、VUTのケイパビリティと自社が解決したい課題のスコープの一致度です。

私たちの場合は幸運にも、サプライチェーンを抱えるビジネスやBtoB営業などに知見があるVUTメンバーとご一緒できましたが、やはりここがフィットしなさすぎると上手くいかないでしょう。

最初に要件定義をする際に、自社がやりたいこととVUTのケイパビリティが合わなそうであれば「今回はやめましょうか」とするのもアリだと思います。

また、VUTには相談するタイミングも重要です。私としては「PMFを達成し、マーケティングや営業をひと通りし終えた時」が良いのではないかと思っています。

冒頭から申し上げているとおり、VUTは現場に入りこんで支援するチームです。

メンバーとともに仮説を立て、目標達成のために行動していただけるチームです。

これが社内のメンバーにとって非常に良かった。仮説検証プロセスを実体験として学ぶことで、自律的に動けるようになったからです。

PMFを達成した後は事業拡大のために人を増やすフェーズに入りますが、誰がやっても目標達成につながるよう、組織に再現性をもたせる必要があります。

メンバーとともに仮説検証を回し、組織に再現性を育んでくれたという意味でも、いい時期にVUTを迎え入れられたのではないかと思っています。

これからの起業家のために、知見を残したい

今回、私が寄稿をおこなった理由は2つあります。

1つは、純粋な感謝の気持ちです。

VUTの能動的で主体的な支援によって、OKANは危機的な状況においても成果を出せました。

このこと自体にとても感謝しており、VUTの皆さんはもちろん、代表である百合本さんも含めたGBの皆さんに報いたく、今回筆を執りました。

もう1つは、これからの起業家の力になりたいと思ったからです。

スタートアップ単体ではできることに限界がある、と私は思っています。VCも含めて、外部の協力があって初めて成し遂げられることがこの世の中にはたくさんあります。

未来の起業家たちも、自分たちの力だけでは限界がきて、社外の力を借りなければならない状況に直面するでしょう。

そのときに、私が経験したVCとの付き合い方に関する知見が残されているのは意味があるんじゃないかなと思うのです。

私たちOKANも、先駆者たちが残してくれたノウハウや情報をたくさん吸収したおかげでここまで来ることができました

このバトンを次につなげていきたい。そういう思いでお話しをさせていただきました。

今回の話が少しでも、これからの世界を作っていく起業家たちの力になれば幸いです。

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