世界数カ国にスピード展開、台湾のスマートメーターインフラプロバイダUbiik(優必闊科技)のM&A戦略

Ubiik(優必闊科技)の創業者兼社長 Tien-haw Peng(彭天豪)氏
Photo by Junwei Hou(侯俊偉)

M&A は、新会社が市場から撤退するための手段であることもあれば、新会社が成長するための戦略であることもある。

「Weightless-P は標準的な通信技術だが、私たちは外国人顧客向けの数ある通信技術プロバイダのひとつに過ぎない」と語るのは、台湾を拠点とする IoT イノベーターで、スマートメーターインフラプロバイダ Ubiik(ユービック、優必闊科技)の創業者兼社長 Tien-haw Peng(彭天豪)氏だ。

低消費電力広域ネットワーク(LPWAN)通信の国際標準である「Weightless-P」技術を独自に開発した Ubiik は、Taipower(台湾電力)の AMI(Advanced Metering Infrastructure=高度計測インフラ)通信システムを4件落札し、累計入札額は17億8,000万ニュー台湾ドル(約82.4億円)に達した。しかしこれは、Ubiik が IoT スタートアップとして飛躍し、海外進出するには不十分だった。同社は2021年に、もう一つの主力製品である通信インフラ向け pLTE システムの開発に着手し、今年7月にはアメリカを主な市場とするニュージーランドの SCADA 通信システムメーカー Mimomax Wireless を買収し、アメリカ市場に参入した。

Ubiik は Mimomax Wireless の M&A をどのように決断したのだろうか。

M&A は珍しいが、カギは市場ニーズの解釈にある

M&A において最終的な決定権は自分側には無い。相手の意向を汲む必要がある。(Peng 氏)

Peng 氏は M&A は再現性が少なく、事前に計画することはできないし、比較的資源に乏しい企業にとっては、あまり力を入れるべきでないが、それでも M&A 戦略を立てる際には十分な準備が必要だと述べた。

戦略とは、スケジュール通りに計画を立てることではなく、なぜ相手を買収したいのか、それによって何を得たいのかを知ることであり、すべてのカギを握るのは市場の需要である。

事業開発の観点から言えば、起業家には最初の数人の顧客から収益源を見つける能力が必要だ。(Peng 氏)

Peng 氏によると、どの段階においても、スタートアップにとってまず第一の課題は、市場ニーズとアプリケーションシナリオを特定することだという。

Ubiik は設立当初、IoT のトレンドを見ていたが、当時は SigFox や LoRa のような成熟した通信技術はすでに大企業によって支配されていたため、Ubiik は利益率の低いビジネスを行わないことを選択した。Peng 氏はまた、当時の通信技術は一方向の伝送に基づいており、スマートメーターやスマート街灯のような新興のアプリケーションシナリオに対応できないことに気づいた。これらのインフラは常時接続と双方向のデータ伝送を必要とするため、市場の低消費電力と双方向通信技術とは異なる伝送技術が、Ubiik の進む方向となっている。

Ubiik が Taipower のスマートメーター案件を4度も落札したことは、Ubiik が開発した Weightless-P 技術が真に市場のニーズに合致していることを示すとともに、Ubiik が海外に進出する自信にもつながっている。しかし、海外市場は外国の技術を簡単には受け入れないため、Ubiik は事業戦略を変更する必要がある。

Ubiik(優必闊科技)の開発した「Weightless-P」技術は、Taipower(台湾電力)の AMI スマートメーターアプリケーションへの参入に成功した。
Image credit: BusinessNext(数位時代)

当時の市場ニーズは何だったか? スマートメーター、スマート街灯、スマートパーキングのアプリケーションに加え、スマートファクトリーには変圧器や電力系統の監視など、大規模なデータ伝送を行うためのプライベートネットワークのニーズがあった。Ubiik は既存の通信技術に加え、LTE-M/NB-IoT のハイブリッド小型基地局「pLTE」を開発した。これは、1km以上の距離での大規模データ伝送を実現するソリューションだ。しかし、この新製品は海外市場の獲得を目指して設計されており、スタートアップ1社が迅速に展開できるものなのだろうか。Ubiik は M&A 戦略を開始したのはこの時だった。

M&A 3つのポイント:私は何者か、なぜ私なのか、そしてこれからどこへ向かうのか

会社を買うということは、チームを買うようなものだ。彼らの顧客は誰か? 彼らの市場はどこか? これらは重要な質問だ。(Peng 氏)

Peng 氏よれば、M&A 戦略で考慮すべき質問は、「自分は何者なのか」「なぜ買いたいのか」「合併後に相手とどう協力するのか」である。

Ubiik(優必闊科技)の創業者兼社長 Tien-haw Peng(彭天豪)氏
Photo by Junwei Hou(侯俊偉)

当時、Ubiik は通信技術ソリューションプロバイダであり、探していた顧客はそうしたニーズを持つ工場やインフラプロバイダで、ターゲット市場はエネルギー転換を目指す国々だった。Ubiik はターゲット顧客とすでに長期的関係を築いている、これらの国の企業を探していた。彼らと組むことで、技術チームが迅速に連携でき、Ubiik が新規顧客を迅速に獲得することができるのがメリットだ。

最近の Mimomax Wireless の買収を例にとると、当時の同社の売上の90%はアメリカで、アリゾナ州の電力会社 Salt River Project などの顧客も抱えており、ワイヤレス通信技術にも特化していた同社は、あらゆる点で完璧に適合していた。

Mimomax Wireless と出会えたのは、とてもラッキーだった。2年前から買収されることを計画していたからだ。(Peng 氏)

Peng 氏は、Mimomax Wireless と初めて会ったとき、興味を示し、直接尋ねた。

あなたがたは会社を売却したいのですか。(Peng 氏)

Mimomax Wireless が、自分たちが市場で苦戦していることを認め、同じ技術を持つ会社に買収されることで前進を続けたいと望んでいた。Ubiik のポジショニングと方向性が明確であったため、交渉が完了するまでわずか数ヶ月しかかからなかったという。

Mimomax Wireless のこれまでの実績をもとに、Ubiik はアメリカでの認証に合格し、少数の受注を確保しただけでなく、Mimomax Wireless の第2の市場であるオーストラリアにも意図せず参入することとなった。

最初の顧客が重要だが、事業開発はさらに重要

会社の歩みを振り返り、Peng 氏は、もし Taipower からスマートメーターの案件を獲得していなければ、Ubiik は完全なソリューションプロバイダではなく、技術研究に多額の資金を費やす会社になっていただろうと率直に語った。現在、Ubiik はすでにインド、タイ、日本、アメリカ、オーストラリアで成功を収め、2026年には株式公開を予定している。努力は報われるだろう。

Ubiik(優必闊科技)の創業者兼社長 Tien-haw Peng(彭天豪)氏
Photo by Junwei Hou(侯俊偉)

Peng 氏は、Ubiik が技術に特化した企業のように見えるが、最終的には市場のニーズに戻る必要があると述べた。

最初の応用分野と最初の顧客は非常に重要で、新しいイノベーション全体の発展に影響を与えるため、製品化の段階では事業開発の役割が必要だ。(Peng 氏)

Peng 氏によれば、起業にはテーマとパートナーが必要であり、違いを見つけ、自分自身を納得させ、情熱を注いでこそ、資本を集め、着実に前進できるのだという。

Ubiik は3年連続で黒字を達成しているが、Peng 氏は Ubiik のリスクと課題を指摘することを止めない。Ubiik の収益は台湾市場に集中しており、国際市場の拡大に伴い、Ubiik は今年の台湾市場からの収益を90%から60%に減らす見込みだ。また、アリゾナ州にある Mimomax Wireless の本社を拠点として、豊富な電力システム人材を擁するカナダのバンクーバーで新たな市場攻略を開始する。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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