PFAS（ピーファス）とは、正式名称は「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物」とされ、1万種類あるとされる有機フッ素化合物の総称だ。自然には分解されにくく体に蓄積されることから有害性が指摘されており、欧米をはじめとする海外でも、そして日本でも、ここ数年の間に製造や輸入が禁止された。ただ、ここ最近、全国各所の水源、人の血液、母乳などからの PFAS の発見が相次いでいる。リスクの程度はまだ不透明だが、人類が直面する新たな危機かもしれない。

＜参考文献＞

• PFAS年10トン程度排出か　静岡市清水区の化学工場、2000年代初頭まで（静岡新聞）
• 有機フッ素化合物「PFAS」検出の各務原市　水道水を供給する水源に活性炭を設置（中部日本放送）
• 吉備中央町の浄水場の水からPFAS検出 町が水を配り対応（NHK）
• PFAS問題で多摩の自治体が独自対策　調布は災害時用井戸で水質検査、武蔵野は浄水器設置（東京新聞）
• 有機フッ素化合物PFAS、各地で高濃度検出　何が問題?（日本経済新聞）
• PFAS汚染は全国の問題　分からぬ実態　後手に回る日本（毎日新聞）

そんな中、米ワシントン州タコマに、水から PFAS を99％除去できる技術を開発したスタートアップが現れた。名前は Aquagga。筆者はタコマを訪れたことはないのだが、隣接するシアトルとタコマの間には両市から名前を取った空港「SEA-TAC」があり、おそらく街の環境はシアトルと似ているだろうと察する。シアトルといえば、RTD コーヒー飲料の名前の由来となったマウントレーニアがあり、別名エメラルドシティの名前を持つほど水が豊富なエリアだ。Aquagga はなぜ、このような地域で生まれたのだろうか。

PFAS は水、汚れ、油脂をはじくのに優れているため、長年にわたり、泡消火剤、衣類の撥水加工、焦げ付かないように表面加工されたフライパンなどに使われてきた。アメリカでは環境保護庁（EPA）は今年末までに、飲料水に含まれる PFAS の許容濃度を1兆分の1以下に制限する規則を最終決定する予定だ。また、26州の検事総長が PFAS メーカーを提訴している。化学メーカー、自治体、水道当局などは事態の収拾と市民の安全確保に迫られている。

Aquagga は、ワシントン大学とコロラド鉱山大学で開発された技術をもとに、PFAS を99％除去（正確には分解）できる技術の実用化に成功した。PFAS で汚染された水を300℃という高温と高圧の環境下に置き（つまり、すでに気化している）、石鹸などにも含まれる灰汁（あく）を加える。この環境下で、PFAS のフッ素分子が分離され、カルシウムやナトリウムと結合し、一部の国の水道水や虫歯予防の観点から歯磨きに添加されているのと同様の、緩やかなフッ素化合物に変化する。この一連の化学反応のの中で発生する二酸化炭素は、炭酸塩として固体化するので回収は容易だ。

上でも書いたように、PFAS の主な用途の一つは泡消火剤だ。空港には施設や航空機の火災に備えて泡消火剤が設置されているが、アラスカのフェアバンクス国際空港では泡消火剤が漏れ出し、これに汚染された水が施設の地下に2万ガロン（25mプールの5分の1程度）溜まっていた。Aquagga は、同社が開発した PFAS 除去ユニット「Eleanor」をフェアバンクス国際空港に持ち込み、約半分ほどの水処理を完了した。これには、連邦航空局とアラスカ運輸省が資金を提供し、空港とアラスカ環境保全局が協力した。

Aquagga は2019年に設立され、2020年に EPA 主催の「PFAS 破壊コンテスト」で優勝し、2年後に最初のプロトタイプユニットを製造した。同社は、7つの連邦政府機関とのパートナーシップを含む470万米ドルの契約、賞、実証プロジェクトを獲得し、クラウドファンディングサイト「WeFunder」を通じて54万米ドル超を、Alaska Investor Network と E8 Angels からのエンジェル投資などから100万米ドルを調達した。事業はすでに黒字化しているという。

Aquagga の社名は、確かに水を意味するラテン語のアクアにヒントを得ているが、同時に、絶滅したサバンナシマウマの一種であるクアッガ（quagga）をもじったものだ。Aquagga の Web サイトによれば、強力な経済的競争原理が働くユニコーン企業とは対照的に、自分たちは PFAS の除去に協力しようとするゼブラ企業であると説明している。同社は23日から25日まで、サンフランシスコの Yerba Buena Center で開催されるインパクト投資カンファレンス「SOCAP 2023」に参加する予定だ。

＜参考文献＞

• ‘Forever chemicals’ are eternal no more thanks to a pollution destroying device from Tacoma startup（GeekWire）
• New Portable Water Treatment System Vaporizes 99% of ‘Forever Chemicals’（ExtremeTech）