OpenAIの発表は企業ビジネスにとって何を意味するのか

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Image Credit : DALL-E :GPTアシスタントを作れと会社から命令された開発者たち

11月6日にサンフランシスコで開催された開発者会議「DevDay」で、OpenAIはGPT-4 Turboの導入、GPT BuilderによるChatGPTのカスタマイズ可能なバージョン、そしてプログラマーがアプリケーションにカスタマイズされた「アシスタント」を迅速に組み込めるようにする新しいアシスタントAPIなど、いくつかの主要な発表を実施した。

しかし、ジェネレーティブAIの活用方法にこの1年を費やしてきた企業にとって、これらの新しい発表は何を意味するのだろうか。VentureBeatは、企業のGenAIへの取り組みへの影響について、さまざまな企業のリーダーに尋ねた。

企業向けジェネレーティブAIの民主化

グローバルデジタルトランスフォーメーションコンサルティング会社、Publicis Sapientの最高製品責任者であるSheldon Monteiro氏は、GPTとAPIのラインアップによって、OpenAIはより技術的な専門知識が必要であった作業をはるかに身近なものにし、特定の役割を果たすアシスタントを実際に作ることができるようになったと言う。

Monteiro氏はまた、これまで開発者リソースを持つ大企業のみ可能だったことだと説明する。OpenAIはリソースの少ない企業向けに「民主化」することで、どんなビジネスパーソンでも特化したエージェントを作り、それを共有できるようにしたのだ。

ONの創設者兼CEOであるAlex Beckman氏は、APIをよりパワフルで使いやすくするだけでなく、AIに入力されるデータとAIが生成する情報の両方をより細かく制御できるようになったことを踏まえ、今回の発表は企業のジェネレーティブAIへの取り組みを大幅に強化するものだと次のように述べた。

「2023年4月時点の最新の世界の知識を活用することができるようになったので、首尾一貫した、文脈に関連したコンテンツはより広範囲なアプリケーションやユースケースに適したものになるでしょう」。その一方、今回の発表はユーザビリティとパフォーマンスにおいて素晴らしいものではあるが、GPT-4と同じ基礎モデルに依存していることに変わりはない、と彼は付け加えた。「OpenAIのユーザー・インターフェースもまだ遅れており、これが企業にとっての学習と採用の妨げになる可能性がある」とも同氏は述べている。

OpenAIのGPTエージェントは生産性を向上させる

データ・ユーザビリティ・コンサルタント会社であり、ジェネレーティブAIを活用したデータ品質ソリューション・プロバイダーであるInterzoidの創業者でCEOのBob Brauer氏は、OpenAIの新しいGPT、つまり、ChatGPTのカスタム・バージョンにおいて、企業ハンドブックやテクニカル・フィールド・ガイドなどの特定の知識ソースを参照し、企業内における利用で独自の受け答えができるようになったことを指摘している。これは、企業が長年にわたって蓄積してきた膨大な知識を、AIチャットボットを通じて活用し、組織全体で共有・活用できるようになったことを意味する。Brauer氏は以下のように述べた。

「潜在的な生産性の向上は計り知れません。例えば、人事部門は、200ページのハンドブック全体をチャットボット形式に変換し、全従業員がアクセスできるようにすることで、部門だけでなく、全従業員、特に新入社員の問い合わせに費やす時間を大幅に節約し、迅速にスピードアップさせることができます」。

GPT-4 Turboの長いコンテクストウインドウがゲームチェンジャーになる

GPT-4 Turboの128Kの長いコンテキストウィンドウを「エキサイティングだ」と述べるのがMonteiro氏だ。300ページ分のコンテキストがあるということは、GPTはコンテキストを理解し、ドキュメントの要約を強化し、よりまとまりのある長文のナレーション、よりまとまりのある複数パートの会話、そして細かい調整ができることを意味する。

「例えば、レガシーコードの解析にGPTを使うことがよくあります。COBOLのような古いコードはモジュール化されておらず、古いプログラムの多くは以前のコンテキスト・ウィンドウが許容するよりも長いものでした。今回の拡張によって、開発者が事前に分割しようとしなくても、GPTを使ってプログラム全体を理解することができるようになりました」。

Squareのリードエンジニア・技術責任者であるPiyush Tripathi氏は、2023年4月までの世界的な出来事に関する知識を持つGPT-4 Turboの登場は、ビジネスに優れた理解能力を可能にすると述べた。たとえば、Squareでコミュニケーション・プラットフォームの開発をリードしていたとき、Tripathi氏は約2,300万社の中小企業のユーザーベースからの顧客の懸念や問い合わせを理解するというミッションクリティカルなプロジェクトに頭を悩ませていたそうだ。同社はAIを使って対処したが、当時の技術では大量のデータを処理できなかった。

「当時は昔ながらの手作業で技術を補い、各ケースからサマリーを抽出して、さらに活用する必要がありました。もし当時、今日のOpenAI GPT-4 Turboがあれば、ゲームチェンジャーになっていたでしょう。コンテキストウィンドウが大きいので、一度に大量の会話を処理できます。このおかげで要約作業がずっと楽になり、手作業のかなりの部分から解放されたと思います」。

OpenAIの発表は、GenAIの最大の課題に対応しているか?

OpenAIのDev Dayの発表の全容が企業にとって画期的なものであるとして、誰もが拍手喝采を送ったわけではない。Domino Data Labのデータサイエンス戦略とエバンジェリズムの責任者であるKjell Carlsson氏は、GPT-4 Turboの最適化と新しい価格体系、Copyright Shieldのおかげで、ジェネレーティブAIの実証アプリケーションをこれまでよりも簡単かつ安価に作成できるようになり、実験開始を妨げていた懸念が払拭されるだろう、と述べている。その一方でGenAIアプリケーションの開発・運用という中心的な課題への取り組みは皆無だったとも指摘している。

「企業はOpenAIのモデルやAPIが、データのセキュリティ、コントロール、スケーラビリティ、信頼性、レイテンシ、あるいはパフォーマンスに対するニーズを満たしていないと不満を漏らしています。今回の発表ではこれらの懸念に大きく対処するものはありませんでした。より簡単に誰もが始められるようにしただけであって、OpenAIは価値を提供するために重要な下流の課題に取り組んではいないのです」。

企業がジェネレーティブAIの道を歩むにつれ、オープンソースモデルや、より大きなコントロールを提供できる独自の製品に切り替わりつつある。Carlsson氏は、多くの企業がジェネレーティブAIにおいて失敗するように仕向けているとさえ主張している。

「彼らはGenAI能力の開発と運用をサードパーティに委託し、自分は設計とアプリケーション開発に集中できるというシナリオを信じています。残念ながらその逆です。GenAIアプリケーションは、従来のAIやMLベースのアプリケーションと同様、いやそれ以上に社内の専門知識と能力を必要とするのです」。

組織は、真のインパクトをもたらすために、迅速かつ安全に実験する必要がある

Hugeの技術担当副社長であるJon Hackett氏は、OpenAIはリスクとコストを管理することで売上を立てている企業組織の目には非常に新鮮に映ると指摘した。一方、OpenAIの価格モデルは、規模や企業によってはまだ高い。彼は以下のように言う。

「OpenAIの価格モデルは、規模や企業がどのようにGenAIを採用するかにもよりますが、まだ高すぎます」。

このような課題を踏まえ、新しいアシスタントAPIとGPTは、カスタムしたジェネレーティブAI体験に大きく投資する前に、企業が低コストでスピーディーに実験できるようにするための賢い方法だと彼は言う。多くの点で、これはGoogle VertexがGen AI App Builderツールで発表したものと似ており、Meta Connect 2023で発表されたMetaの「AI Studio」ともよく似ていると同氏は述べた。

「より良い価格設定や料金に関する動きはより良いROIを提供するのに役立ちます。また、チームがユーザーテストのためにコンセプトからプロトタイプに移行できるようにするものは何でも、採用を促進することになるでしょう」。

しかし今後、企業は社内の生産性と消費者に提供する体験に真のインパクトをもたらすために、ジェネレーティブAIの活用を迅速かつ安全に試す必要があると同氏は付け加えた。

「この分野は、塵も積もれば山となります。AIでエッジとコンピテンシーを開発する必要があるか、競合他社に追い抜かれるかのどちらかです。もし企業が、組織内でこの分野を学び、育成するのに支援が必要だと感じているのであれば、その道を案内してくれる適切なパートナーを探すべきです」。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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