AI×動画に賭け続けたオープンエイト「ARR10億円+単月黒字」シリーズDの裏側を聞く

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オープンエイト代表取締役の髙松雄康さん

ニュースサマリー:企業向けにAIによる動画編集クラウド「Video BRAIN」を提供するオープンエイトは25日、社内向けの情報共有を可能にする「Open BRAIN」を公開した。企業内に蓄積されるノウハウやマニュアルをコンテンツ化し、社内共有を可能にするもので、従来、マイクロソフトのSharePointなどで提供されていた機能をAI活用で効率化する。社内研修や学び直し(リスキリング)などの機会を社員に提供し、企業の人的資本経営を後押しする狙い。

独自にチューニングした生成AIによる記事コンテンツの生成・下書きも可能で、同社が提供するVideo BRAINと組み合わせることで、制作した動画から記事やタグなどを自動的に生成することもできる。社内コンテンツを専門技術を有する人員ではなく、一般社員でも扱えるようにすることで効率化を図れるのが特徴。Open BRAINの利用はアカウントによる従量課金で、1アカウント100円で提供される。契約は5万円から。

動画に「人的資本経営」という新たなチャンス

話題のポイント:久しぶりにオープンエイト取材いってきました。ということで、まずはこの動画をご覧ください。

 

動画を制作(特に素人)したことがある方ならわかると思いますが、これ、作るのそれなりに時間かかるんですよね。最近でこそ、スマホ・アプリの発達によって楽になったとはいえ、特にテロップ入れる部分とかカット割って地味にめんどくさいです。じゃあ外注だ!といっても、一本作るのに最低でも数万円は必要です。さらにこれが「社内向け」ともなれば、コストは必然的に圧縮傾向に。

このペインに注目して事業を成長させているのがオープンエイトです。

近年、特に上場企業に対してはコーポレートガバナンス・コードの改訂によって人的資本経営に対する取り組み開示が求められるようになりました。要は働いている方々を資本として捉え、研修やリスキリングなどを通じてそのパフォーマンスを最大化させてください、という要望です。これに伴って社内のナレッジ共有やマニュアル化といったプロセスが注目されているんですね。

ここのポイントは「社員の方が楽しんで見てもらえるか」という点です。まあ、言わずもがなですが、社内ミーティングの議事録や研修マニュアルを楽しく読み込むというシーンは限られるわけです。

そこで効果的なのが動画、となるわけですが、これを楽しいバラエティ動画を見ているような表現に制作し直すのは至難の業です。つまり、ここをオープンエイトはAIの力で効率化したのですね。公開されている利用企業の中には地域のカーディーラーさんが含まれているのですが、社内会議の様子を動画で撮影して、それをVideo BRAINのテンプレートで編集すると、こうした地域の企業さんの一般社員の方でも冒頭に挙げたような編集が可能になっているとのことでした。

AIと動画に賭けたオープンエイトの勝利

Video BRAINの利用顧客には大手含め様々な企業が並ぶ

この自動編集を可能にしたのがオープンエイト独自のAI開発技術とデータセットです。

実はオープンエイトは2015年の創業時、動画広告アドネットワークを事業の柱としてスタートアップしていました。その後、スマートフォンの縦型動画に合わせたメディア展開なども手がけるものの、さらなる事業成長のためにはモデル自体を変更する必要があり、2018年にピボット。ここで生まれたのが現在、主力になったクラウド動画編集の「Video BRAIN」でした。当時、同社代表取締役の髙松雄康さんは筆者の取材に次のようなコメントをくれています。

「予算が潤沢にあるクライアントは企画や撮影に力が入れられるので、当然良いものが作れます。けど、街の小さなお店や社内コミュニケーションにはそういった力が不足する場合があります。

例えば、とある大手飲食チェーンで社会貢献活動(CSR)をしているのですが、そこは数名のチームだったんですね。恵まれない子供たちの写真や動画素材がたくさんあるけど、その編集にすごく時間がかかってしまう。編集プロダクションに依頼すれば数十万円のコストがかかる。

ここを効率化すれば事業スピードも上がるし、企業コミュニケーションの質が上がります。それまで理解できなかった情報が感動を与えるものに変化するんです。そういう企業のリクエストに応えたい」(高松氏・15億円調達のオープンエイト、人工知能ビデオ編集「VIDEO BRAIN」公開ーー「企業メッセージが動画になれば世界は変わる」)。

高松さんの読みは当たり、主力のVideo BRAINはじめ、今回公開したOpen BRAINなどを契約している企業は2018年のサービス開始以来、累計で800社に拡大したそう。特に大企業の導入が進んでいるらしく、日経225に掲載されている3割が利用ユーザーということでした。

特にAIについては、2023年に勃発したChatGPTによる生成AIの登場が強烈な後押しになっています。オープンエイトでは動画生成に関するデータセットをこれまで独自に積み上げているので、動画の発言内容から類推してタグやカテゴリを出力したり、GPTなどと連携してビジネスシーンにあったコンテンツを生成するといったことがやりやすくなっているのです。

まさしくスタートアップの鉄則「チャンスの波が来る前に沖に出ておく」を実践したワケです。

この時期だから評価されるシリーズDラウンド

新たな成長材料としてエンタープライズの情報流通に攻め込むOpen BRAIN

オープンエイトではOpen BRAINの公表に先立ち、累計で80億円の資金調達についても公表しています。高松さんに詳細を聞いたのですが、今回のリードは三菱UFJキャピタル。これにかんぽNEXTパートナーズが続き、ラウンド単体では8億5,000万円を調達したということでした。なお、アイドマ・ホールディングス(東証:7373)とは資本だけでなく業務提携なども含めるそうです。資金使途は事業拡大に向けての人員強化。現在、80名ほどの規模なのですが、M&Aを含めてこれを拡大させていくというお話でした。

スタートアップの資金調達ウォッチをしている人であれば、この時期のレイターラウンドでの調達がとても易しいものでないことは理解できると思います。年初の挨拶にも書きましたが、ここ2年は公開市場におけるテック・スタートアップの成績はとても厳しいものでした。グローバル・ブレインの百合本安彦さんが指摘したように、特にレイターでの評価は本当に厳しく、平均して6割減という状況になっています。当たり前ですが、株式公開して公募割れする株式を買いたいと思う投資家はなかなかいません。

しかし、やはりというか、ここは経営者の采配が光る部分だったのではないでしょうか。高松さんは5年前にこの状況を先読みして事業モデルをビジネス向けSaaSに変更し、さらに一昨年からは市況を判断して単月黒字化することにしたそうです。詳細は非公開ですが、現在、ARR(年次定期売上)ベースで10億円以上をキープしており、これが今回の株価評価に繋がったというお話でした。

通常、スタートアップの成長モデルでは株式公開前まで(場合によっては公開後も)「成長期待値」を最大化させるのが特徴です。そういう意味で公開前の早期黒字化というのは(公開時の足元除いて)あまり求められるものではないのですが、中長期の資本政策においてデットの活用(返済原資には利益が必要)などさまざまな選択肢を使えるという点で有利になります。

ここ最近ではタイミーのデット活用事例など、これまでのスタートアップ成長論では語りきれなかった新たなパラダイムが生まれているようにも感じています。

高松さんは元々、アイスタイルで経営陣も務めた資本市場の経験者です。ベテランがどのようなスタートアップ像を作るのか、そういう視点でもオープンエイトの成長は引き続き注目したいと思います。

※会員限定記事ですが、本日一杯は無料で公開いたします。

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