2024年はスタートアップを再定義する年にーー新年あけましておめでとうございます!

SHARE:
Image made by DALL-E / BRIDGE・谷に落ちた龍は復活するのでしょうか

新年あけましておめでとうございます!編集部の平野です。旧年中は本誌BRIDGEを読んでいただいてありがとうございました。一昨年より開始しているMembersの方も登録いただいている方の数が8,000名を超えまして、近く1万人の読者コミュニティになる見込みです。Discordの方も3,300名の方にご参加いただいておりまして、いよいよ2024年からは新たな取り組みを開始すべく準備を進めております。

読んでいて楽しい、参加もできるBRIDGEを目指しますのでぜひご期待いただければ幸いです。

さて、タイトルにも記した通り、今年は改めてスタートアップとは何かを考え直す方が増えるのではないかなと考えております。昨年の年始にも、スタートアップの出口戦略の本命でもあるIPOについて次のようにおさらいをしておりました。

さて、2023年が始まりました。スタートアップのみなさんにとっては昨年は結構厳しい予兆が感じられた一年だったのではないでしょうか。グローバル・ブレインさんの年次イベントでレポートされていましたが、IPOの平均評価額が2021年平均の162億円だったのに対して82億円と半減。IPO件数については2021年の123件に対して94件とそこまで落ちていませんが、やはり気になるのはは今年ですね。

というのもミクシィなどのネット第二世代、ソーシャルゲームなどで盛り上がった2006年のIPO件数が(当時の周辺市場含めて)188社(前年比で約30社増)と爆発しているのに対して、2008年のリーマンショックの翌年、2009年のIPO件数が19件、2010年が22件と激減しているからです。

年末にベンチャーキャピタリストの丸山聡さん(JVCA VCナレッジ部会委員/元ベンチャーユナイテッド・現在はStarshotPartners, Inc.のGM)と2022年のIPOを振り返ったのですが、公募割れがかなり目立っていて、テック系スタートアップの成長率に対してかなり厳しい目が向けられている印象でした。昨年一番の注目銘柄だったANYCOLORは現在も公開価格に対して4倍ほど付けていますが、足元の利益成長が思ったほどでないとみると一気に急降下し、最高値から半減するジェットコースターぶりです。(新年あけましておめでとうございます【CANVAS 編集後記】

実は昨年末もまた丸山さんと一年の振り返りをしておりまして、2023年のIPO企業件数は96社と昨年の91社(※注:昨年記事の94件は見込み数、着地は91社)から5社増えているものの、やはり評価が厳しい。百合本さんのレポートにもあったように国内のシードやシリーズAラウンドなどの若いラウンドはまだそこまで落ちていないものの、レイターについてはダウンラウンドが顕著で、1年前比較で6割ほどの時価総額が失われている状況になっているそうです。

GBAF2023スライドから:日本も同様にレイターステージの評価額は激減した

そしてこの状況を明確に示したのが公開市場における公募割れです。

丸山さんとも確認したのですが、22年に18件あった公募割れが23年は26件と大きく増えています。スタートアップや情報系の銘柄としてもナイルや売れるネット広告社、ネットスターズなどが厳しいスタートを切っています。

一方、じゃあM&Aがあるんじゃないかと考える経営者の方もいるかもしれませんが、企業による買収はIPOと理屈が異なります。私自身、事業売却で走り回った経験がありますが、一般的に赤字の場合はよほどの理由がない限り大きな株価を付けることは難しく、また営業利益が出ている場合でも買収側は当然、その利益水準での回収を考えますから評価はその利益に基づく計算になります。

丸山さんも「公開市場での株価形成とM&Aの理屈は違う。一般的に営業利益に加えてユニークな資産があれば株価はつくが、そもそも投資家の期待リターンに対して『上場ができないからM&A』っていう理屈は無理」と指摘していました。

実際、成長余地を残した大型の買収劇としてはかつてKDDIが子会社化したソラコム(2017年・200億円規模)、2022年にMUFGが250億円評価で買収した後払いのカンム、同じく後払い系スタートアップで、PayPalが27億米ドルで買収したPaidy(ペイディ)、そして昨年に報じられた人事評価クラウド「HRBrain」の話題があります。HRBrainについては、同社の一部株主の持分についてスウェーデンのPEが買い取るというスキームで、周囲からもファインプレーと評価する声が多く、日経が報じた全体評価額が200億円でした。

他にもあったかもしれませんが、約6年の間に数件です。

つまり、成長余地を残したテック・スタートアップという文脈での大型M&Aが「急にバンバン出てくる」ことは想像し難いです。ちなみに可能性があるとしたら、DMMがCASHを提供するバンクを70億円で買収した事例のように、プライベートカンパニーが留保資金を活用するというケースです。

前門のIPO、後門のM&Aとも言うべき状況において、特にレイターステージのスタートアップや投資家に何が起こるか、それはもうすでに発生していますが、強烈なダウンラウンドの発生です。海外ではBirdのように一時期に持て囃されたスタートアップの破産が始まっていますが、これは日本でも可能性が十分にあり得るわけです。グローバル・ブレインの百合本さんが「ユニコーン・ファクトリー」と表現してその株価形成の仕組みを説明していました。

GBAF2023スライドから:実態と乖離したユニコーンを製造する仕組みが大量の幻を生み出した

「10年前に44社だったのが今1350社ということで、バリュー(評価額)の累計は5Trillion、大体700兆円ぐらいですね。(中略)圧倒的に供給が多い状態です。資本効率性、収益率が悪い「MOAT(註:強い競合優位性)」がない企業に対してたくさんの資金が投下されてしまったということです。バブルが起きてしまっているという状況で、1350社の必要資金は2500億ドル、つまり約40兆円ぐらいの資金が必要ということですが、この資金は市場にはないという状況なので、この半分ぐらいがなくなる可能性が十分にあると考えています」(年明けは激増した「ユニコーン」倒産危機ーーグローバル・ブレインが年次「 #GBAF2023 」開催、百合本氏が見通し語る)。

ではこの厳しい環境、2024年以降どのようになるのでしょうか。

まず、市場がいつ頃戻るかという話ですが、重要なポイントが「バブルのような相場には戻らない」という点です。上記のような仕組みを経験した以上、投資された資本の出口とも言うべき資本市場に最適なビジネスモデルかどうかは厳しく精査されることになるはずです。かつて、2010年代前半、スマホシフトが発生するということだけで値段がついた株価の幻想、そしてそれを引きずった「ユニコーン・ファクトリー」的株価形成はもうないということです。

そういうバブルなモメンタムは失われました。

一方、T2D3(3倍成長2年、倍々成長3年の成長モデル)を実現できるスタートアップは逆に希少な分、大きなチャンスがやってきます。実際、LayerXのように若いラウンドで3桁億円を調達するスタートアップも出てきていますし、投資サイドのドライパウダーも残っている今、適切な事業を発見した起業家はこれまで以上に一気に成長する可能性があるわけです。

丸山さんと2024年はスタートアップがどういうものなのか、その定義が変わる年になるかもねと話をしていました。丸山さんも今年の展望についてブログを書いているので興味ある方はご一読されると良いと思います。ちなみに黒バックに青文字の箇所は著しく読みづらいです。

昨年登場したGPTのような生成型AIを筆頭に、成長しているクリプト・ブロックチェーン技術とそのマーケット、さらにメタバースについてもゲームを中心に本当にわくわくするタイトルが出てきています。個人的にはこういったテック・技術を背景に、新たなパラダイムシフトを巻き起こす起業家の方が出現し、これまでのバブルなスタートアップの概念を覆してほしいなと願っております。

年始のコラムと共に2024年、新年のご挨拶とさせていただきます。

本年もBRIDGEをどうぞよろしくお願いします!

BRIDGEシニアエディター・ブロガー
/株式会社THE BRIDGE代表取締役
平野武士

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する