なぜ日本企業は「アフリカ」に進出すべきなのか

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載。反田 広人氏が執筆し、Universe編集部が編集した。

グローバル・ブレインにて主にアフリカ地域のスタートアップへの投資を担当している反田です。前職では豊田通商アフリカ本部にて、販売代理店向けの自動車輸出業務や、現地に駐在しながらアフリカスタートアップのプロダクトを活用したDX推進プロジェクトをリードしていました。

スタートアップ投資において、アフリカ市場はその成長性の高さから世界的に注目を集めています。しかし、日本でスタートアップへの投資や協業を行っている方の中には、「高リスク地域」としての印象が強く、新規ビジネスを展開するエリアとしてはハードルが高いと感じる方も多いと思います。

そこで本記事では、なぜいまアフリカが注目されており、日本企業がアフリカへ進出する好機であると言われているのかを解説します。アフリカ主要国が積極的に行っている外交状況や急速に強まっている日本との関係性、アフリカのマクロ環境、技術革新などについて概観しますので、アフリカのいまを捉えていただけると思います。

新たな歴史を刻むように、躍進するアフリカ

現在、アフリカは「グローバル・サウス」と呼ばれる開発途上国の中でも、群を抜いて潜在力が高まっていることから世界的な注目を集めています。興味深いのは、これまでのアフリカの歴史や通例とは異なる形でその存在感を表してきている点です。

アフリカは長らく大陸間の対立に巻き込まれていました。宗主国による直接的な支配が終わっても、米国、欧州、中国、ロシアなど大国の影響で、経済状況が左右される時代が続いていたのです。

しかし、現在のアフリカ諸国の首脳陣はそうした大国になびくわけではなく、彼らとは一線を画しながら自国の経済成長の最大化を狙っています

それを象徴するのが、2023年の5月に就任したナイジェリアのティネブ大統領の動きです。ティネブ大統領は2023年にインドで開催されたG20の際、常任メンバー加盟検討のために世界のあらゆる国家元首の中で最初にインドを訪問。その航路や現地においても他国の支援を受けることはなく、自国が世界の課題解決に果たせる役割などについて積極的に主張し続けました。

ナイジェリア単独での常任メンバー参加は見送られたものの、こうしたアフリカ首脳陣による積極的な対外政策も影響し、2023年9月にはアフリカ連合(AU)のG20常任メンバー入りが決定。アフリカ諸国が米国や中国などと対等に並ぶ、自立した大国を目指していることを世界に知らしめました。

また、日本におけるアフリカのプレゼンスも高まってきています。

日本のアフリカ開発の歴史は、1993年に開催された第1回アフリカ開発会議(TICAD:ティカッド)に始まります。そこから2000年代に入り、両者の結びつきは加速度的に強まっていきます。

2008年のTICAD Ⅳでは「官民が連携してアフリカ開発を進める」という方針が発表され、民間企業のアフリカ進出が大幅に進むきっかけとなりました。さらに、2016年のTICAD Ⅵからは5年ごと開催から3年ごと開催に短縮され、より積極的に会議の場が開かれるようになったのです。

直近開催された2022年のTICAD Ⅷにおいては、岸田首相より「今後3年間で官民総額300億ドル規模の資金を投入する」ことが表明され、「チュニス宣言」として採択。その中で「活力ある日本とアフリカの若者が取り組むスタートアップに焦点を当てる」と言及され、スタートアップに資金投入されることが明確になりました。

なお、2025年に横浜で開催される次回のTICAD Ⅸでは、チュニス宣言の実行状況が議論されると見込まれています。今後はより一層日系民間企業による出資・協業などを通じたアフリカスタートアップへの事業創出への期待が高まると思われます

マクロ環境で見るアフリカの捉え方

日本の資金投入が予定されているアフリカはどのような状況にあるのか、マクロ環境から見ていきましょう。細かな数字やデータを知るというよりも、アフリカの概略を大まかに掴んでもらえればと思います。

5つのエリアと宗主国

経済環境などを語る際、アフリカ全体でまとめて見るケースもありますが、ここでは少し詳細に各地域の状況を見ていきましょう。

アフリカには54もの国が存在します。アフリカでのビジネスを考える際には、「北部」「東部」「西部」「南部」「中部」5つの地域にわけながら主要国をみるとわかりやすいです。

  • 北部:域内で経済規模が最も大きいエジプトを中心とした6ヶ国
  • 東部:日本企業の進出数が多いケニア、1億人以上の人口を有するエチオピア、“アフリカのシンガポール”を目指すルワンダを抱えた14ヶ国
  • 南部:長らくアフリカ経済をリードしてきた南アフリカを中心とした10ヶ国
  • 西部:アフリカで唯一2億人以上の人口を擁するナイジェリアを中心とした15ヶ国
  • 中部:市場の改善余地は大きいが成長ポテンシャルのあるコンゴ民主共和国を有する9ヶ国

あわせて踏まえておきたいのが宗主国の存在です。かつて植民地時代にその国の宗主国がどこだったかによって、進出している外資系企業の特徴も変わってきます。アフリカでの投資戦略を考える上では、エリアとあわせてかつての宗主国を考慮しておくのが重要です。

さまざまな宗主国が存在したが、中でもフランスやイギリスとの歴史を有する国が多い

広大な土地

アフリカの国土は日本の20倍と、私たちの想像よりも大きな大陸です。日本、アメリカ、中国、インド、そしてEUを合わせたよりも大きい土地が広がっており、東と西の端の町はまるで別世界のように文化が異なります。

急増する人口

アフリカは世界でも人口が多いエリアです。エジプトやナイジェリアなどは1億人以上の人口を抱えており、まもなくコンゴやエチオピアも1億人を突破すると見られています。

以下の図は、2025年、2050年それぞれの都市圏における人口数の予測です。2050年にはアフリカ5都市の人口が世界人口の26%を占め、世界の4人に1人がアフリカ人になると見込まれています。

なお、アフリカの生産年齢人口(15〜64歳)は2080年頃がピークです。世界の中でも最後にピークを迎えるとみられており、長期にわたる経済成長が見込まれます。

GDPも着実に向上

エジプトやナイジェリアなどのアフリカ主要国のGDPはここ30年で6~8倍に成長しています。これはベトナムやフィリピンなどに並ぶ成長率で、アフリカの順調な経済発展が見てとれます

アフリカ最大の変化は「携帯とネットの普及」

アフリカにおける特筆すべきマクロ環境の変化は、新しいデジタル技術が一気に普及する「リープフロッグ(飛躍的発展)」が起きたことです。この背後には、携帯電話とインターネットの普及率が大きく影響しています。

過去10年でアフリカ全体の携帯電話加入数は3倍に増加し、普及率は100%を超えています。つまり、1人当たり2〜3台の携帯を契約しているという状況が生まれました。

この背景にあるのは、モバイル送金の急拡大です。アフリカには、貯蓄や信用がないために従来の銀行口座を持てない層が多くいました。そのため、口座がなくともお金のやりとりができるモバイル送金サービスが急速に拡大したのです。このサービスの代表格にはケニアの「M-PESA」が挙げられます。

また、お金の送り先を「仕事用」「家族用」などで分けるために、1人で複数の携帯を持つという文化も定着。携帯電話の普及を受けてさまざまなFintechサービスが勃興し、アフリカは一躍Fintech過熱エリアとなりました。

またこれによって影響力をつけたのがテレコム企業です。彼らはアフリカでの大きな販売網やマーケティング力を持っています。アフリカでのビジネスにおいては、各エリアのどのテレコム企業と連携するかを踏まえておくことが肝要です。

最後に

外交情勢やマクロ環境など、さまざまな角度からアフリカのいまをご紹介しました。本記事を通じて、少しでもアフリカへの投資・協業のポテンシャルを感じていただけていれば幸いです。

今後も、実際にアフリカで急成長しているスタートアップについてや、日本企業がアフリカ進出をする際のポイントなどについて発信していく予定です。ぜひ次回もご覧いただければと思います。

(GB Universeの更新情報はグローバル・ブレイン公式Xにてお届けしています。フォローして次回記事をお待ちください)

参考資料

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