Y Combinator、2024年夏バッチに向け投資強化新3分野を発表

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Y Combinator via Flickr by Paul Miller

世界的インキュベータの Y Combinator (YC)は先週、今夏バッチの採択対象とするスタートアップ領域を発表した

YC のパートナー兼マネージングディレクタ Dalton Caldwell 氏は次のように述べた。

スタートアップへのリクエスト(RFS=Request for Startups)は2009年以来、YC グループの伝統となっており、私たちはこのリストを利用して、一部のプロのマネージャーに特定の分野への投資を促すことを望んでいる。あるいは、既にその分野に打ち込んでいる経営者や従業員にインスピレーションを与え、YC への応募を検討するきっかけになることを願っています。

最新の RFS では、AI 技術(基本モデルのファインチューニング)、ヘルスケア(長寿、記憶力向上)、情報セキュリティ(フェイク映像の防止)、クリエイターエコノミーという当初のカテゴリに加え、起業家サークルの参考となるよう、さらに3つの新興分野を挙げている。

Apple Vision Pro が巻き起こす「空間コンピューティング」ブーム

1つ目は「空間コンピューティング」だ。YC のパートナー Diana Hu 氏によれば、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)技術は10年以上前から醸成されてきたが、Apple Vision Pro と Meta Quest 3の発売により、人間と機械の相互作用の想像が徐々に結実してきたのは最近のことだと指摘する。技術の進歩により、視線追跡やジェスチャーコントロールがより精巧になったことで、ユーザ体験はより良くなっているが、まだ改善の余地が多く存在する。

最高の UX/UI(ユーザエクスペリエンス、ユーザインターフェイス)をつり出すには、克服すべき課題がまだあります。(Diana Hu 氏)

宇宙産業は次の大きな課題

YC のもうひとつの関心分野は、新しい宇宙スタートアップの可能性だ。YC 幹部は次のように指摘した。

ロケットを打ち上げるコストは低くなっている。Space X が2006年に初めてロケットを打ち上げて以来、コストは10倍以上下がった。今では、スタートアップが人工衛星を製造して打ち上げるために必要なのは、1回のシードラウンドの資金調達だけで十分だ

宇宙へのアクセスが、飛行機での旅、海運、トラック輸送と同じくらい一般的で安価になる……それはどんな新しいビジネスを解き放つのだろうか? この幹部は、世界は予測可能な未来に移行していると指摘する。

「宇宙スタートアップを立ち上げる」というのは、創業者にとっては野心的すぎて敷居が高く聞こえるかもしれないが、実際にはソフトウェア会社を立ち上げるよりも必ずしも難しいことではない。YC は、アメリカの衛星通信スタートアップ Astranis、ロケットメーカーの Relativity Space や Stoke など、数多くの宇宙企業に出資してきた。彼らの成功率は、他の企業に劣らず、おそらくそれ以上だろう。

グリーンフィンテックやカーボンアカウンティング(炭素会計)も対象に

クライメートテックもリストに加わえられた。YC グループのパートナー Gustaf Alströmer 氏は、YCは今後、エネルギー関連、気候適応、グリーンフィンテック、カーボンアカウンティング(炭素会計)、カーボンオフセットのスタートアップへの資金提供に興味があると述べた。

スタートアップ企業が炭素排出を削減する商業的ソリューションを提供したり、大気から二酸化炭素を除去する新しい方法を見つけたりする意欲があれば、壊滅的な気候変動を回避できる可能性は十分にあります。

Gustav 氏は、クライメートテックにおける潜在的なビジネスチャンスは、収益性の面だけでも大きく、推定で30億~100億米ドルの EBITDA を回収できると述べた。

最近の法規制も、既存の市場動向を大幅に加速させるだろう。例えば、アメリカのバイデン大統領は2022年、インフレ、炭素排出、大気汚染の削減を目指すインフレ削減法に署名した。連邦政府は同法に真剣に取り組んでおり、その実施に数千億ドルを費やし、2030年までにアメリカ国内の二酸化炭素排出量を40%削減する10カ年計画を立てている。

締切は4月22日

YC が募集しているアイデアは、決してここに掲げた分野だけではない。YC の 2024年夏の募集は応募受付中で、早期締切は2月20日に終了したが、通常締切は4月22日に設定されている

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