若手に広がるIPOへの意識変化ーー「カオスからうねりを」家入氏のNOW、九段下に住友不動産と新拠点

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オープニングパーティーには関係者が集った

スタートアップファンド「NOW」は2月6日、新たなコミュニティ拠点となる「NOW Square」のオープニングパーティーを開催した。出資する支援先のスタートアップやファンドのLP(リミテッド・パートナー)、関係者など80名以上が会場に集まった。主催するNOWジェネラル・パートナーの梶谷亮介氏はかつて自身も通ったスタートアップのインキュベーションオフィス「新大宗」ビルを引き合いに、NOWを起点としたオープンなコミュニティづくりを目指すと抱負を語った。

NOWの開始は2018年。家入一真氏と梶谷氏をジェネラル・パートナーに、これまで2つのファンド(Founder Foundry 1号・2号)を組成。総額66億円を運用している。対象となるのはシードからレイターまでの幅広いステージのスタートアップで、現在までに約100社ほどに投資している。投資先にはIPOを果たしたヌーラボやトリドリ、yutoriが含まれる。

同社は今回、九段下にある住友不動産が保有するビルの2階にコミュニティスペース「NOW Square」を設けた。約70席ほどが確保できるスペースには支援先のスタートアップが入居するほか、3割ほどをNOWに出資するLP企業や関係先にも開放する。「スタートアップエコシステムには様々な関係者が存在する。こうしたステークホルダーたちがオープンに集える場所にしたい」(梶谷氏)とのことだ。

オープニングの挨拶に立つNOWジェネラル・パートナーの梶谷亮介氏

話題のポイント:2023年はコロナ禍からの復帰、こうしたイベントについてもほぼオフライン・対面が戻ってきた感がありましたが、スタートアップエコシステムの方もいろいろ動きが生まれてきています。特にリアルな拠点については、ベンチャーキャピタルが麻布台ヒルズに集まったり、渋谷にジェネシア・ベンチャーズの新拠点「Orbit Shibuya」、XTech VenturesとスカイランドベンチャーズのVC2社にて共同運営を開始した「Next Base」、同じく渋谷にF Venturesが「TORYUMON OFFICE SHIBUYA」をオープンさせるなどコミュニティ回帰への動きが続いています。

今回のNOWもそれに続くものです。飯田橋・九段下には東京理科大や東大などが近隣にあり、また住友不動産の再開発エリアにあたるということで、新たなスタートアップの集積エリアの中心としてNOWと連携することになったというお話でした。

2010年以降のスタートアップ「出世ビル」と言えばやはり六本木にあった柳ビルと渋谷・道玄坂の新大宗ビルが記憶にあります(あとラトゥール新宿)。柳ビルにはメルカリやBASE、CAMPFIRE、Gunosy、カンム、フリークアウト・ホールディングスなどなど、急成長・上場を果たしていった面々が入居していただけでなく、彼らを幅広く支援したEast Venturesも入居していました。NOWは今、まさにこの立ち位置になったというわけです。

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2011年当時、フリークアウト・ホールディングスやカンムも入居していた柳ビル。写真中央はみんなのマーケット社(写真提供:カンム)MUFGが250億円評価で買収したカンム、その理由【八巻氏インタビュー】より

ちなみに個人的にとても記憶にあるのがアイスマン福留さんと亀です。水槽(とても汚い)から逃げ出した亀をみんなで探していたのを覚えています。また、六本木ということもあり、awabarが仕事の後のコミュニケーションスペースになっていました。筆者もそこでBASEの鶴岡裕太さんを紹介してもらい、当時大学生だった彼の作ったBASEの原型(当時は会社になってませんでした)を見せてもらったのは本当にいい思い出です。

特にシード期のスタートアップは情報が乏しいので、こうした投資家や横つながりのスタートアップとの情報交換を通じて成長のチャンスや、時に苦しい場面でのサポートが期待できるのもコミュニティのよさです。柳ビルに在籍していたカンムは、先に上場を果たしたフリークアウトから支援を受け、先日の大型買収につなげています。

若手起業家のIPOに対する意識変化

大雪で移動ができずオンライン参加となった家入一真さん。

現在、NOWが出資したスタートアップは約100社ほどになっているそうです。ポートフォリオには食べチョクで全国区になったビビッドガーデンやIEOを発表した次世代SNS「Yay!」運営のナナメウエ、小売流通のDXで急成長した10Xなどが並びます。また、前述の通り、ファンド立ち上げから約5年で3社の上場をみました。

ただ、ここ数年は市況も悪くなり、IPOへの考え方も変わってきているようです。そもそもスタートアップという成長モデルを選んだ段階でIPOやM&Aといった「株式の出口(イグジット)」はひとつのマイルストーンとして設定されます。

簡単に説明すると、一般的に創業期の企業が「成長する前に」普通株式で資金を増資しようとした場合、企業の資産価値(資産)がほぼゼロの状態で資金を集めることになるので、必然的に大きな株式のシェア(権利)を出資者に与えることになります。この資本政策の課題を解決したのが「種類株」で、出資者にいろいろな条件をつける代わり「将来の期待値」を企業評価に加えるようになったのですね。この一般的な条件のひとつが「株式公開(IPO)努力」になります(※一部にはこの条項を外すケースもでています)。

しかし、特にここ2年は新規公開の公募割れも目立つようになり、出資者・スタートアップ共に株式公開に対する期待値が薄れている、という状況があります。さらに言うと社会的なトレンドもあり、例えば社会起業家に見られる課題解決は、この「ザ・資本主義レース」による成長モデルにはフィットしにくいという問題も出てきています(この点、家入さんはCAMPFIREをはじめとする金融包摂の考え方で解決方法を探っていたりしますが、また別のところで)。

この点について家入さん、最近は特に若手起業家からIPOに対する「意義」を聞かれる機会が増えたそうなんです。こんなふうに語っていました。

「ぶっちゃけIPOってどうなんですか?みたいなのを聞かれる機会が増えて。これまでpaperboy&co.(現GMOペパボ)、BASEと上場を経験してきて、確かにそのプロセスってハードシングスがあるんです。でもね、なんていうかな『パブリックになる瞬間』っていうのかな。言葉が難しいけどやっぱり、その時が好きなんです。社会の公器になる、世の中に認めてもらった喜び。だからね、こう答えるようにしてる。『IPOっていいよ』って」(家入さん)。

NOWとしてようやく活動を開始する

ここ数日の豪雪で自宅から出れなくなった家入さん(写真は本人提供)

NOWが立ち上がった時、取材で記憶に残っているのが「若い人には怒りがある」という家入さんの言葉です。

原体験の重視は色んなところでも言ってますが、何に、と聞かれたらコンプレックスや『怒り』みたいなものじゃないかな。あからさまに心の底から何かに対して怒ってる。それは自分のコンプレックスや経験に基づくものかもしれないし、社会に対してかもしれない。彼らって、自分もそうなんだけど人に会って目を見ないんですよね(笑。でもこう、ちらっと見えるその奥底が怒ってるっていうか(家入一真は50億を「若き怒り」に投資するーー新VCのNOW、企業経営者らと創設)。

社会に出たばかりの若い人たちは(かつての自分もそうでしたが)お金も居場所もできることも全てが制限されている状態です。だからこそ社会の問題、声を上げられない人の顔がよく見える。社会に対する問題意識、怒りのようなものをふつふつと「内に秘めた」起業家こそ、本当の意味でこの辛く長いマラソンを走り切ることができる。

ただこの怒り、一人で燃やすととても疲れるんですよね。だからこそ辛い時に支え合うコミュニティの存在が必要になるのです。家入さんはかつてのpartyfactoryやリバ邸など、コミュニティづくりについては天性の「何か」を持った存在です。ようやくNOWとしての活動をスタートできるーー。イベントの終わり、家入さんは次のようなメッセージを残していました。

リバ邸は不登校、会社に就職してメンタルをやられてしまった若手のために六本木に居場所をつくったのが数年前です。今は100箇所ぐらい広がっていて、このシェアハウスから起業家が生まれるようになりました。六本木初代リバ邸にはBASEの鶴岡くんがいましたし、現在の執行役員のメンバーもここにバラバラと集まってきたメンバーたちです。

雑居ビルに自然と名だたるスタートアップたちが集まって寝泊まりを一緒にして、ぐちゃぐちゃになって、そういうカオスな時代もありました。

力もなくて信用も、学歴も、お金もない。だからこそ場が持つ力、そういう場所を通じてチャレンジできる、失敗しても助けてくれる、そういう『場の持つ力』を信じてきました。当時と違ってインキュベーション施設も増えて、スタートアップもカジュアルになってきました。だからそこNOWとしてできる「カオスからうねりを作る」場所づくりをしたいなと思ってます(家入さん)。

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