東急アライアンスプラットフォームが2023年度のデモデイを開催、スタートアップ6チームが共創事業をピッチ

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Image credit: Masaru Ikeda

東急(東証:9005)は12日、都内で同社のスタートアップ共創プログラム「東急アライアンスプラットフォーム(TAP)」2023年度の最終審査会を開催し、東急グループとの事業共創に至った6社が登壇した。

8年目を迎えた TAP は、東急グループのリソースを活用し、スタートアップにテストマーケティングの機会を提供するのが特徴。2018年度からは締切を設けない通年募集、適宜共創を検討するという体制となった。2020年度からは、東急グループとの事業共創を前提とせず、東急グループにとっての全くの新領域も採択の対象となった。グループ傘下28事業者(22社)17領域が参加している。

2021年には、東急アクセラレートプログラムから東急アライアンスプラットフォームにリブランドした。第1期からの通算での応募累計1,062社、うち PoC を実施した件数は累計126件、事業化や本格導入が44件、事業提携や資本提携を結んだのは8件に達した。2023年度に新たに追加された協業件数は23件。12日はその23件の中から共創内容が具体化した6社が登壇した。

最終審査会では、新規性、親和性、成長性、実現可能性の4つの観点での定量評価に加え、審査員のディスカッションによる定性評価も加え審査され、その結果、各賞が贈られた。今回の最終審査会で審査員を務めたのは以下の方々だ。

  • SBI インベストメント CVC 事業部長 加藤由紀子氏(外部審査員)
  • ポーラ・オルビス ホールディングス 総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当 岸裕一郎氏(外部審査員)
  • デロイトトーマツベンチャーサポート Morning Pitch 運営統括 永石和恵氏(外部審査員)
  • 東急 取締役社長 堀江正博氏(審査員長、社内審査員)
  • 東急 執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 東浦亮典氏(社内審査員)

なお、YouTube でイベントを鑑賞した一般参加者の投票結果により、オーディエンス賞が贈られた。スタートアップとの取り組みが評価されるベストアライアンス賞は、東急電鉄に贈られた。

【東急賞(最優秀賞)】フードリボン × 東急電鉄

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賞金:109万円

沖縄の大宜味村に本社を置くフードリボンは、未利用の農業資源を活用することで生産者と消費者を結び付ける取り組みを行っている。同社が注力しているのは、パイナップルの葉やバナナの茎などの農産物の残渣に水を高圧で噴射することで繊維を抽出する技術だ。この技術で取り出された素材は、アパレルのほか、バイオエタノール、バイオプラスチックなど価値ある製品に生まれ変わる。

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東急電鉄とは、東急田園都市線地下5駅のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」の一環として昨年5月から9月にかけ展開された、駒沢大学駅前地域循環プロジェクト「KOMAZAWA MOAI FARM」に参加。苗植えや野菜栽培を体験した地域住民に、フードリボンが MOAI ポイントを付与し、協賛各社提供の在庫処分で廃棄されてしまう洋服や規定外野菜などと交換できるようにした。

同社は、「Okinawa Startup Program 2020-2021」に採択され、IVS 2022 NAHA のピッチコンペティション「LaunchPad」でファイナリスト登壇した。

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【渋谷賞(優秀賞)】グリーンズグリーン × 東急電鉄

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賞金:42万8,000円

新潟に拠点を置く農業生産法人グリーンズグリーンは苔を人工栽培している。苔を土を使わずにシート上で栽培することができ、例えば、防草シートを裏面に貼り付けることで、苔が紫外線をブロックして劣化を防ぎ、耐用年数は30年にも及ぶ。芝生や他の植物よりもコスト効率が高い。苔は CO2を吸収し仮根に固定化することが可能で、大気中の重金属も吸収することができる。

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東急電鉄では、東急田園都市線地下5駅のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」を展開しており、その一環として、地下駅構内での苔の栽培実証検証を実施した。地下の湧水・未利用空間を利用して苔を栽培し、CO2 削減と緑化を期待するというものだ。地下湧水にはマンガンが含まれており、これが苔の栄養となって成長が促進されるという。

【二子玉川賞】【オーディエンス賞】弘栄ドリームワークス × 東急電鉄

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賞金:25万円+20万円

山形県に本社を置く弘栄ドリームワークスは、パイプ探査ロボット「配管くん」の開発と調査業務、プラットフォームの運営を行っている。日本では高度経済成長期から2000年代にかけて多くの建物が建設されたが、建物の寿命が最長で100年程度と長いのに対し、設備の寿命は10年から20年と短く、設備管理には労働者の高齢化や技術の伝承の問題がある。非破壊での配管調査と図面化を行う同社のロボットは、配管内部の撮影だけでなく、配管経路を図面化する特殊な機能を備え、データを元に CAD 化・3D 化が行える。

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鉄道駅などでは、詳細な配管図が残されていなかったり、残っていたとしても正確な配管経路とはズレが生じていたりして、メンテナンスや付近の工事の際に支障を来すことがある。ドリームワークスは東急電鉄と協力し、配管くんを使った実証実験を実施、これにより、従来の方法よりも効率的に配管経路を把握し、工程と費用を最大5分の1に削減できることが期待されるという。弘栄ドリームワークスでは今後、AI による配管調査の効率化を目指し、内部状況の確認や図面化の機能を向上させる計画だ。

【SOIL 賞】キリンジ × 東急建設

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賞金:10万円

東急建設は、応急仮設住宅として利用可能な木造モバイルハウス「モクタスキューブ」を使ったプロジェクトを開発している。震災が起きると家屋が倒壊し、被災者の災害関連死を防ぐ観点からも、避難所生活を最短のものにするため早急に応急仮設住宅が建設されることが求められる。モクタスキューブは断熱遮音性や耐震性など一般家屋と同等以上の性能を持ち、避難生活の不便さやプライバシーの欠如といった問題の解消が期待される。ただ、採算性や物理的在庫量の問題で、すぐに設置可能な住宅の設置数には限りがある。

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そこで、大阪を拠点に、全国で遊休不動産や廃業施設などを活用したグランピング施設を開設・運用するキリンジは、モクタスキューブを観光地における宿泊施設として活用するプランを提案した。こうして配備されたモクタスキューブは震災時、すぐに2つに分解して搬送することで、被災地ですぐに応急仮設住宅として運用することが可能だ。災害時の住宅不足解消だけでなく、地域の活性化や観光産業の振興にも貢献することができる。

【SOIL 賞】Re:Cute × 東急モールズデベロップメント

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賞金:10万円

外出先で髪の毛のセットを直したいと考える女性は少なくないが、化粧品と比べヘアアイロンは嵩張るため携帯性に乏しく、電力消費が大きいため充電がもたないなどの課題がある。そこで NTT コミュニケーションズの社員から生まれたスピンアウト事業「Re:Cute」は、街角におけるヘアアイロンのシェアリングサービスを計画している。利用者は専用アプリを使って貸出スポットを探し、QR コードを読み取ることで利用を開始し、利用後は返却と自動決済が行われる。

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多くの女性の生活動線になるショッピング施設やビジネス街の遊休スペースを活用し、ヘアアイロンの貸し出しスポットを設置。スペースオーナーには、売り上げの一部を賃料として支払う。女性顧客を誘導したいフロアやエリアに設置することで送客効果が見込めるほか、パートナー企業のテストマーケティングや広告掲出などでも収益を得られる可能性があるという。貸し出しスポットは、2024年7月にみなとみらい東急スクエアにプレリリース設置、2024年夏・秋には渋谷ヒカリエの ShinQs にも設置される予定だ。

【SOIL 賞】stadiums × 東急スポーツシステム

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賞金:10万円

stadiums は、パーソナルジムやスタジオにおける空き時間を有効活用したいジムオーナーと、トレーニングができる場所を探しているトレーナーをつなぐプラットフォーム「THE PERSON」を提供している。ユーザが個人や友人と一緒に運動する場所にトレーナーに来てもらうことも可能で、特にパーソナルトレーニングを数名のグループで1人のトレーナーから受けられる「グループパーソナル」というメニューが人気だという。気心知れた複数名で受けることで、トレーニングが長続きするという効果もある。

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東急スポーツシステムでは、「アトリオ」のブランドでジムを5店舗展開しているが、一見競合している業態ながら、アトリオで stadiums がグループパーソナルを提供するという協業を実施した。この協業では、アトリオの信用や施設といった東急スポーツシステムのアセットを活用し、集客は stadiums が独自で行なったため、同業であっても、東急スポーツシステムの既存の営業活動を毀損する可能性が低い。stadiums は「かかりつけトレーナー」として、地域のコミュニティ形成や予防医療に貢献していきたいとした。

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