最終回を迎えた「BACKSTAGE」、イベントマーケティングの10年を振り返る #backstage24

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Image credit: Masaru Ikeda

BRIDGE の長年の読者であれば、我々が2016年に「THE BRIDGE Fes」という少々大きなイベント(日本語英語)を開催したことを覚えているかもしれない。当時のスタートアップ関係人口はまだ少なかったし、今をときめく数々のスタートアップカンファレンスに規模の面では足元にも及ばないが、現在の日本のスタートアップシーンを牽引する多くの起業家や投資家が集まってくれた。

THE BRIDGE Fes の開催を実現できたのは、数々のスポンサーや企画協力者、ボランティアの賛助があったのは言うまでもないが、その中でも大きな力を貸してくれたのが、イベントプラットフォームのイベントレジストのチームだった。「イベント主催者の悩みをすぐに解決できる」というタグラインの通り、参加者のチェックイン周りのオペレーションは丸ごとお世話になった。

奇しくも同じ年、イベントレジストは、イベントマーケティングの最先端を探るカンファレンスとして「BACKSTAGE」を初開催した。あれからコロナ禍を経て、8回続いた BACKSTAGE は先週8月29日、一定の役割を終えたとしてファイナルを迎えた。

カンファレンス最終回の冒頭、オープニングに続いて行われたセッション「Project B」には、BACKSTAGE 実行委員長でイベントレジスト CEO ヒラヤマコウスケ氏、月刊イベントマーケティング編集長の樋口陽子氏、現在はカラフル代表社員で元イベントレジスト COO の小笹文氏が登壇し、BACKSTAGE の歴史とイベントマーケティングの変遷を振り返った。

BACKSTAGE の誕生

Image credit: Masaru Ikeda

小笹氏は、BACKSTAGE の前身となる「イベント・マーケティング・サミット」を2014年に開催した経緯を説明した。当時、イベントレジストはローンチから2〜3年程度のスタートアップ(創業は2011年3月、サービス開始は2011年11月)で、歴史ある展示会業界に新しいテクノロジーを導入することの難しさを感じていたという。

イベント業界は、明治時代から展覧会が始まり、昭和の時代に展示会などが盛り上がって…と、非常に長い歴史がある中で、私たちのようなスタートアップが新しいテクノロジーを持って参入し、主催者の皆さんに使っていただくのは非常にハードルが高かったんです。そこで、イベントマーケティングという概念自体を広め、業界全体の視点を変えることが必要だと考えました。

イベントマーケティングとは何か、イベントマーケティングの中でイベントを使うことの意味は何か、を皆さんで知ったり学んだりする機会を作っていきたい、という思いから、イベントマーケティングサミットが生まれました。(小笹氏)

ヒラヤマ氏は、当時のイベント業界の状況について、見本市や展示会はあったものの、ナレッジやカンファレンス形式のものはまだ数少なく、イベントマーケティングという言葉自体があまり使われていなかったと説明した。こうして生まれたイベント・マーケティング・サミットは、運営の裏側の人にもスポットライトを当てるという観点から、のちに小笹氏によって BACKSTAGE と名付けられた。

イベントマーケティングの進化

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セッションでは、この10年間でのイベントマーケティングの変化について議論が交わされた。特に注目されたのは、デジタル技術の進化とそれに伴う参加者の行動変化だ。小笹氏は、デジタル化によって売り手と買い手のバランスが大きく変わったと指摘し、情報の非対称性が大きく減少したことを強調した。

BtoB や BtoC に関係なく、デジタルは売り手と買い手のバランスを大きく変えました。以前は、イベントや展示会が情報収集の主要な場でしたが、現在では参加者が事前にオンラインで情報を収集し、イベントでは、最終的な不安解消や直接的なコミュニケーションを求める傾向が強くなっています。(小笹氏)

この変化は、イベント主催者側の戦略にも大きな影響を与えている。小笹氏は、イベントマーケティングを「エクスペリエンシャルマーケティング(体験型マーケティング)」と「コンテンツマーケティング」の両面から捉える必要性を指摘した。

現在はカラフル代表社員で元イベントレジスト COO の小笹文氏
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イベントマーケティングというと、比較的、体験型マーケティングの方に注目が集まります。いかに面白く、いかに今っぽい体験をさせるか、そういうところに結構注力してしまいます。

でも、本当は、誰かの態度変容、行動変容を起こしたいわけですよね。対象が誰で、その人がどういう課題を抱えていて、どう変えていきたいのか。それをどう体験してもらうことによって変えていくのか。(小笹氏)

小笹氏は、質的な目的を見失わないことの重要性、そして、イベントの体験とメッセージ性の両輪を忘れずに進化させていく必要があると指摘した。

一方、ヒラヤマ氏は、イベント業界全体の課題として効果測定の難しさを挙げ、イベントにおける統一的な指標の必要性を訴えた。

テレビの視聴率のような、あるいは、インターネットの PV やクリック数のように、世界中の誰もが理解できる共通の指標があれば、もっとイベントをマーケティングに使えるようになると思います。(ヒラヤマ氏)

BACKSTAGE の終了と新たな始まり

イベントレジスト CEO のヒラヤマコウスケ氏
Image credit: Masaru Ikeda

BACKSTAGE の2016年の初回には、筆者もお招きいただき、世界のスタートアップカンファレンスの話をさせていただいた記憶がある。以降、毎回、オーディエンスとしてお招きいただいているが、8月末は毎年、何かといろんなイベントと重なることもあって、記事にすることはできていなかった。今回ファイナルを迎えると聞いて、慌てて筆を走らせている次第で面目ない。

さて、BACKSTAGE はなぜ終わってしまうのだろうか。誰もが抱くであろうこの問いに、ヒラヤマ氏は次のように答えた。

BACKSTAGE の目的については、先ほど話した通りです。まだ実現していないものもありますが、既に実現してきたものもあります。そういう世界になって、BACKSTAGE の終了は、また新たな始まりでもあると思うんです。

BACKSTAGE で繋がっていただいて、実は新しいことが生まれていたりもしているので、終わるというより、始まるきっかけを作っている可能性もあると思うんです。(ヒラヤマ氏)

月刊イベントマーケティングの樋口陽子氏
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樋口氏は「10年で変わってきた皆さんが、今度は新しいことを始める番ですね」とまとめ、BACKSTAGE の参加者が、次の動きへと発展・昇華させる可能性について期待を示した。イベントマーケティングの世界は、テクノロジーの進化とともに変化し続けている。その中で、人と人とのリアルな繋がりの価値を再確認し、新たな可能性を探る。それが BACKSTAGE が残したメッセージだった。

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