フランス政府の新たなAI戦略、DeepMind・サムスン・富士通の力で勢いづく

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フランスのデジタル大臣 Mounir Mahjoubi 氏(右)と会話する数学者 Cédric Villani 氏(左)。国会議員でもある Mahjoubi 氏はクモのブローチがトレードマークだ。

フランス政府は本日(3月29日)、新たな戦略的イニシアチブを明らかにした。これは同国がプライバシーやセキュリティに関する見解を曲げることなく、人工知能において世界的なリーダーとなることを目指すものである。

Google の DeepMind と Samsung の新たなパリの研究所、そして富士通の既存のパリ研究センターが拡大といった計画を含む一連の関連企業の発表から、提言の概要は始まった。これに先立って、今年 Google と Facebook はパリを拠点とする同社の AI 研究所への投資を増やすことを発表していた

スタートアップ擁護派の Emmanuel Macron 氏が選出された昨年の大統領選だけでなくフランスのテックエコシステム周辺の成長の勢いをも利用しようとする最近の政府の試みは活発になっている。昨年9月、政府は国内の AI 経済をどう発展させるかという研究を率いるために、有名な数学者であり議員でもあった Cédric Villani 氏を選出した。その研究の結果は「人間性のための AI」と呼ばれる152ページの報告書として本日(3月29日)公表された。

この報告書はフランスの AI エコシステム発展のための経済的戦略を展開しているが、他にも AI が誘発する混乱に関して厄介な課題も概説している。AI に取って代わられる労働者の雇用、技術の恩恵を確実に幅広く分配することといった課題だ。同報告書はまたアメリカや中国がますます推進している AI 研究や政策に関して懸念を表しており、フランスやヨーロッパが他の地域で開発された技術に順応することを強いられる「サイバー植民地」に落伍する危険性を指摘している。

そして、フランスの AI 経済がデジタルの運命をコントロールし続けたいのならば、政府がさらに積極的に AI 経済を加速させるよう強く促しており、以下のように述べている。「かつてないほどに、今こそ AI 革命に意味を与えなければならない。」

具体的には、AI 研究、AI スタートアップを支援する投資、そして技術が社会に与えるインパクトを研究するプログラムへの政府の支出の大幅な増加を報告書は提案している。また、AI 関連分野にもっと多くの人が来るようにするための職業訓練、および2020年までに AI 分野の卒業生が3倍になるよう大学の教育プログラムを拡大するということも求めている。

さらに報告書は政府が AI に関して主に4つの分野、健康、交通、環境、セキュリティに専念するよう推奨している。また AI 技術の影響を研究し政治家に助言を行うための独自の AI 倫理委員会を設立するよう政府は勧告を受けている。

フランス学術研究機関 CNRS の責任者 Antoine Petit 氏は、このイニシアチブによってフランスの AI の地位は向上するだろうと楽観的な意見を述べた。

カンファレンスの中で Petit 氏はこう述べた。

報告書自体はそれほど重要ではないのです。以前にも報告書はありましたが後に続くものがありませんでした。今回違うのは、大臣がここにいらしており大統領にも後から参加していただけるということです。より高い意識、より強い取り組みが示されているのです。

フランスの研究者は AI や機械学習の分野で貢献し国際的な名声を積み上げてきた。そして近年 AI の発展が加速するにつれ、フランスは世界中の企業への人材の重要な供給源としてその能力を示してきた。しかしここ数年は、より大きな認知を得るため、独自の AI スタートアップを育てるため、より大きなテック企業から投資を呼び込むために、自身を AI ハブとして売り込んでいる。

スタートアップの側では、テック支援団体 France Digitale のこの図に見られるように大きなうねりが起き、それを享受している。

(クリックして拡大)

企業側としては、他のいくつかの良いニュースと同時にこの報告書が発表された。Samsung は100人の研究者と共にパリ AI センターを開設すると述べ、富士通はパリ AI センターの一つに今後5年で6,100万米ドルを投資すると発表していた計画をさらに拡大すると述べた。

一方でロンドンを拠点とする DeepMind は15人の研究者と共にパリ研究所を開き、いずれはより大きく拡大するつもりであると述べた。パリの取り組みは DeepMind のプリンシパルリサーチサイエンティストの一人である Remi Munos 氏が率いることとなり、同氏は故郷のフランスで同社の存在感を確立する任務に就く。

これらの大規模な計画にもかかわらず、同国は深刻な困難に直面している。間もなく実施されるヨーロッパのプライバシー基準(GDPR)は私的データの収集と使用に厳しい制限をかけ、違反には重いペナルティが課されるという。Google や Amazon のような大企業は先を争って順守しているが、GDPR や、さらなる AI の発展の原動力となるデータの制限は、フランスのスタートアップの発展を阻害し得ると心配する者もいる。

しかしながら、フランスの AI スタートアップ Snips の共同設立者である Rand Hindi 氏は、報告書が膨大なデータ収集に頼らないオルタナティブな AI モデルを強調した点を賞賛した。Snips は独自の AI システムを開発しており、そのシステムはプライバシーとセキュリティをより強固にするために、データを中央に集めるのではなくそれぞれのデバイスに保存するものである。

本日(3月29日)の声明で Hindi 氏は次のように述べた。

今までは AI 産業は中央集中的なパラダイムに従ってきました。つまり外国のデジタル大手によって私的なユーザデータはクラウドに保管され分析されていました。このセントラリゼーションはデジタルの寡占に依存しサイバーの主権を失うことと同義となっています。ですが、今は人工知能を分散化する技術があり、ユーザのデリケートな情報をクラウドに送ることなくユーザの手元で直接アルゴリズムを実行できます。

報告書が発表されたカンファレンスでは AI をテーマとしたいくつかの公開討論会が行われた。以下で全体を見ることができる。

講演者の一人は AI の影響と責任ある実装を研究する Open AI Initiative に参加している Y Combinator の Sam Altman 氏であった。Altman 氏は報告書の、AI を安全に扱うことを確実にするために強い措置を講じるという目的に共感したと述べた。

Altman 氏はこう述べた。

もし成功させることができれば、人類史上最大の変革の瞬間の一つとなることでしょう。正しくやり遂げるには賭けるべきものがものすごく大きいのです。そして賭けの見返りは人類全体への利益が保証されるほどに大きいのです。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

 【原文】

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