東南アジア部門をGrabに売却したUber、次なる戦地はラテンアメリカ

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Uber
サンフランシスコにある Uber 本社の看板
Image Credit: Ken Yeung / VentureBeat

Uber の世界的野心に今週(3月第5週)でひと区切りつくことになった。ライドシェア大手の Uber が東南アジアでの事業を Grab に売却し、マレーシア、インドネシア、シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマーに広がる事業を行う Grab の27.5%の株式を得るというニュースのことだ。

シンガポールの競争監視機関は今回の合併を精査しているが、この合併は、勝てるときは競争し、勝てないときは提携を結ぶという Uber のより広く見られる傾向を示すものだ。サンフランシスコに本拠を置く Uber は、2016年にその中国事業を350億米ドルの取引で中国のライドシェア大手 Didi Chuxing(滴滴出行)に売却した。Uber はさらに、Ola が現在ライドシェア市場をリードしているインドでの合併も検討しているとの噂が今週(3月第5週)流れた

内輪の事情

共通の脈がこれらの話には流れている。今や自立したベンチャーキャピタルの大手でもある、日本の技術大手ソフトバンクが、Uber を含めて先述の企業全てにこれまで投資してきたのだ。ソフトバンクは Uber と Grab の合併を後押しする上でも重要な役割を担ったと言われている。

Uber は創業以来200億米ドル以上の資金を調達してきており、自社サービスを世界のほぼ全ての市場に広げるよう努めてきた。しかし、いくつかの市場では地域に合わせて十分に素早くスケールを調整できなかったため、現地企業が弾みをつけ、Uber の進出を防ぐ余地を十分以上に残してしまった。これこそ、Uber は問題ある市場では合併をすることを決めてきた理由だ。これは昨年 Uber が東欧で Yandex.taxi と提携したことでもまた明らかとなった。

今同じような傾向がラテンアメリカでも生じている。ソフトバンクは、中国の Didi(ソフトバンクは Didi の投資家であることに注意していただきたい)がブラジルに本拠を置くライドシェアアプリ「99」を丸ごと買収する前に、昨年99に投資していた。その背景には、Uber はブラジルでトップのライドシェアアプリであり、サンパウロとリオデジャネイロは Uber にとって利用ライド数の最も多い2大都市だという事実がある。

その約4,000マイル北、メキシコは Uber が最も利益を得る市場の一つであり、Uber によれば自社がメキシコでのライドシェアを独占しているという。しかし、Didi の厄介で金持ちの面々が、Didi 初の国際的サービスを今年メキシコシティからローンチするという計画により、やや混乱を引き起こそうとしている。Didi は12月に40億米ドルを調達したが、この8ヶ月前に55億米ドルを、1年前には73億米ドルApple など有名な支援者から調達したばかりだった。Didi はこれまでに約200億米ドルを資金調達しており、これは同社の勢力をいくらか示唆するものだ。

昨年2月に、ドイツの自動車大手の Daimler は、ライドシェアを提供する自社の子会社 MyTaxi を介してギリシャの Taxibeat を買収した。これは主にヨーロッパで Uber に挑むためだ。Taxibeat は現在ペルーでもサービス展開しており、Daimler の MyTaxi はラテンアメリカでのサービス拡大に投資する計画を、昨年 VentureBeat に伝えていた。もっとも本記事執筆時点ではサービス拡大はチリに限られているようだ。これに関連して、Daimler と、同社に並ぶ自動車大手の BMW は、両社のライドシェア部門を合併させる計画を今週(3月第5週)発表し、Uber や同類のサービスに対してグローバルに挑戦していくことを目指すという。

一言で言えば、数多くの大企業がテクノロジーをベースとした、都会のモビリティサービスにますます投資するようになってきている。

次の戦場

Uber はアメリカ合衆国とヨーロッパを含め、自社の大半の市場で競合に直面している。中東やアフリカでも競争の火種はできている。Didi は、より広い戦略的パートナーシップの一環として、ドバイを拠点とし12以上の市場で操業している Careem に対し、既に投資を行っている。しかし、Uber にとって次の大きな戦場となるのはラテンアメリカだろうということが、ますます明らかになってきている。

Uber は先行者利益によって初期に大いに弾みをつけたが、ソフトバンクと Didi が参入している市場では、Uber はサービス拡大だけでなく、既存の自社勢力の維持においても厳しい時期が見込まれる。

このことを考慮すると、Uber が今後合併に努める明らかな地域は中央アメリカと南アメリカであるように思われる。しかし今回の Uber の Grab との合併について、Uber の CEO、Dara Khosrowshahi 氏は、自社のこれからの成長は M&A による成長ではなく、有機的成長になるだろうと示唆した。

同氏は従業員への e メールで以下のように伝えた

今回の合併が、中国、ロシア、東南アジアと、3度目のこの種の取引であることを考えると、合併ということが目下の戦略なのかと疑問に思うのはもっともなことです。しかし答えはノーです。

M&A は Uber にとって重要な価値創造手段であり続けるでしょうが、今後私たちは有機的成長に焦点を当てていくつもりです。つまり世界最高の製品、サービス、技術を作り、私たちのブランドを、ライダー、都市、ドライバーが支持・提携したくなるようなモビリティブランドへと再構築していくことによって生まれる成長です。

肝心なことは、Uber は、合わせて3億人の人口になる少なくとも2つの中核市場で大きな競争に直面しているということだ。Didi は報道によれば既にメキシコで Uber の経営スタッフを引き抜いており、Uber の意気込みをメキシコ、ブラジル、またおそらくその他の地域で試すのに十分な資金を有しているだろう。

ちなみに、サンパウロに拠点を置く Easy Taxi は、アルゼンチン、メキシコ、ボリビア、パナマ、ブラジル、ペルー、チリなど多くのラテンアメリカ市場やその他の地域で操業している。Easy Taxi はまだソフトバンク、Didi、Uber の関心を引いていないが、これまでに8,000万米ドル近くの資金を調達してきており、ライドシェア業界のバトルが激しくなるにつれ、Easy Taxi は上述の3社のいずれかにとって投資、または M&A の対象になりそうだ。

バトルが始まるのを見届けることにしよう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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