農業×AIで世界40%の食料を守る「Spensa Technologies」のモデルとはーー害虫防除市場と事業多角化の可能性を探る

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2018.5.1

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農家にとって、害虫対策と農薬散布量のバランスを保つことは頭を抱える問題です。例えば世界の農業害虫被害額は年間5,400億ドルに上り40%の食料が被害にあっているとも試算されています。

事実、農林水産省のデータでは、病害虫防除を行わなかった場合、水稲農家は34%, キャベツでは70%、りんご農家では99%の減益につながるという試算もあります。

しかし害虫対策に農薬などの化学的解決策をむやみに取り入れることは敬遠されます。消費者のオーガニック食料品志向が高まる中、防除対策のために年間300万トンの農薬が散布されていたり、遺伝子組換え食料の生産が盛んになっている現状も問題視されがちです。

こうした農業市場において、積極的な害虫対策のために農薬を大量散布するのではなく、必要な場合に限って効率的に使用する運用法が求められているのです。

画像認識により害虫駆除を徹底効率化するSpensa Technologies

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そこで欧米ではAIを使い、害虫の発生を事前予測することで防除施策・対策案を提案するSpensa Technologiesに注目が集まっています。450万ドルの資金を調達したインディアナ州のスタートアップで、2018年3月にDTNによって買収されました。

害虫の発生時期を事前に予測する仕組みをAIを用いて仕組み化しているのがSpensa Technologiesです。同社が提供するのは害虫捕獲ケースとオンラインサービスの2つ。まずは捕獲ケースから説明しましょう。

ケースの種類はZ-TrapSentinel。Z-Trapではケースに入ってきた害虫に対して微弱の電流を流し、対象物の筋肉量や体脂肪率を求める生体インピーダンス法が採用されています。こうして採取したデータを基に昆虫を自動識別します。Sentinelでは、画像認識機能を備えたカメラを使いケース内の昆虫を自動識別します。

両ケースのデータもSpensa Technologiesのクラウド上にデータがアップロードされ、農地各所の害虫発生率を計算するわけです。

農家はどの場所で、どのような害虫が発生しているのかをオンラインプラットフォーム上でリアルタイムに把握することが可能になります。また、AIが害虫の生育段階を解析するため、どの段階で急激に穀物被害額が膨らむのか事前予測することもできます。

さらに農地の航空画像データを提供するTerrAvion’s imageと提携したことで、農作物の発育状況をヒートマップデータから視覚的に解析したり、周辺の天候情報を通じて当季の発育予測データを取得できる点もSpensa Technologiesの強みの1つです。加えてAIや画像データを駆使した解析技術を用いて、農家にどのようなアクションを行うべきかToDoリストを提案してくれます。

このようにして適切なタイミングに、最適量の農薬を散布する効率運用を促すことで、大量散布ではなく農薬を必要な分だけ散布する効率化のサポートを行っているのです。

フレンチフライの原料となる芋生産や、冷凍食品原料を生産する大手農業企業J.R. Simplot Co提携することで、同社が運営する世界40カ国の農地展開も視野に入れています。

AIが変えるマニュアル志向と巨大防除プラットフォーム構築

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Image by Nick Amoscato

欧米ではSpensa TechnologiesのようなAIを使った害虫対策が急速に進みつつある印象がありますが、日本はどうでしょうか。前述した農林水産省のデータから見ると、害虫発生予察情報共有の仕組みは非常にアナログな様子が伺えます。

行政専門機関病害虫防除所が各都道府県の農地へと赴き、マニュアルで害虫データを採取。各地の気象データを参照しつつ、専門チームが害虫予報と指導情報を提供します。こうした毎年の害虫データを集約して農林水産省へと報告し、国民へまとめ資料として開示する仕組みのようです。

病害虫防除所が全国の害虫データを集約する役割を果たしていますが、Spensa Technologiesのように、データ収集機能を備えたハードウェアを使った場合、各地の害虫発生データを大規模かつ自動で集まる仕組みを構築することができます。

仮にSpensa Technologiesが日本市場へ上陸し、多くのユーザーを集めることができれば、行政主導の害虫対策を根本的に変えることができるかもしれません。事実、AIを使った農業市場は2025年までに26億ドル市場へ成長する(年間成長率22%)と見込まれており、従来のやり方が大きく変わる時代に差し掛かっています。

事業のハブ化と住宅市場への横展開

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最後に、Spensa Technologiesの長期戦略に考えを廻らせつつ、同社のモデルを他市場へと展開した場合のシナリオを思考してみましょう。

Spensa Technologiesの持つ大きな市場ポテンシャルは、単なるハードウェアとSaaSの組み合わせ販売だけに留まらず、専門家と農家を繋ぐオフラインコミュニティへと拡大することでさらなる飛躍を遂げられる可能性が高まります。

例えば農家同士を繋ぐメディアへと事業領域を広げることで、たとえば中国企業が同じような製品を投入した場合でも、大きな差別要因となり市場を牽引することができます。

また、農薬製造企業と提携することでSpensa Technologiesの顧客には市場価格より安い値段で農薬を卸すようなアイデアも考えられるでしょう。蓄積されたデータを行政側へ転売するデータビジネスもあるかもしれません。

害虫市場はニッチに思われがちですが、こうした事業関係者を繋ぐハブ事業として長期戦略を考えた際、市場を独占できる可能性が広がるわけです。

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Image by m-louis .®

Spensa Technologiesの用いる画像認識技術は、住宅市場への転用もできるかもしれません。

仮に住宅建築段階から、木材や屋根裏をモニタリングできる仕組みを販売できれば、家屋に被害を与える虫害も予防できるようになります。建築企業へと技術を卸し、エンドユーザーが住宅主になるB2B2Cのモデルを採用した住宅事業へと横展開できる可能性も見えてきます。

シロアリなどの発生が起きた場合、専用業者をすぐに派遣する虫害保険のような形を提供できれば、AI機器を通じた先進的な保険サービスの提供も考えられるでしょう。住宅IoT市場の成長を追い風に、住宅保険とAIハードウェアをセット売りする事業展開を創造できるわけです。

Spensa Technologiesのような欧米スタートアップは、未だにアジア市場へと参入できていません。しかし中国や東南アジア市場の台頭により、日本ベンチャー企業にも十分に事業拡大の機会が残されています。

今回は住宅市場への展開にまで思考を広めてしまいましたが、いずれにせよ核となるAI技術さえ作ることができれば、ステークホルダーと連携し合うことで多様な市場拡大を狙えることが伺えます。これからAI事業を考える方は参考になるのではないでしょうか。

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