LayerXが 「LayerX INVOICE」公開、クラウド請求書を最初のプロダクトに選んだワケ

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LayerX社内での開発風景。彼らはオフィスに戻った(写真提供:LayerX)

ニュースサマリ:経済デジタル化支援のLayerXは1月13日、経理業務を効率化する請求書AIクラウド「LayerX INVOICE」を公開した。LayerX INVOICEは請求書の受け取り後、AI-OCRによって請求書を自動でデータ化した上、仕訳データや振込データの自動作成及び会計システム連携をシームレスに実行してくれる。

開発にあたりLayerXでは月間の受領請求書枚数が1万枚を超える大手など含む100社以上にヒアリングを実施し、課題を抽出した上で機能拡充を実施した。昨年10月からは一部の企業に対してβ版の提供を開始しており、連携する会計システムはfreee、マネーフォワードクラウド会計、弥生会計など主要なシステムが対応している。これら会計システムに連携する仕訳データを自動で作成・連携できるほか、銀行の振込データも同様に自動で作成可能となっている。

LayerX INVOICE

また、紙の請求書についても連携パートナーと協力して代理受領・データ化を請け負う。紙の請求書を代理で受け取り後、スキャンすることで紙の受領が必要なケースでもオフィスに出社せず、クラウドのみで完結できるとした。

初期費用と月額費用が必要で、請求書の対応枚数によっていくつかのプランに分かれる。詳しい価格については問い合わせが必要。同社は国内で発令されている緊急事態宣言において企業のリモートワークが推奨される状況をふまえ、今日から3カ月間の無料トライアル期間を設けている。

話題のポイント:2018年8月の創業から追いかけてるLayerXから待望のプロダクトがリリースされました。同社はこれまで自律分散技術を活用した業務プロセスのデジタル化を主力事業として活動してきていましたが、どれも大手とのコラボレーションによるものでした。LayerXのこれまでについてはこちらの記事を参照ください。

参考記事

さて、経済活動のデジタル化を掲げるLayerXはなぜ最初のプロダクトにクラウド請求書を選んだのでしょうか?実際、この手のツール類は連携するマネーフォワードやfreeeなどをはじめ、各社出揃った感がありますし、クラウドファクタリングのOLTAは完全無料のツールとして提供を開始するなど、違ったフェーズに入っているのが現状だと思います。ということでLayerXの福島良典さんに同社の現在地についてお話を伺いました(太字の質問はすべて筆者、回答は福島さん)。

LayerXではこれまで主に企業との協業スキームでデジタル化の支援を実施してきた。クラウド請求書が溢れる中、このプロダクトを最初のテーマに選んだ理由は

福島:LayerXでは三井物産様を始め、SMBC日興証券様、三井住友信託銀行様とジョイントベンチャーを作り事業運営をしています(三井物産デジタル・アセットマネジメント、以下MDM)。半年前の調達時にBRIDGEさんに寄稿させていただきましたように、この事業運営で得た知見を元に「より汎用的なソリューションとして提供していけるような体制をLayerXとしても作りたい」と考えていました。

請求書のプロセスのどこにチャンスを見出した

福島:MDMはデジタルなアセマネ会社として「今までアセット化されなかったものの証券化、今までアクセスできなかったものに対する投資の開放、裏側の業務プロセスデジタル化による金融機関の生産性向上」を目指しており、この裏側の業務プロセスのデジタル化(=コーポレートDX)では、SaaSの導入と既存SaaSでできないことを切り分け、既存SaaSの導入で効率化できる部分は導入・活用を進めてきました。

既存SaaSでカバーできていなかった領域として「請求書受領から支払いまでの効率化」ソリューションがあり、この部分を自社プロダクトとして開発し始めました。これを複数の企業にみせたところ非常に反響が良く、汎用のプロダクトとして展開することを決定した次第です。

経済活動をデジタル化する、という大きなミッションを掲げているが、企業とのアライアンスや今回のプロダクトリリースを通じて、LayerXがどのぐらいの地点に辿り着いたか認識を教えてほしい

福島:あらためて、LayerXのミッションは「すべての経済活動を、デジタル化する。」ことです。昨秋に自身で書いたこちらのnoteでも触れておりますが、当社では、デジタル化のレベルは大きく四つあると考えています。超要約して書くならば「ツール→業務→企業間・業界間・産業間」と最適化される対象が広がっていくイメージです。

DX時代の金融機関における「経営のソフトウェア化」(福島さんのnoteより)

当社が注力するブロックチェーンや秘匿化技術は「Level4のデジタル化」の根幹となる技術です。一方日本の産業界の現状はLevel1-2のDXがやっと進み始めたところです。

まだまだ国内企業のデジタル化への取り組みはこれから、という状況

福島:今まで、デジタル化が真剣に取り組む必要に迫られていなかったのは、デジタルの持つ優位性が「インターフェースをデジタルに変える」だけだったからではないでしょうか。これでは変化の幅は限られます。LayerXが(JV事業やSaaS事業において)取り組むデジタル化はLevel1-2からスタートしLevel3に移行するように解決していきます。同時に、祖業であるブロックチェーン事業については「LayerX Labs」という形を残し、5年10年単位で確実に来る大きな波を、沖にでて待ちつづけています。これらが合流する形でLevel4のデジタル化を実現していきます。

大手含めてかなりの検証を重ねた上での勝負だと思う。勝ち筋は

福島:こちらも、実はBRIDGEへの寄稿で触れていますが、インターネット×エンタープライズはチャンスが大きい産業だと思っています。なかでも請求活動は企業の最も基本的な活動の一つです。請求書業務を上述の「レベル分け」で例えてみます。Level1だと請求書の「pdf化、データ化」が実現されるイメージです。

Level2-3が今回提供するLayerX IINVOICEの範囲で、「手入力がなくなる・システム間の転記がなくなる・ミスや漏れなどを機械的にアラートする」など業務のデジタル化がされるイメージです。次に来るLevel4が「請求書の標準化・規格化によってデータのやり取りだけで完結する、デジタルマネーと請求書が結びつくことで催促や担保の概念が変わる、IoTデバイスをトリガーに役務提供や実際に物が動いたら決済される」など、業界間や産業間をまたいだ最適化になるイメージです。

このようなデジタル化が進むことで、従来の「サービスの単発売り切り型の経営」から、そのサービスを継続的に提供し、絶えず改善しながら顧客のライフタイムバリューをどう高めるかという「サービス産業的な経営(=ソフトウェア経営)」に変わっていくと考えています。

ありがとうございました。

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