情報の新しい流れをつくりたい–東大のエンジニア集団が立ち上げた次世代のマガジンサービスGunosy(グノシー)

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情報を集約し最適化したものを届けるキュレーションサービスが注目を浴びている中、東大の学生エンジニア集団が立ち上げた「Gunosy」が成長中だ。

2011年10月にサービスをリリースし、先日の5月上旬にリニューアル。現在もユーザ数を順調に伸ばしているという。そのGunosyの開発者である福島氏、関氏、吉田氏の3人にインタビューをおこない、Gunosy立ち上げの理由やサービスにかける思いなどの話を聞いてきた。

3人の出会いとGunosyのきっかけ

Gunosyを立ち上げたのは、福島良典氏(東京大学工学研究科システム創成学科専攻修士2年)、関喜史氏(同大、工学系研究科技術経営戦略学専攻修士2年)、吉田宏司氏(同大、工学研究科技術経営戦略学専攻修士2年)の3人。

3人は東京大学のシステム創成学科知能社会システムコース出身というつながり。高専出身の関氏は、情報工学の勉強を高専時代にしていたがよりクリエイティブについての勉強をしていきたいと考え、大学進学をしている。

福島氏は、友人の会社の起業を手伝ったりしていたが、自身で起業をする際に技術の勉強をするために勉強が必要だと感じ、大学院へと進学するなど、3者それぞれがものづくりのための仕組みを学びたいという思いがあった。

そうした中、2011年の夏に福島氏が吉田氏を誘い、当初は2人の勉強を兼ねてデータマイニングに基づいたサービス開発をおこなうことを計画。学部時代からデータマイニングを研究している関氏が加わってサービス立ち上げや構想に関してのアドバイスなどを積み重ねた結果、「パーソナルデータに基づくニュース推薦」というアイディアからGunosy開発が始まった。

Gunosyの概要


2011年10月25日にリリースされたGunosy(グノシー)は、個人のTwitterアカウントのツイートの内容やRTの内容、Favなどの情報から、FacebookのLike情報やはてなブックマークの情報など、個人の能動的なアクティビティの情報を中心にデータを抽出。そこから解析したデータによってその人の興味関心を分析し、1日1回のメール配信でその人のインタレストに紐づくニュースを届けてくれる。

これまで、いくつかのニュース推薦系サービスはあったが、その多くは、フォローしているアカウントのツイートの情報などを分析し、自身のフォローしているユーザ間で話題になっているものを届けるものであった。

Gunosyはそうしたサービスと違い、本人のアクティビティからニュースを推薦するため、必ずしもフォローしているユーザで話題になっていないニュースも届ける。ツイートの内容などにもとづいた情報を解析し、その人にとって最適な情報を届けるアルゴリズムの仕組みをベースにしている。

こうした設計思想にしたのはわけがある。3人とも大学に通っており、その友人の多くももちろん大学生だ。彼らのまわりの大学生の多くはTwitterやFacebookなどのSNSを利用しているが、それでも数十人程度のフォローなど、まわりの友人を中心としてやりとりがほとんどとなる。

日常の何気ないやりとりが中心で、かならずしもニュースや情報などを発信しているわけではない。 Summifyなどのフォローから解析するサービスを利用すると、友達の間ですでに話題になったニュースや、ときには診断メーカーのような娯楽的なものばかりが配信ニュースの上位にきてしまう。そうではなく、普通にTwitterをアクティブに使っているだけで自然と自分にとって意味のあるニュースが届くサービスが望ましい。

「有益な情報を発信している人をフォローする」という、これまでTwitterなどの活用法として言われている方法論が、それは時に”フォローしなければいけない”という考えにすり替わる可能性がある。そうではなく、もっと自由にSNSを活用し、自身が積極的にSNSを使うことでその情報を解析して、さらに自動的に配信されるサービスがあれば情報取得のあり方が変わるのではという思いがそこにはあった。

情報収集に対する意識を変えていきたい

TwitterやFacebook以外の情報収集としては、GoogleリーダなどのRSSもそのひとつとしてあげられるだろう。しかし、多くの人が経験しているように、登録してあるニュースフィードの数が増加し、次第に整理できなくなってくることがある。時にはリーダ活用方法など、フォルダ分けやカテゴリ分けなど様々な方法を駆使して、整理をする必要に迫られる。

検索においても、自身が興味のある単語や言葉などが必ずしも明確な言語化ができていない場合も多い。Google検索なども、明確な単語を入力しないと必要な情報にはたどり着くことは難しく、もしくは単語予測や連想キーワードなどを使って探さないといけない。

こうした、情報収集のノイズの多さや煩雑さは多くの方も経験しているであろう。そうした情報に対するコストを軽減したい、という思いもあるのだ。福島氏はいかに情報収集が大事か、そしてそれらを効率的にすることに意味があるかをこう語る。

「現実世界を豊かにする方法として、自分にとって意味のある情報をいかに集めるかということが大切になってきます。だけど、いまのやり方ではあまりに情報収集にコストがかかってしまい、普通の人にとってもまだまだ使いにくい環境だと思うのです。そうした、普通の人が情報収集として使うツールとしてGunosyが成長してくれると嬉しいですね」。

また「情報とは、何かのアクションをするためのインプット」と語る関氏。情報はツールであるにもかかわらず、そのツールに振り回されている。そうではなく、時間やコストを軽減し、自身が達成したい目標などに対して有効に情報を使ってもらいたい、という情報のあり方についての考えを語ってくれた。

能動的に情報をとりにいくほどではないが、できれば情報を取得したい、受動的に欲しいというニーズから、メールベースで1日に1回の配信にしている。こうすることで心理的なコストも軽減しつつ、トレンドや興味関心にそった情報を「送り届ける」というサービス設計に彼らの情報に対する考えが込められている。

リニューアルでより使いやすく、より多様なニュースを届ける

筆者のとある日のGunosyのページ

リリース前には、大学の友人ら20-30名程度の人たちにテストを実施し、フィードバックをもらいながら基本的な情報と機能をつけた状態で公開にこぎ着けた。3人がTwitter上で「新しいサービスをリリースしたよ」というツイートをしたところ、思った以上の反響があり一気に数百人以上のユーザが登録をしてくれた。

あまりの反響の多さにレンタルサーバーが落ちるなどの状態が続き、サーバーを強化して対応するほどだった。思った以上の反響と、登録したユーザからのフィードバックがあったので、より本格的にデザインなどUIについての改善をしたいと考えるようになった。

そんな時、関氏がシリコンバレーへ研修に行ったときに偶然出会った、UI,UXデザインを中心とした制作会社Goodpatch Inc. を運営する土屋尚史氏と再会し、土屋氏自身もスタートアップに対してサービスのデザイン協力をしたいということから本格的なUIの改善に着手することになったのだ。

こうして5月2日、Gunosyは大幅なリニューアルを遂げることができた。

リニューアルに際し、UIの改善と同時に大きな機能変更がなされた。アカウント設定の改善や配信時間の変更、アドレス変更などの基本的な機能の他に、最も大きな変更点として「カテゴリ」をなくしたのだ。

推薦アルゴリズムを大幅に変更することで、これまで「IT」「Life」「ビジネス」などのカテゴリをつくっていたものをなくし、総合的な情報を届けるよう中身を変更した。

「ITと言ってもその意味は幅が広く、運営を通じてカテゴリの意味はないのではということに気がついたのです。スポーツから音楽、映画やITなど、自分にあった様々なジャンルの情報を収集することで、よりバランスのとれた情報が収集できるのではないか。そうした考えをもとにアルゴリズムを大幅に変更し、多様な情報が得られるような仕組みに変えました。そのため、今回のリニューアルのテーマは『多様性』だと感じています」(福島氏)。

これにより、カテゴリにこだわることなく、自身の興味関心にそった一覧的で総合的な情報を配信することができるサービスデザインとなった、というわけだ。

Gunosyは、次世代の新聞を目指している

スマホ画面。アプリ開発の構想もしている

リニューアル直後の2012年5月上旬、ユーザ登録数は6000人を超え、リニューアルから1ヶ月後の現在ではユーザ数は7500人を超えているという。

デイリーのユーザアクティブ数は、1000人(アクティブとは、届いたメールに配信されているニュースのURLをクリックする行為)、ウィークリーだと4000人以上の人がアクティブに活用しているとのことだ。つまり、7500人ユーザ中4000人以上が一週間に一回以上はGunosyを使っているということになる。現在彼らはどのニュースを見ているか、どういったニュースが見られているかという情報を常に解析し、より情報の分析の精度を高めている。

サービスをいかに継続させるか、そのための指標をどこに設定するかというKPIの設定については、アクティブ率をもとにしているということだった。Gunosyのウェブページは、個人アカウント毎による一枚ページの構成となっており、PVという概念でのサービスのKPIは定めにくい。

だからこそ、どれだけのユーザにメールが届いたか、そしてどれだけのユーザがメールを開いてURLをクリックしたかという、それだけに特化したサービスのKPIを設定することで、よりユーザにとって有意な情報を届けるサービスのクオリティを図る指標設定にしている。

ところで3人がよく語っていたのは「Gunosyは次世代の新聞を目指している」という話だ。

これまでの既存の情報収集ツールでは、自分が能動的に働きかけ、そして自身が言語化できる分野の情報だけを収集する構造になっている。そうした構造は実は視野を狭め、場合によっては興味関心のタコツボ化を引き起こしかねない。

そうではなく、多様性のある情報を推薦し、よし視野の広い知識や情報を収集するための情報の届け方をしていきたいと考えている。

データマイニングの研究と実践の齟齬が面白い

リニューアルの直前、彼らは推薦アルゴリズムの大幅な変更に際して事前にアンケートもおこなった。推薦ニュースという特性上、はたしてそれが本当に自身にとって有意な情報かどうかということは、明確にはわかりにくい。「なんとなく」よさそうという感覚ではなく、直接ユーザからの声を集めるため、Gunosyを使っているユーザに対して積極的にヒアリングをおこない、日々Gunosyの情報の精度などに関しての調査も実施している。

アルゴリズムに関しては、データマイニングの最新の研究成果をもとに、仕様も変更してテストをおこなった。研究データ上では、それによって人間にとってここちの良い情報がえられると証明されていたからだ。

しかし、研究上は解析にとってプラスに働くと考えられていたプログラムが、実際にヒアリングをおこなうと予想に反してよい評価と悪い評価の両方に大きく別れたという。

研究上では人の意見が反映されるとされていたものが、実際の生のユーザとのやりとりの中では乖離が生まれた、という反応だ。こうしたデータと現実との違いから、「人に受け入れられるものはなにか。人にとって何が心地いいか」という、データマイニングにおける大きな研究材料を日々感じていると3人は語る。

「どうすれば人の好みを反映した多様性を映し出すことができるか。これこそ、データマイニング研究における最もいい経験であり、こうした経験はお金やデータだけでは得られません」。

研究と実践という違いを現場で肌で感じていることは、それまでの研究だけでは味わうことができなかった行為だ。人の思考をいかにデータに落としこむか。まだまだ模索が続く研究を、実践を通じて経験できるということが3人にとってもなによりも財産になっているという。

多様性、そして意外性を届けることを心がけたい

今後の展開として、現在はTwitter、Facebook、はてなをベースに情報を解析しているが、他のSNSなどの解析も視野にいれている。例えばTumblrはもちろん、リーダーであるGoogleリーダ自体も解析し、なにを登録しているかなにをお気に入りにしているかなど、SNSにこだわらず様々なツールを解析できればと語る。

他にも、TechCrunchやNYタイムズなどの英語記事を解析し、日本語で発言した内容をもとにその人にとって有益な英語記事を配信する、という構想もある。

「IT系のニュースは英語の記事を読むことが大事ですが、実際にどのニュースを読めばいいかわからないことも多いと思います。そうしたことに、Gunosyが支援できるような仕組みができればと考えています」。

また、追加で考えている機能として、他の人に推薦された記事を別の人に閲覧させる方法も模索している。現在のところ、ページで完結している仕様のためあまり情報としての広がりがない。もともとそういう設計思想ではなかったが、人に勧められた記事をみることで、自分と違った記事が知れるという楽しみもある。これはユーザーヒアリングから着想を得たそうだ。興味関心を可視化し、コミュニケーションや新しい出会いをつくりだすこともできるかもしれない。

Gunosyをもとに、情報収集のあり方を変えたいと語る3人。理想は、朝起きてまずはGunosyからニュースを見て欲しいと語る。情報収集のコストをさげ、Gunosyを入り口に自分の興味関心についてさらなる刺激をえて、そこからGoogleで検索したり関連する記事からたどったりという新しい情報の流れに繋げることが目的だ。

今回のリニューアルで多様性というテーマをもとに新しく情報を解析していくが、次のテーマはすでに見据えているという。

「多様性の次は意外性。こんな記事にも自分は興味があったんだ、という気づきをえられるようなニュースを届けたい。そうすることで、新しい発見があるといいなと思います」。

Gunosyのネーミングの語源としてあるのは、ギリシャ語で”知識”という意味をさす「Gnosis」だ。これに「u(you)」をはさみ、あなたに知恵を届ける、という意味で「Gunosy」と名付けている。情報を取得し、知識を蓄え、そこから新しいアクションへとつなぐきっかけを作り出すことがGunosyの理念であり、そのために多様性や意外性といった気づきから人の情報に対する接点をつくっていくことこそ、彼らが意識している思想なのだ。

3人のこれからについて

3人とも現在大学院の修士2年だ。進路も就職の内定が決まっているそうで、現在のところGunosyの法人化などは特に考えていないとのことだった。純粋にデータマイニング研究としてのサービスを考えており、どこまでもユーザ視点でサービスを考えている。

彼らは口を揃えて「やらないと何も始まらない」と言う。

Gunosyを立ちあげたことで、まわりの人たちから様々なアドバイスをもらったり、Gunosyを作ったことでこれまで出会えなかった人と出会えたのも楽しいと語る。また、実際にやってみることで研究と実践との違いを肌で感じると同時に、研究だけでは得られないものを実践することは、まわりまわって研究にも活きてくると3人は語る。

社会にとって意味のある研究結果の活用法をもっと研究者が見出すことができれば、日本のウェブはもっと面白くなるとも語っていた。

「サービスを立ち上げ、継続して発展させていくという経験は何事にも変え難く、問題に対してしっかりと向きあい学習するという経験は、研究にとっても自分たちにとっても意味のあることだと思います。こうした、経験をさせてもらっていることに感謝しつつ、新しいチャレンジをこれからもしていきたいと思います」。

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