起業家の選択(前編)ーークックパッド傘下入りを決めたCyta.jp有安氏【インタビュー】

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9月6日の夕方、日本のとあるスタートアップが大手に買収されたことを発表した。クックパッド子会社化を決定したコーチユナイテッドだ。

プライベートレッスンを人々に提供するマーケットプレース「Cyta.jp」を独自の方法で運営し、正式なサービススタートとなる2011年6月から約2年目でひとつの節目を迎えた。順調に成長を続け、次のステップには様々な選択肢があった中でなぜこの道を選んだのか。同社代表取締役の有安伸宏氏に話を聞いた。(聞き手は筆者)

ーーインタビューは有安氏の創業当時の話題から始まった。

SD:突然の発表で記事書くのも大変でした。まずはおつかれさまでした。

有安:まだ完全に終わったわけじゃないんですけどね。基本合意の段階ですし。

SD:2011年6月にCyta.jpが正式スタートするまで数年間は準備期間だったんだよね。

有安:3、4年ですね。蝉の幼虫のように、長い間、土の中にもぐっていました。時間かかるんですよ。会社の成長も、自分の成長も。創業当時にカスタマーデベロップメントの概念とか分かってたらもっと早く出来たんじゃないかって思いますよ。3年かかったのを1年で出来たんじゃないかって。

SD:何に一番時間かかった?

有安:やっぱり、マーケットプレースが自律的にまわるようにするための、システムの要件定義と開発ですよね。例えば、先生と生徒さんが待ち合わせをするじゃないですか。生徒が遅刻した場合と先生が遅刻した場合。じゃあどのタイミングで返金するのかとか、そのトリガーって何?とか。先生が間違って報告してきた場合はどう対応するのかとか。すごく複雑に考え過ぎてた感はありますね。

SD:それを自己資金で乗り切った。

有安:会社創業時点で売上は月商で100万円ぐらいはあったんですよ。逆にそれで大丈夫と設立しましたから。まずは一人雇って、オフィスなんか借りれないから自宅のアパートの一角でスタートして。少しずつ成長したらオフィス借りたり、三人目、四人目、というのを少しずつ進めていった感じですね。

SD:その最初の100万円の売上を立てるまでどれぐらいかかったの。

有安:これはいけるなって思うまでに半年ぐらいですかね。自分でPHPのコード書いてフォーム作ったりしてましたよ。それよりも「みんなこんなに習い事したいんだ」ってことに衝撃を覚えてましたね。だってネットで先生を探してさらにお稽古続けるのって大変じゃないですか。自分がそういうことしない人だったんで(笑。

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SD:有安さんって資格フェチとかそういうのでもなさそうだもんね。

有安:勉強は好きですけどね。詳しい人にご飯おごって教えてもらったりするじゃないですか。それもひとつのレッスンですよね。大体のことって一時間も話せばおおよそ分かるし。

SD:事業の途中で辞めたいって思ったことは?

有安:何度もありますよ。だって事業がなかなか立上がらないわけですから。砂漠に水を撒いて梨を育ててる感じですよ。

SD:その例えは…で、どうやって耐えたの?

有安:耐えるというか、退路がないんです。逃げられない。今となればサービス閉じて再就職でもするかなとか考えられますけど、当時は他のことを考える余裕がなかったし、そもそもいけるって信じ込んでました。いけるのは分かってるけど時間がかかってるだけって。

SD:メンターみたいな人って。

有安:あまりいなかったですね。

時々アドバイスくれる人は何人かいたのですが、創業時に大切なのって、時々あってアドバイスくれる人よりも、週7日がっつり一緒にいて一枚岩で一緒に苦しむ人だと思うんですよ。

でも、僕は経営チームを作る前に、勢いで一人で起業してしまって、売り上げも一応上がってきちゃった。なので、悩んだときには、ノートとペンをもってカフェに籠っていろいろ書いてました。書いてすっきりすると指針がみえてきて。

おおよそのことって現状打破できちゃうじゃないですか。

SD:それは人によると思うな(笑。うん。

有安:経営者って鍛えられるんです。腹据わりますよ。最初はふわふわしてましたけど、お金のトラブルとか人が辞めちゃったり、そういうのを一個一個超えていくと強くなりますね。

SD:直近の3期以外は準備期間だったもんね。

有安:その頃はあまりうまく経営してたとは思ってないですね。修業期間というか仕組みづくりというか。

SD:今何歳になったの。

有安:32歳です。

SD:81世代といえば、ちょっと前に光本さん(STORES.jp運営のブラケット代表取締役の光本勇介氏)も同じく突然子会社化を発表したよね…。段々この世代が怖くなってきた…。

ちょっと話題変えようか。印象に残ってる本とかある?

有安:チクセントミハイっていう方の「フロー体験 喜びの現象学」っていう本があるんです。心理学の本で、人間が幸福を感じている瞬間というのは、何かに没頭している時だというのを定量的に分析しているんです。全世界の色々な人種の人にポケットベルを渡して無作為に鳴らしたタイミングでどれぐらいの幸福度があって、何をしてたのかを記録するっていう。

SD:面白い。

有安:分かったことがあって、人ってお金があるからハッピーじゃなくて、夢中になってる時間が多い人ほど幸福度って高くなるんです。アマゾンの人でも狩りしてる最中は幸福度が高かったり。これをつくる仕組みが欲しいって始めたのがCyta.jpだったんですよ。会社のミッションにも何かに夢中になっている状態を「フロー」と呼んでて、それを掲げてるんです。あまり見てもらえてないですが(笑。

SD:知らなかった。

有安:夢中になるのって簡単じゃないんですよ。私は今、スラッグラインとスカッシュ、チャリ通勤にハマってるんですが、ダンスとかも始めたいんですよね。釣りも。でも周りにやってる人って見当たらない。いても、なんか誘ってっていうのもどうかなと。

その時にプライベートコーチがいてくれたら便利じゃないですか。一回か二回教えてもらえれば没頭する方法を教えてくれる。夢中へのきっかけがレッスンだって考えてるんです。だったら人で選んだ方がいいし、一対一の方がいい。

SD:中学生とか高校生ってどんな生活送ってた。

有安:スポーツばっかりですね。中学はバスケでしたが、高校と大学はアイスホッケー。これが体脂肪率7%の時です。右上が僕です。

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SD:別人だね(笑。

有安:大学には内部性でしたからエスカレーター方式で上がりました。

SD:慶應義塾大学だったかな?

有安:そうですね。高校から。SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)って遠くて人気もないんですけどそこに二時間かけて通ってました。

SD:起業のきっかけって。

有安:ビックリマンって覚えてます?ある日、中学校3年か高校に上がった頃かな。押し入れから大量のビックリマンシールが出てきて。幼稚園の年長さんの頃にすごく流行って、丁寧に箱に整理してあったんですよ。そしたらそれを母親が「捨てるよ」って言うんです。

SD:懐かしい!

有安:いやいや、僕の青春を捨てないでくれって。シャーマンカーンにスーパーゼウス、ブラックゼウスにヘッドロココはなかったけど、ダークヘラはあったかな。

SD:笑。

有安:丁度、中学生の頃ってウィンドウズ95が出てきてヤフーが日本に上陸してきたぐらいなんです。インターネットも常時接続じゃなくてダイヤルアップだったし。そこにヤフーオークションがあったんですね。それで、「お、じゃあこのシールヤフオクに出してみるか」ってやってみたんですよ。

SD:青春を捨てるんじゃなくて売るんだ(笑。

有安:一個30円だったじゃないですか。それがですね、一番状態のいいやつで4万円で売れたんですよ。

SD:おお

有安:30円が4万円ですよ。当時の高校生とかにしてみれば4万円ってデカいじゃないですか。しかも手元には残りまだ300枚近くが残ってるわけです。これは「ヤバい」って、全部一気に売り払いました。

お金を稼いだということよりもこのプロセスが楽しくって。写真を撮影してそれを掲載して知らない人とネットでやり取りする。銀行口座には2000円、5000円、1万円っていうお金がバンバン振り込まれるわけです。親はそれを見て悪いことしてるんじゃないかって(笑。

衝撃的でした。インターネットで商売が成立することを知った原体験です。「インターネットハンパねえ」って大好きになってそれで、ネットのことをよく教えてくれる慶応大学のSFCに進学したんです。

SD:19歳で起業に参加するわけだけど、学校ではどういう人に出会ったの。

有安:当時ってベンチャーブームで、学校の中で起業してる人が多かったです。ゼミの先輩には田中祐介さん(フラクタリスト創業者)とかネットプライスの佐藤さん(ネットプライスドットコム代表取締役社長兼グループCEOの佐藤輝英氏 )が卒業生にいたり。起業したいって思いました。

それと金子陽三さん(ユナイテッド代表取締役社長COO)ですね。他にも、SFCには学部生や大学院生で起業している人が何人かいて、キャンパス内で紹介されるんですけど、「初めまして、僕、会社やってます」って学生に言われるわけです。

意味が分からない。なんだそれはって楽しそうだからオフィス訪問すると、汚いアパートに人が一杯いててなんだかカチャカチャやってる。プログラミングだって。どうやってそれでお金が貰えるのかすら分からなかった。

SD:わかる(笑。

有安:しかも金子さんってシリコンバレー帰りだったからひたすらシリコンバレーの話するわけですよ。でも、こっちはベンチャーすら何?って感じだったから、シリコンバレーって聞いても大きな谷があって、そこに起業家とか投資家とかそういう人たちが住んでる村があるのかなって思ってました(笑。

SD:俺もそれ思ってた(笑。でも胡散臭いって思わなかった?

有安:思わなかったですね。だって私、ビックリマンのシール売ってたぐらいですから。それで金子さんと仲良くなって起業に突き進んだんです。

ーー突然発表となった会社売却とその理由とは。後編は明日公開予定。

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