「目指すはニコ動のようなユーザのコミュニケーションを創発する場」−−スクーが描く学びを通じた最高の体験

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学ぶ意欲というのは、年齢問わず、知的好奇心を持ち続ける限り、誰しもが持つものだ。仕事関係だけではなく、趣味に没頭したり、自分が今まで見向きもしなかった分野から新しい発見に気づくなど、一言で「学び」と言っても多種多様なものがある。

また、「学び」というのは、自分一人では継続が難しい。だが、共に学ぶ友人がいることで、互いに切磋琢磨して学ぶ意欲も維持できる。さらに学びを通じて新しい仲間と出会うこともある。つまり、「学び」は自分の知識やスキル向上だけでなく、新たな人とのつながりや出会いを生み出す要素でもあるのだ。

こうした「学び」を通じた新たなコミュニティ作りを軸に、多様な体験を提供しようと活動しているのが、「schoo(スクー)」だ。今回は、彼らが目指す未来について、株式会社スクー代表取締役社長森健志郎氏に話を伺った。

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生配信を通じた学習サービス

スクーは「世の中から卒業をなくす」というミッションのもとに、知的好奇心を満たすコンテンツを提供するオンライン上の学校サービスだ。インターネット生放送を通じて講義を日々配信している。

2011年10月にスタートした同サービスは、2013年7月には1億5200万円を調達し、9月末月現在で5万人以上もの会員を抱えている。主に社会人を対象に学び続ける場を提供している。

講義の内容は、これまでにIllustratorやPhotoshopなどのデザインスキル系、経営やマーケティング、マネジメントなどビジネス系、編集、ライティングなどのメディア系など、様々なジャンルの講義を配信しており、現在では200以上もの講義のアーカイブがある。

生中継の参加は無料だがアーカイブ動画視聴に制限があり、有料会員になるとアーカイブ動画も無制限に視聴することができるといった、フリーミアムモデルを採用している。

教育ではなく、ユーザに「学ぶ」楽しさの体験を提供すること

現在、様々な教育関連のスタートアップが登場している。Khan Academy(カーンアカデミー)などに代表されるように、いつでもどこでも無料で教育コンテンツが受けられるサービスから、教えたい人と教える人のマッチングなど、サービスによって教育のために様々な手法をとっている。こうした教育系サービスのマーケットの伸びに対していち早く動き出した森氏は、ネットを通じた学習環境の変化の予感を掴んでいた。

「前職のリクルートに勤めていた時に、様々なサービスがネット化されてくるのを実感しました。学びや教育、学習もネット化され、ネットで学ぶことが当たり前になる世の中になると考え、ネット上で何か学習できるものをということからスクーを始めました」

スクーを始めた森氏は、従来の教育コンテンツの配信ではなく「学ぶ」ことに重点を置いており、それはスクーを始めた当初から変わらない考えだという。

「スクーは、教育サービスとは名乗っておらず、学習サービスと呼んでいます。教育とは、教え育むものであり、ゴールがあります。しかし、スクーは、人が様々なものを学ぶことは純粋に面白いという考えから、終わらない学び、という人の飽くなき知的好奇心にアプローチしています。あくまで、コンテンツを編集し、ユーザに体験を提供するサービスだと考えています」

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「終わらない学校生活を提供するサービス」とスクーを呼んでいる森氏は、現状の教育系コンテンツサービスに対して、違った視点を持っている。それは、日本と海外における教育における状況の違いだ。Khan Academy(カーンアカデミー)などのように、教育コンテンツを受けられない人たちに対して、貧富の差を縮める取り組みならばターゲットも広くビジネスの可能は大きいが、日本では海外に比べて教育格差は小さく、またターゲット層の小ささからビジネスとしてのスケールが難しいのではと語る。

「国土や市場が小さい日本では、教育コンテンツだけで勝負するのは、圧倒的な物量が無ければ難しい。また、時代と共に教育コンテンツの資産価値も変わってきます。昔の教育コンテンツが活きない可能性もあるため、常に新しいコンテンツを生産し続けなければならないのは、とてもハードルが高い」

目指すはニコ動のようなユーザコミュニケーションの場

教育コンテンツの難しさを語る森氏。そこでスクーでは、教育コンテンツではなく、そこに集まるユーザ同士の関係に重きを置くという。

「コンテンツをきっかけに、そこに集まる人たちが作り出すコミュニティにこそ価値がある。だからこそ、スクーでは”学校”というメタファーを大事にしています。共に学ぶ仲間がいる、という意味において、学校は素晴らしいコミュニティだと考えています。

コンテンツを通じて学ぶことの楽しさだけではなく、共に学ぶ人との間で生み出すコミュニケーションという付加価値を大事にしてもらいたい。いわば、講義というコンテンツを通じて、ユーザ同士で新しいコンテキストを生み出す、ニコ動のようなものを目標にしています」

7月の資金調達の際に森氏が言及したように、スクーのプラットフォームを外部団体や学校に提供する仕組み作りや、ユーザにプラットフォームを開放するオープン化を目指している。生放送を通じてコミュニケーションを創発するところにこそ、ビジネスとしてのポイントはあるという。

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「いずれは、誰でも先生になれるようにします。また、放送の内容も講義形式だけではなく、ニコ動であるようなゲーム中継と学習を掛け合わせる形、例えばデザインをその場で実践してそれを配信しながらユーザも自身のPCでデザインの学習をして、その場で作品を講評をするようなことも計画しています。他には、配信をすべて質問形式にしてユーザの質問に講師がすべて答えるもの、講師がファシリテーターとなって、ユーザ同士のコミュニケーションを創発するような講義も考えています。こうした形が、スクーが本来やりたかったものです」

講師とのコミュニケーションを円滑にし、またその場で参加しているユーザ同士のコミュニケーションから学びの楽しさを導き出す。ネットを通じて、学ぶ楽しさを提供する場を作り出し、最高の体験を提供するUXことがスクーの形であり、教育コンテンツ型のサービスとは違った形だという。

そうした中、競合として見定めているスタートアップがいるか伺ったところ、Quipperだと森氏は語る。学びをネット上で展開し、クイズなどを通じて楽しく提供しているか、といったところが意識するポイントだという。教える側と学ぶ側といった形の延長ではなく、いかに楽しく体験を提供するか、といったところを注目いると森氏は語った。

コンテンツを触媒に、ユーザの学びのコミュニティを作ること

いわゆる、Massive Open Online Courses (MOOCs)などのように、大学の講義を視聴する方法は、Googleが進めている道のりでもある。国内の教育系サービスの盛り上がりのスピードはまだまだ遅いが、いずれ教育コンテンツ型はGoogleと市場を争う危険性がある。

「オンラインの学習動画のコンテンツ消費をMOOCSを配信するYouTubeだとするならば、オンラインの学習のコミュニティで、動画を触媒としたコミュニケーションを行う学習領域のニコ動として、スクーだと言えます。そもそもの立ち位置や狙いが違うからこそ、サービスとしてのシェアを取れると考えています」

いかにユーザのコミュニケーションを創発するかがスクーとしても大きなポイントだ。そのため、ユーザ数だけでなく、講義に参加するユーザのコメント数なども事業のKPIとしている。どれだけユーザが能動的に講義に参加しているか。コメント数が0回よりも1回以上コメントしたユーザのほうが、他の講義への参加率も高く、コメント参加を通じて、確実に学びの体験を得ていると実感しているという。

また、今後の事業計画も、まさにニコ動ことニコニコ動画が歩んでいる道と似ているものだと森氏は語る。

「プラットフォームビジネスを軸に、有料会員に対するサービスの拡張やプラットフォームによる手数料、有料コンテンツやまた生放送ならではの課金など、生放送だからできるものを提供していきます。色んな方法が考えられる中、一つ一つ確実に進んでいきたい」

現在は、特定のジャンルに絞りながら、コンテンツの作りやすさやユーザの反応を分析しているという。今後はコンテンツのジャンルをなくし、ジャンルではなくコンテンツの中身のフレームをどう設計していくかを試行錯誤していく。講義の時間も、60分から90分、120分など時間の変更なども試験的に導入するという。実況中継などの講義は、5時間などの長時間もありうるのではと語った。

ニコ動では、踊ってみた、歌ってみたなどのように、ユーザ自身が投稿し、視聴しているユーザとのコミュニケーションから新しいクリエイティブが日々生まれている。こうした形を学びの領域にも拡張し、楽しくみんなで学ぶことを通じて、知識だけではなく新しい体験の場を提供することをスクーは目標にしている。

ユーザ自身が能動的に学ぼうと取り組む未来をどう実現するか、今後の動きに期待したい。

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