「職人気質のエンジニアが輝ける場所を作りたい」IT企業のシステム部門を統括する“コンダクター”、佐藤由紀さん【前編】

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Yuki-Sato-MicroAd株式会社マイクロアドのシステム開発部 部長の佐藤由紀さん

私はそういうエンジニアのことを職人みたいだなぁと思っているんです。例えば、日本の伝統職人をちょっと想像してください。決して話は上手くないけれど、すごく卓越した技術や、技術へのこだわりを持っている。それって素晴らしいことだと思うんですよ。だから、職人みたいなエンジニアが輝いて、本気で働ける場所を作りたいと思いました

オークション型広告配信システムを提供するマイクロアドで、システム部門を統括する、部長の佐藤由紀さん。新卒入社したSIer(受託開発会社)は、コミュニケーションが苦手なだけで優秀なエンジニアが正当に評価されない環境だった。職人気質のエンジニアが輝ける職場を作りたい。

その後入社したマイクロアドでは、入社2年目にしてシステム部門を統括する部長に。自分の役割をオーケストラのコンダクターのようなもの、と話す佐藤さん。会社のビジョンをきちんと共有し、エンジニア一人ひとりが主体的に発想して動くチームを作っている。

これからは、全体最適解を考えられる本物のスペシャリストのエンジニアが求められていく時代だと言う。インタビューを通して、女性ならではのマネージメント力を垣間見ることができた気がする。前編・後編に分けてお届けする。

好きなことより、苦手なことに挑戦して歯ごたえのある人生を

三橋:現在のマイクロアドのお仕事の前は、宇宙関連のシステム開発のお仕事をされていたと伺いました。もともと、宇宙に関心があったんでしょうか?

佐藤:いいえ、全くないですね。宇宙には全然関心がなかったんですが、理論物理学には高校のころから興味があって、大学では修士課程までずっと理論物理学に夢中でした。でも将来を考えた時に、民間企業で働きたいと思っていて。

三橋:なぜ民間企業にこだわったんでしょう。

佐藤:理由は2つあって、一つは私が天の邪鬼で、周りの人はみんな私が学者になると思っていたので誰も想像していないところ、と考えたこと。もう一つは、うちの家庭は父が公務員で母が会社員で。父も素晴らしい人ですけど、どうも母のほうが世間に対する視野が広いなと感じていました。視野は広く持ちたいし、学者はどちらかというと公務員に近いかなと思って民間企業で働くことを決めました。

三橋:宇宙に関心がなかったのだとしたら、ITに興味があってシステム開発会社に入って、たまたま宇宙関連のシステム開発に関わったという事ですか。

佐藤:いえ、むしろITは嫌いな分野だったんです。でも、好きなことをやって、できてしまって飽きるよりも、嫌いなことに挑戦して歯ごたえのある人生を過ごしたほうが面白いと思いました。とはいえ、苦手100%だと辛いので、大好きな自然科学とを掛け合わせて働ける会社と考えて選んだら、たまたま、その会社が科学の中でも特に宇宙開発関連をやっている会社だったんです。

三橋:そこから、マイクロアドに転職されたんですよね。宇宙と広告配信システムとでは、だいぶスケール感が違うのかなって気がするんですが。

佐藤:マイクロアドには2010年2月に入社したので、ちょうど4年が経ちました。最初の会社では5、6年働いて、数式だらけのアルゴリズムの設計・開発をしたり、社会人2年目からはシステムのプロジェクトマネージメントもしたり、営業や、国際プロジェクトの構想、など何でもやってきました。仕事はすごく面白かったんですが、嫌だなと思ったことが2つあって。

三橋:そのまま進んでも順風満帆なキャリアを歩める感じですが、嫌な点というのは?

佐藤:SIer(受託開発会社)の扱うシステムは最終的にはお客さんのもので、絶対にこうしたほうがいいということがあっても、最終的に決断するのはお客さん。でも、本当に重要なことって論理的には説明がつかないこともある。情報って言葉にすると陳腐化してしまうので。そこに歯がゆさを感じて、だったら、自分たちで作ったものを提供していく仕事をしたいなと思いました。

三橋:本当に大事なことは論理的には説明できないってすごく刺さりますね。

職人気質のエンジニアが輝けて、本気で働ける場所を作りたい

佐藤:もう一つは、大手のSIer(受託開発会社)にいると、自分よりもすごく優秀なエンジニアがたくさんいて、でも彼らは会社で評価されないんです。それは、コミュニケーションをとったり調整することが下手だから。少し話をするのが上手いだけの私のほうが評価されるっておかしな環境だと思いました。

三橋:優秀なエンジニアが正しく評価されないことに違和感を感じられた。

佐藤:私はそういうエンジニアのことを職人みたいだなぁと思っているんです。例えば、日本の伝統職人をちょっと想像してください。決して話は上手くないけれど、すごく卓越した技術や、技術へのこだわりを持っている。それって素晴らしいことだと思うんですよ。だから、職人みたいなエンジニアが輝いて、本気で働ける場所を作りたいと思いました。

三橋:なるほど。マイクロアドなら、それができそうだと。入社後、システム部門を統括されるようになったのはいつですか。

佐藤:マイクロアドは、基本的に管理職としての採用はしないので、最初はシステム部門のエンジニアとして入りました。システム部門全体を統括するようになったのは、入社翌年の2011年ですね。

三橋:職人気質のエンジニアさんと接する時に、どういうことを心がけてらっしゃいますか。

佐藤:私自身が、職人気質のエンジニアのことが好きで仕方がないので、特に心がけずとも当たり前に敬意を持って接しているということが大きいです。新卒2年目からマネージメントをしてきましたが、マネージメントは役割の一つでしかない。だから偉そうにするのは間違っているし、素晴らしい技術を持っている方に敬意を持って、真摯にコミュニケーションをとることだと思います。

マネージャーとは、オーケストラを一つにするコンダクター

三橋:エンジニアの採用時に、佐藤さんが見るポイントを聞かせてください。

佐藤:まず見るのは、本当にシステムが好きかどうかです。最近世の中にエンジニアが増えていますけど、ちょっとした表面的なものを作って終わりという人も多い気がしていて。それってなんで動いているんだろう?と、システムのアーキテクチャに興味を持って、物事の根幹を意識しながら良いモノづくりをしたいというマインドを持っているかどうかをポイントにしていますね。

三橋:システムが本気で好きか。他にはありますか。

佐藤:発想力ですね。私たちは、日々、誰も経験していない不具合に遭遇して解決したり、サービスをさらに良くするために新しい技術を勉強して取り入れています。そういう時に、自分の小さな枠で勝手に思い込んで進めずに、いろいろな仮説を自分で発想して検証できるか。あと、人にもらったアドバイスをフラットに受け止める素直さも大切です。

三橋:なるほど。佐藤さんは今の仕事のどんなところにやりがいを感じますか。

佐藤:私自身は、職人的なエンジニアの人がすごく輝ける状態が一番嬉しいです。あとは、それによって、すごくいいシステムが出来上がることが気持ちいいですね。私は小さい頃から音楽をやっていたんですが、楽器も歌も下手でプレイヤーには向きませんでした(笑)でも、コンダクターとして指揮をすることはすごく得意で。

三橋:なんか今のマネージメントのお仕事にも通じるものがありますね。

佐藤:そうですね。オーケストラのメンバーは、みんなスペシャリストなんですよ。その楽器を指揮者よりもずっと上手に弾きこなす。そんな彼らの技術を最大限に引き出した上で、調和をとって一つのものにすることがコンダクターの役割。今の仕事も全く一緒で、そこは向いていると思うし、自分の一番の持ち味かなと思っています。

三橋:それぞれ役割分担でしかないと。

佐藤:職人のエンジニアたちは、エンジニアリングっていうものを軸足に置いてコミットしていて、私は最終的にシステムで出来上がるサービスというものにコミットしているだけの違いです。

後編につづく。

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