これから必要なのは、全体最適解が見出だせるエンジニア:マイクロアド社システム部長の佐藤由紀さん【後編】

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「「職人気質のエンジニアが輝ける場所を作りたい」IT企業のシステム部門を統括するコンダクター、佐藤由紀さん」の後編をお届けします。【前編】はこちら

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会社のビジョンを徹底的に浸透させて自主性を育む

三橋:何を作るかによるとは思うんですが、いいプロダクトにある共通点を挙げるとしたら何だと思いますか。

佐藤:私は、ポッと作って流行ったかどうかで捨てるようなものではなく、長く使われるものを作りたいと思っています。マイクロアドの、オークション型の広告配信システムもまさにそうで。長く使われるものを作る上では、芯がはっきりしていることが大切です。お客さんに欲しいと言われたからと言って安易に作らず、会社やプロダクトのビジョンに照らし合わせて、理想の形に落とし込んでいるかどうか。

三橋:それを実現するためにエンジニアさんにはそれぞれミッションが与えられている?

佐藤:基本的には、マイクロアドという会社のビジョンがある、以上です。システム部門としては、あくまでフラットな体制であることにこだわっています。会社のビジョンを踏まえて、自社のサービスを良くするためにそれぞれが何をするかを自分で決めます。

三橋:そこを自分で発想できるためには、会社のビジネスについての理解も求められますよね。

佐藤:事業会社で自社サービスを作るというのはそういうことだと思うんです。でも一般的には、例えばインフラエンジニアが、自分の会社のビジネスがどう成り立っているかを知らないことは珍しくありません。マイクロアドでは、エンジニアからも、今後予測されるビジネスの成長を見据えたシステム提案が出てくるのが日常です。

三橋:それって、会社のビジョンやゴールがしっかり共有されているわけですよね。そこまで浸透させるコツは何ですか。

佐藤:毎朝の全社員での朝会があって、前日の売り上げやコストなどがきちんと共有される風土が根付いています。各種数値は、オフィス中央に設置された6台のディスプレイでも共有されています。あとは、会社の重要なミーティングの内容を実況中継する社内の情報共有システムがあって。役員陣参加のミーティングなども、書記が全員の発言内容をリアルタイムにつぶやいて、誰でもそれをチェックできます。その場にいなくても、そこに質問を投げることもできるんです。

教授に言われた、「これはわかる人にしかわからない論文だからダメ」

三橋:佐藤さんにとって、今までのキャリアの中でのターニングポイントっていつでしょう。

佐藤:うーん、特にないですね(笑)どうでもいいルールとかは完全に無視する方針でやってきて、結果を出せれば問題ない。だから、特に大きなターニングポイントってないです。

三橋:無視する方針ですか。具体的なエピソードで聞かせてほしいです(笑)

佐藤:最初に入社したSIer(受託開発会社)で一年働いた頃、会社が価格競争に巻き込まれずに、強みを持ってビジネスを出来る方法を思いつきました。その後、誰の確認を取ることもなくアライアンス先を見つけて、話を進めていきました。あとは実際に走り出すだけという状態になった時、ちょうど年に一度、役員に自分の実績を発表する機会があったので、そこで初めて報告をしたんです。

三橋:役員陣の反応はどうでした?

佐藤:半分の役員にはすごく評価されて、残り半分にはお前はどういうつもりだって言われましたね。その後、実際にそれで何億円という受注につながって、お客さんにも喜んでもらうことができたので、何も後悔することはありません。

三橋:お仕事で大きなターニングポイントがないとすれば、もっとさかのぼったところに今の佐藤さんのルーツがあるんでしょうか。

佐藤:さかのぼれば、今の自分に大きく影響したことが2つあります。一つは、私は小さい時に身体が弱過ぎて、脳の発達も遅かったんです。それこそ、小学校の普通学級も入れないくらいに知能が低くて。でもそのおかげで、人と同じことができないといけないと考えたことがないんですよね。人は人、自分は自分と。もう一つは、大学・大学院と物理学の論文を書いたりしていた時のこと。私は論文を書くのが早かったので、誰よりも早く少し自慢げに提出していました。でも、当時の教授が素晴らしくて、「これはわかる人にしかわからない論文だからダメ」って言われたんですね

三橋:きっと珍しいですよね、そういう教授。

佐藤:その方は独特だったと思います。難しい言葉を並べるより、同じ理系の大学1年生が読んでも、ある程度理解できるように書きなさいと。その時に、徹底してわかりやすく伝えることを意識して、工夫することを学びました。

三橋:それは論文に限らず、日常的でも仕事でも役立ちますね。

佐藤:ですね。例えば、ITが苦手で全く異なる職種の人にシステムのことを教える時なんかにも、その時学んだことが活きているなと思います。

これからは、全体最適解を見つけられる本物のスペシャリストの時代

三橋:佐藤さんはこれから何を目指しますか。先のプランニングとかはあまり意識されなさそうな感じがしますが。

佐藤:何かあるかな…。あまり意識しないですね。今を一番良くしよう、それだけなので。ちょっと話がそれますけど、昨年から中国の子会社の社長もしているんですが、マイクロアドに入る時に、「中国に子会社があるんだけど興味ある?」って言われて、一切興味はありませんって言い切っていたんです(笑)。

三橋:でも、今は社長をされていらっしゃる。どんな変化があったんでしょう。

佐藤:当時絶対ないと思っていたことを今やっている。やっぱり仕事のなかで必要性があったので、自然とそうなっていきました。だから、将来これだ!みたいなものはあまりなくて、臨機応変ですね。

三橋:最後に、エンジニアという職種の皆さんは、今後どんな風にスキルを磨いていけばいいでしょうか。アドバイスがあればお願いします。

佐藤:私はこれからは2種類のエンジニアが必要だと思っています。まずは、先ほどお話ししたコンダクター。技術への深い敬意・理解と愛着を持っていて、芯が強い人。彼らには、「色んな意見の角を取って丸くする」調整ではなくて、「いい角を見つけて磨いてエッジを効かせる」調整が求められると思います。

三橋:なるほど。一言で「調整」と言ってもだいぶ違いますね。

佐藤:また、本物のスペシャリストも必要になっていくと思います。例えば、データベースのスペシャリストの場合、これまではデータベースの事が分かる人がデータベースのスペシャリストと言われてきましたが、それだけでは本物のスペシャリストとは言えないと思います。データベースのことは当然わかるけれど、それ以上に、サービス全体の視野を持って、自分が軸にしているデータベースの知識やスキルを活用していける人、それが本物のデータベースのスペシャリストです。

三橋:これからのエンジニアは自分の専門分野にだけ詳しいだけではダメだと。

佐藤:今の日本のシステム開発って、インフラはインフラ、アプリケーションはアプリケーションみたいに分かれてしまっている事が多い気がします。でも、それって部分的に最適な答えを出すことにしかならなくて、全体最適解は別にあるんです。エンジニアの皆さんには、自分の強みを持ちながら、本当のスペシャリストを目指してほしいと思います。どこのシステム開発の現場にも、技術の「オーケストラ」が活躍することを夢見て、これからも先頭を走り続けようと思っています。