「アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)」が目指すもの——イベントの立役者、三井不動産ベンチャー共創事業部に話を聞いた

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三井不動産ベンチャー共創事業部 事業グループ長の松井健氏(右)と、主査の加藤慶氏(左)

日本の学術研究都市と言えば、西のけいはんなに、東のつくば。けいはんなにはオトナロイドやコドモロイドの開発拠点となった ATR があり、つくばにはサイバーダインに代表されるロボティクス・ベンチャーや数々のスタートアップが集結している。東京とつくばを結ぶほぼ中間地点には、三井不動産が中心となった開発を進める次世代都市地区「柏の葉スマートシティ」があり、ここでは、自動車の運転をスマート化するスタートアップ「スマートドライブ」の実証実験が実施されたことでも記憶に新しい。

柏の葉スマートシティの中心部、つくばエキスプレスの駅周辺には、柏の葉オープンイノベーションラボ(Kashiwa-no-ha Open Innovation Lab、略称:KOIL)があり、毎年ここを会場として「アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)」が開催されている(昨年の模様にこちらから)。

昨年のイベントの記事をご覧いただいた読者は、AEA が日本で開催される典型的なスタートアップ・カンファレンスとは少し毛色が異なることに気づくだろう。ピッチに登壇するのは、IT に特化したサービスに限定されず、基礎技術から重工業の需要を対象とした製品まで分野は多岐にわたる。

今年の AEA は5月24日~26日に開催されるが、イベントに先立って、AEA の目的や開催までの経緯について、三井不動産ベンチャー共創事業部事業グループ長の松井健氏に話を聞いた。

AEA はこうして生まれた

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東京・秋葉原とつくば学研都市を結ぶ、つくばエクスプレス(略称:TX)が開通したのは2005年のこと。次第ににその周辺には、技術を冠したベンチャー企業が集まり始めた。三井不動産は柏を中心に不動産開発を進めてきた兼ね合いがあり、2010年前後からこの地域のベンチャー企業の活動を支援したきたが、そんな中で松井氏らには、気になることがあった。

つくばエクスプレスの沿線には技術が多くあり、ベンチャー企業を応援するためにベンチャー支援団体も作った。しかし、彼らは日本国内の市場しかみていないというか、大きなエクスパンションを見ていない人が多かった。もっと言えば、あまり欲が無い。(松井氏)

数あるベンチャーをもう一歩向こうのステージへと推し進められないかと思案する中で、松井氏は同じような考えを持つ人物に出会った。東京大学教授の各務茂夫氏だ。アジアの熱い風を日本のベンチャーコミュニティに送り込めないかと考えていた各務氏と松井氏らが手を組み、約1年間の準備期間を経た2011年、桜の咲く頃に柏の街にアジアのベンチャーが十数チーム集まった。AEA の誕生だ。

今年で4回目を迎える AEA への参加条件は、工学産業系やテクノロジー系のベンチャーであること。また、未上場で設立から5年以内である必要がある。

日本の強みはテクノロジーベンチャーだが、残念ながら支援がつきにくい。そこを応援していきたいというのが AEA の狙いだ。

日本では起業してから7〜8年して鳴かず飛ばずでも許される気運があるが、アジアだと、もう大きくなっているかつぶれているかのどちらか。そのスピード感を持ち込みたかった。そこで、イベントはすべて英語でやることにした。プレゼンテーションにも同時通訳はつけないことにした。(松井氏)

AEA にはアジア12の国と地域から、各国の大学や研究機関の起業家支援者による推薦や予選を勝ち抜いたベンチャー企業30チームが集まり、上位入賞を目指して、互いの技術やビジネスモデルを競い合う。

ネットワークこそ宝

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昨年の AEA 2014 で優勝した T.Ware(シンガポール)のチーム。

AEA に参加するベンチャー企業30チームは、前夜祭を含めるとファイナル・プレゼンテーションが行われる最終日まで4日間にわたって、ほとんどの時間を同じ屋根の下で過ごすことになる。そこから生まれる人的ネットワークに、後々にビジネスを大きくする上での大きな価値を見出すチームは少なくない。

1位賞金の200万円というのも大きい。1位〜3位入賞者には、KOIL などの2年間無料使用権も授与している。しかし、彼らにとって、何よりもここから生まれるネットワークこそが宝です。

エントリーしてくるベンチャー企業の第一のモチベーションは、自分たちの力だめし。世界の中で、自分たちの技術やビジネスが、どのくらいの位置にあるのか、というのを知りたがっている。第二に、日本市場へのマーケットエクスパンション。

ベンチャー企業のイベントへの招聘にかかるコストはスポンサー企業からの協賛金で賄っており、どこまで続けられるかわからないが、小宮山さん( AEA を主催するフューチャーデザインセンター最高顧問で、三菱総合研究所理事長)とは、歯を食いしばって最低10回位まではやりたいなぁ、と言っています。(松井氏)

入賞したベンチャー企業のその後を見てみても、AEA がアジア各国の起業エコシステムに好影響を与えていることが窺い知れる。2012年の AEA に参加したフィリピンの Neugent Technologies(防犯カメラ録画技術)は準優勝の座に輝き、同社の共同創業者 David Cruz 氏は AEA からの経験で得られた自信を胸に、さらに複数の会社を起業し、切り盛りするようになった。

KOIL と TX を母体とする TX Entrepreneur Partners(TEP)のメンター組織「グローバルパートナープログラム」が手を貸してくれるので、参加チームは日本への市場エントリのみならず、アジア各国への進出においても、ローカル市場への紹介や方法論の手ほどきを受けることができる。

三井不動産のベンチャー投資

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三井不動産のコワーキング・スペース「Clipニホンバシ」 (同社ホームページから)

三井不動産は去る4月、スタートアップを始めとするベンチャー企業への投資活動を担ってきた担当部門「ベンチャー共創事業室」を「ベンチャー共創事業部」に格上げし、31 VENTURES(サンイチベンチャーズ)として事業を本格始動した。言うまでもなく、31 VENTURES の名前は〝ミツイ〟に由来するが、三井不動産のビルがある日本橋や霞が関はもとより、都内各所にベンチャー支援オフィスを31カ所作りたい、という目標を掲げている。

最近では、ユーグレナが組成したリアルテック向けの20億円ファンドへの出資、スマートロック「Akerun」との提携による空きオフィス有効活用事業などは記憶に新しい。

不動産会社がスタートアップやベンチャー企業を支援する背景には、その企業が将来成功した際のオフィス需要に期待を寄せているのも事実だが、それ以上に、不動産という目に見えるアセットを生かして、事業創出にどれだけ貢献できるか挑戦している、という見方ができる。オフィスを持たない企業は皆無であり、大会社であれ、中小企業であれ、不動産会社にはお世話になるわけで、不動産会社の持つ企業ネットワークの広大さには計り知れないものがある。海外では、香港の不動産コングロマリット Swire Properties が自らインキュベータを始めており、日本の不動産会社からもこのような動きが出てくるのに期待したいところだ。

なお、来週開催される AEA 当日の模様は、THE BRIDGE でも現地からお伝えする予定だ。お楽しみに。

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