これ以上、声や顔を持たない人たちの潜む才能を見過ごさないーー公営住宅にネットアクセスを届ける「ConnectHome」の活動とGitHubの貢献

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GitHub Universeの2日目基調講演の続編をお届けします。前編では、GitHubのSocial Impact部門のヴァイスプレジデントを勤めるNicole Sanchezさん、また「Detroit Water Project」を共同創業したTiffani Ashley Bellさんの講演内容をお届けしました。

前代のシリコンバレーのテクノロジストは、人間が生きて繁栄するためのニーズを表したマズローの欲求段階説における上位階層にしか目を向けて来なかった。でも、世界には、水や身の安全など人間としての基礎的なニーズですら満たせないでいる人たちがいます。次世代のテクノロジー業界には、組織やチームとして、この社会的課題の解決に取り組むことが求められます。

※Nicoleさんのスピーチは、前編のTiffaniさんのスピーチへのコメントで始まっています。

見過ごされている才能に目を向ける

地球の次に私たちが住むことになる恒星系には、Tiffaniのような人がもっと沢山いてほしい。人類をより良くするために、Tiffaniのようなスキルや視野を持った人がもっと必要です。彼女の視点、バックグラウンド、そしてテクノロジストとしての経験が、現場レベルで重要な変化をもたらしています。彼女は、人々が長年乗り越えられないでいた既存システムを回り込んで、彼らに必要な基礎的なニーズを提供しました。マズロー欲求段階説のボトムにある水や食べ物、暖かさ、また身の安全などです。

私は、Tiffaniと彼女の共同ファウンダーの2人の女性が、「見過ごされる」姿を見てきました。彼女たちを見た人は、「まさか、君がハッカーなわけがないだろう」「あなたがデベロッパーのはずがない」と言います。でも、この国に、そして世界には、こうした才能が多く潜んでいます。それはあらゆる場所で完全に見過ごされ、この業界も例外ではありません。

全米でオープンソースのプロジェクトが起こる場所を地図に表したもの
全米でオープンソースのプロジェクトが起こる場所を地図に表したもの

これは、オープンソースのプロジェクトが最も起きている場所を地図にしたものです。驚くには至りませんが、カリフォルニアや、東海岸ではニューヨークやボストン辺りに集中しています。このドット以外の場所で、どれだけの才能が見過ごされ、無駄にされているか考えてみてください。社会には、彼女たちのように視野を持ち、基礎的ニーズを必要とする人々のために何かを作れるスキルを持つ人たちがもっと必要です。

私のお気に入りのアプリの一つに、「Refuge Restrooms」があります。ボランティアが集まって作ったもので、トランスジェンダーやインターセックスの人たちが安心して使えるトイレを地図にマッピングしたもの。このアプリがあれば、「違う」ことを理由にトイレから追い出されたり、時に襲われたりする恐怖から逃れて、安心してトイレを使うことができる。私もダウンロードして友だちなどが必要な時に使っています。テクノロジーを使うことで、基本的な人権をもたらしてくれています。

インターネットアクセスの有無が平均余命を左右する時代

基調講演を行うNicole Sanchezさん
基調講演を行うNicole Sanchezさん

Detroit Water Projectの他に、もう一つ皆さんに参加してほしいプロジェクトが「ConnectHome」です。GitHubとして、このプロジェクトに関わることができて誇りに思っています。ConnectHomeは、貧困またはギリギリのところで生活する一般家庭に対して、大きなスケールでインターネットのブロードバンドアクセスを提供する活動です。EveryoneOnというNPOと連邦政府、そしてGitHubを含む民間企業数社が共同で取り組んでいます。

なぜ、このプロジェクトが大切なのでしょうか。アメリカでは、4つに1つの家庭にインターネットアクセスがありません。ブロードバンドアクセスがない人の32%は、家でモバイルフォンを使ってインターネットを使っています。アメリカのティーンエイジャーの70%は、学校の宿題をやるためにインターネットを使う必要があります。どう考えても、この数字はつじつまが合いません。それは、この70%の中に、インターネットを使うために途方も無い努力をしている人がいることを意味します。

マズローの欲求段階説の下位階層について話す時、インターネットアクセスも重要なポイントです。なぜなら、人がその人生でいくら稼ぐことができるか、学校教育をどれだけ受けられるか、またどれだけ長く生きられるかに、インターネットアクセスの有無が関係しているからです。インターネットアクセスが、人の平均余命を左右する時代なのです。

テクノロジーの作り手になってほしい

ConnectHomeは、現在28のコミュニティで活動しています。特に、オープンソースのホットスポットがない地域が対象です。インターネットアクセスがない75万人が、家からインターネットを使えるようにする。このプロジェクトにおけるGitHubの役割は、家庭にデバイスがある状態にすること。そのデバイスとは、低価格で修理がしやすいChrome Bookのようなものです。

人々に、消費者としてインターネットにアクセスしてもらうこと以上に、テクノロジーの作り手としてインターネットを活用してほしいと思っています。インターネットは使えるようになっても、例えば、Detroit Water Projectのようなプロジェクトの作り方などの情報には触れられていない人が多い。もし、インターネットへのアクセスに加えて、GitHubのアクティブなコントリビューターになる方法を学ぶことができれば、そして人が必要とするソフトウェアを開発する術を身につけられれば、その人は企業にとって雇用対象になります。

CEOのクリス・ワントラスの基調講演の中で、世界には2,000万人のデベロッパーがいるとありました。でも、それは事実ではありません。もっともっといるはずなんです。自分で自分のことをデベロッパーとは思っていなくても、実際はそうである人が。自分にそんな才能があると思っていない人が、適切な教育やツールを手にすることで自分が持つ才能やクリエイティビティに目覚める。この部屋にいる私たちは、みんなそれを持っています。それは素晴らしいこと。でもそれを、もっと広めていく時が来たのです。

学校から家まで安全に帰れる経路がわかるアプリ

今年の10月、28の各コミュニティで人が集まります。誰が人にコーディングの仕方を教えるのか、GitHubにはどう登録してもらうのか、初めて挑戦する人にとってオープンソースが怖くないものになるように何ができるのかなどを議論します。

オープンソースのコミュニティで、嫌な思いをしたことがある人は手を挙げてください。大勢いますね。それをもっと減らしたい。それを実現するための方法の一つは、より多様な人たちをGitHubのようなプラットフォームに集めて、マズロー欲求段階説の下位階層に向けたものを作ることです。だからといって、上位階層のためのものが作れないわけではありません。起業家が自分が感じる課題の解決に関心があるとするなら、それがお水、シェルター、インターネットアクセス、食べ物、身の安全になるのです。

テクノロジー分野で私が目の当たりにしたことで印象的だったのは、Level Playing Field Instituteが主催した「Level the Coding Field Hackathons」で起きたことでした。参加者は、オークランドやレッドウッドシティ、東パロアルトなどの中学生と高校生で、デザイン方法論やオープンソース、またコーディングなどを学ぶために集まりました。コンピューターサイエンスの教育を受けたことがない生徒ばかり。何が面白かったかというと、生徒が作ろうとしたものでした。

私の一番のお気に入りは、「学校から家に帰るまでの安全な道のりを教えてくれるWaze」でした。生徒の中には、犯罪率が高い危険な地域を通学路にする子もいます。そんな子が、学校の課外プログラムに参加すると、授業が終わる頃にはもうバスは走っていません。一人で暗闇を歩かなきゃいけない。生徒には、どの道の蛍光灯が切れているだとか、最近犯罪が起きたばかりの角がどこなのかを知る由もありません。家に帰る度に危険を冒しているんです。

生徒達は、情報をクラウドソースして、学校から家まで安全に帰れる道を教えてくれるサービスを作りました。これを作ることは、この部屋にいる人たちにとってどれだけ簡単なことでしょう。このテクノロジーを使って裏側でちょっと操作すれば、学校に通う全生徒のために役に立つものになる。このプロジェクトを通して、たくさんの生徒がインスパイアされ、若きテクノロジストが多く生まれました。こうした子供たちが、次のMae Jemison(メイ・ジェミソン)(※記事前編に登場)になるのです。ぜひそうなってほしいです。

では、次に私の新しい友人、NPO団体「EveryoneOne」のChief Programs Officerで「ConnectHome」のプロジェクトを手掛けるChike Agueさんに登場してもらいます。

インターネットアクセスのBefore&After

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デジタルデバイドを埋めるために活動する「EveryoneOne」

EveryoneOnでChief Programs Officerを勤めるChike Agueです。社会のデジタルデバイドを埋めるための活動をしています。あなたが誰で、どこに住んでいてどんな容姿をしていようと、インターネットアクセスと、そこから生まれる機会を得る権利があると僕たちは信じています。この2年間半、デバイスメーカーやコンテンツ提供者などと組んで、アメリカの50万を超える低所得層に対してインターネットアクセスを提供してきました。今日はその中でも、2人についてお話します。

Mariaは、アリゾナ州フィーニックスに住んでいます。5歳、7歳、12歳になる3人の子どもがいます。彼女は、地元のコミュニティカレッジで準学士号の取得に向けて勉強しています。 僕たちが彼女に出会った時、彼女の家にはインターネットアクセスがありませんでした。毎日夕方5時までに家に帰ると、3人の子どもを連れて彼女は図書館に向かいます。子どもは、図書館で45分間だけコンピューターに向かいます。図書館では、コンピューターの使用時間が一人45分までと制限されているからです。子供たちは、その限られた時間の中でできる限りの宿題をやります。学校の成績は、CやDでした。一方のマリアは、その傍らでモバイルフォンを使って論文を書きます。

ConnectHomeによって家でインターネットにアクセスできるようになった今、彼女は無事に準学士号を取得することができました。また、失業していた彼女の夫も、オンライントレーニングを受けることで新しい仕事に就くことができました。

もう一人は、Dary Obrienというマイアミに住む高校生の男の子です。家にインターネットがない彼は、学校が終わるとバスに乗ります。このバスは、マイアミでも最も危険とされる地域を通るものです。そして、マクドナルドからマクドナルドを転々とするのです。学校の宿題を終わらせるために、遅い日には帰宅時間が朝の1時になることもあります。今、家でインターネットが使えるようになったDaryは、身の危険を感じることなく、家にいながら宿題をやることができます。

この国には、MariaやDaryのような人たちが何千、何万人といます。もし、6,000万人が電気を使うことが出来ずにいるとしたら、私たちは憤るでしょう。もし、屋内トイレがない生活をしている人が6,000万人いたら、驚いて言葉も出ないでしょう。インターネットも、それらと同じくらい重要なのです。現状に、同じように憤るべきなのです。

2年間で公営住宅25.7万世帯にインターネットを

私たちは、ConnectHomeに参加できることを光栄に思っています。28のコミュニティの公営住宅に住む27万5,000世帯に対して、今後2年間でインターネットアクセスを届けていきます。これら家族の世帯年収は、13万ドル(1ドル100円の単純計算で130万円)です。

なぜ、人々にインターネットアクセスがあることがそれほど重要なのか。その例の一人が、有名なGithubberでもあるDanilo Camposさんです。彼は、GitHub上のソーシャルインパクトのスーパースターで、それがモバイルアプリでもWebサービスでも、彼は何百万という人に自分のコードを見てもらい、オープンソースのプロジェクトを行ってきました。これが、彼のストーリーのエンディングです。

でも、その始まりはどうだったかというと、彼は移民として2歳の時にシングルマザーの母親と一緒にアメリカに渡りました。そして、ニューヨークの公共住宅で育ちました。彼の人生が変わったのは、家でインターネットが使えるようになった時です。彼は、独学でコーディングを学びました。この国には、何万人というDaniloがいるんです。才能は万人共通ですが、機会はそうではありません。そしてこの機会は、今、インターネットを通じて生まれているのです。

名前を見ればわかるかもしれませんが、私はナイジェリア出身です。ナイジェリアの人でさえ聞いたことも無い、一生足を運ぶことがないような小さな村です。祖父母は、誰一人として中等教育以上を受けたことがありません。私の両親は、平和部隊がいるクラスルームで授業を受けて育ちました。私の父親、そして家族の人生を変えた出来事は、父親がアメリカで勉強するための奨学金をを得たことでした。

海を渡って私の父親が受けることになった教育は、現代のインターネットアクセスの有無に置き換えられます。それが誰であろうと、全ての家族や生徒にインターネットアクセスを提供しないことは、道徳的に弁解の余地はありません。経済的に無責任です。デジタルデバイドが今日、明日、そして永遠に縮まるように、皆さんにもぜひ参加してほしいです。参加を希望する人は、connecthome[at]github.com(atは@)に連絡してください。

私たちの子ども、そのまた子どものために

GitHub Universe終了後のチーム (image via. Mayumi Morishita)
GitHub Universe終了後のチーム (image via. Mayumi Morishita)

プロジェクトに対するGitHubのコミットメントは、ConnectHomeに対してキャッシュで25万ドル、プロダクトで300万ドル、そしてGithubberの2,000時間の時間です。Githubberは、コミュニティに対して、コーディングについて、また人々が直面している課題について伝え、オープンソースやGitHubをアクセシブルにすることをしています。現場で、私たちは天才に遭遇することを期待しています。そして、次なるイノベーターやディスラプターに出会いたいと思っています。

私たちは、シリコンバレーのガレージでひっそり何かを作って、全てを一人でやり遂げるヒーロー的な起業家の観念を取っ払いたい。次世代のテクノロジーツールは、違う形で生まれるでしょう。それは、ジョージア州に住む子どもが、そう、今はまだPhythonが何か、そして自分にそんなことができると知らずにいる子どもが、1年後にはそれを作るようになる。シリコンバレーにも同じような例はありますが、まだまだ不十分です。私、そして皆さんには、これをもっと増やして行く義務があります。

私たちが才能を見過ごして来た世代の数だけ、癌への治療方法や水へのユニバーサルなアクセスといったものが諦められているからです。人類がこの地球上では叶わなかった繁栄を手にする、次の恒星系にたどり着くための方法をあきらめているのです。つかみ所がなく、全く別次元の話のように聞こえるかもしれません。でも、だからこそ、今日、TiffaniやChikeを紹介したかったのです。皆さんが触れ、参加することができることに挑戦している人たちに。

GitHubは、その事業目的と足並みを揃えたSocial Impact部門をとても誇りに思っています。これは、GitHubが慈善事業に捧げる片腕ではありません。GitHub自体が今後成長していく道なのです。皆さんも会社やチームに戻って、仲間にDetroit Water ProjectやConnectHomeの話をしてみてください。そして、会社として解決しようとしている課題と、社会が解決を必要とする課題がどう重なり合うか考えてみてください。そこに近づくために、今すぐ動ける適任な人材はいるか?会社のミッションと全くかけ離れているように感じるかもしれませんが、きっとそんなことはないはずです。

もっと話し合ってみたいという人がいれば、いつでも歓迎します。私は過去22年間、この業界で多様性を促進する活動をしてきて、やっと今、動きが見え始めました。この活動が本当に実る時、きっと私はもうこの世には存在せず、それを見届けることはできないでしょう。でも、これを今始めなければ、私の子ども、あなたの子ども、私たちの孫など誰一人として、見過ごしている才能の恩恵を受けることはできません。この招待を、皆さんが快く受け入れてくれることを心から願っています。

GitHubは、この分野を率いるリーダーであることを誇りに思っています。そして、これから先もずっと、この活動を続けていきます。