上海市政府は2月1日より、投資企業がアーリーステージ及びシード期のテックスタートアップへ投資した際に生じた損失を補償するという。
「Provisional Measures on Managing Shanghai Angel Investor Risk Compensation(当方英訳)(上海エンジェル投資家向けリスク補償に関する暫定的措置)」と呼ばれるこの新政策は、投資企業が年間で受け取れる上限額を600万元(約91万6,000米ドル)として、失敗に終わった投資1件あたり300万元(約45万6,000米ドル)を「リスク補償金」として受給できるものである。割り当てられるリスク補償の金額は、スタートアップのエグジットで得られた利益とスタートアップに投資した金額の差額により算出される。
相当の資金がベンチャーキャピタル企業に投入されるが、大きな意味では、とりわけ中国のテクノロジー業界に「世界的な影響」そして「イノベーション」(中国政府は「イノベーション」という言葉にこだわる)をもたらす地元系スタートアップの発展に焦点が当てられている。
スタートアップ投資の財務リスクを軽減することにより、上海市政府はより多くの「公的企業」や「国民のイノベーション」を促したいと考えている。
「この(リスク補償)政策は何らかのインパクトを与えると思いますが、最終的にはスタートアップの文化、その成長能力にまで影響が及ぶでしょう」と、中国及び東南アジアのIT・デジタルメディア企業向けのベンチャーキャピタルファンドGovi Venturesでパートナーを務めるKen Xu氏は語る。
「スタートアップの特徴は、爆発的な成長の可能性とそこにある不確実性です。(成功するための)シンプルな手引きはないのです」。
この「リスク補償」政策によって、ベンチャーキャピタルの仕組みに関する基本的な知識が十分でないことが露呈された。エグジットがうまくいかなかったことによる財務的失敗は、当然ながら無謀な投資に対する意欲を削ぐものである。VCが成功を収めるためには、ビジネスの感覚、経験、そしてもちろん幸運を通して、賢明かつ慎重に投資を行わなければならない。
「リスク補償」によりこの原動力が損なわれてしまうため、財務面での成功を自社の実力ではなく政府の財政支援を当てにするVC企業とスタートアップで溢れる上海のスタートアップエコシステムが生まれてしまうというリスクを新政策は冒しているのである。
中国の地方政府で「リスク補償」政策が実施されるのは、上海市が初めてではない。2013年には江蘇省政府が「Provisional Measures for Guiding Angel Investment Funds(当方英訳)(エンジェル投資ファンドの手引きに関する暫定的措置)」を発表しており、この政策もまた、アーリーステージのテック系スタートアップに出資した投資家に対して「リスク補償」をするものであった。
地方政府は財務的なインセンティブに加え、スタートアップが地元の人材プールの育成を強化するための政策も実施してきた。例えば上海市政府は2015年9月、多くの人が求めている上海の「戸口」(永住権)を、テック関連の起業家が取得しやすくする新政策を発表している。
いずれにせよ、中国のネット市民はこの上海市政府による「リスク補償」政策のニュースを喜んではいないようだ。自分たちの税金が投資企業にまとめて注入されてしまうのを多くの人が恐れている。この助成金を表現する言葉には興味深いものがいくつかあるが、「脳死」などと呼ぶ人もいる。あるネット市民は、「もし中国市民が公務員を選挙で選べるとしたら、このような政府関係者が当選することは決してないだろう」とコメントした。
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