フィリピンがアメリカと決別した場合、国内スタートアップコミュニティにどう影響するか?

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Image Credit: Pixabay
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フィリピンは長期にわたりアメリカと同盟関係にあり、またかつては同国の植民地でもあったが、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は最近中国を訪問した際、自国政府を軍事的および経済的にアメリカから切り離すと明言し、国際社会のみならず、自国民をも驚かせている。

CNN によるとドゥテルテ大統領はこう語ったとされている。

もはやアメリカは敗北しました。私はあなたの国の思想へと転換しました。またロシアのプーチン大統領を訪問し、世界に対抗する国は、中国、フィリピン、ロシアと3ヶ国あると伝えようかとも考えています。それ以外に方法はありません。

この発言の前から、政治路線の変更やその結果引き起こされる不安定性がフィリピンのスタートアップ企業に及ぼす影響について不安の声はすでにあがっていた。

スタートアップ企業の不満

アウトソーシング会社 TrustTeck の共同設立者 Kevin Leversee 氏は、「フィリピンが次のシリコンバレーになれる可能性は十分にあると、私は以前から信じていました」と e27に語っている。

未来はイノベーションとテクノロジーにかかっています。そして私たちはそこにこそ、焦点をあてるべきです。ですが、皆が不安を感じ確信を持てない状態ではうまくいきません。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業界では、一部の同業者が不安を感じています。新しく BPO センターを建てようという計画の中には保留されているものもあります。大きくて新しい、ピカピカのオフィスビルですら、中が空っぽなのです。今後どうなるかを皆が知りたがっています。

Leversee 氏はさらに、彼はフィリピンを愛しているしこれからもここでビジネスを継続したいと考えている。ましてや彼の2人の子どもはフィリピン人の血が半分混ざっているのだからなおさらだ、と付け加えた。

しかし、同胞の中には彼とは同じように考えず、国外にビジネスの拠点を移そうとしている者もいるという。彼はこう締めくくった。

私は強いフィリピンを全面的に支持しますが、そのためにはもっと前向きでいられなくてはいけないのです。

より強いアジア内の結びつきで、希望の光は見えるようになるか?

一方で見方を変えると、ドゥテルテ大統領はアメリカと決別すると発表しただけでなく、過去の論争はさておき、中国との経済関係を強化するとも述べている。

経済大国である中国ではスタートアップセクターが好調で、いまや他の市場や他国への投資にも手を広げようとしている業界最大手企業の拠点にもなっている。

その顕著な例をあげると、Alibaba グループ創業者および会長の Jack Ma 氏は、今後投資を増やし、ASEAN 地域における事業をさらに拡大すると約束している。

国が中国との経済的協力関係に左右されるようになりつつある中、フィリピンのスタートアップ企業は、中国企業からの追加投資や巨大な中国市場への参入といった恩恵を受けられる可能性が出てきた。

歴史的に見て西洋の価値観や習慣を取り入れてきたフィリピンは特に、いくつかの困難に直面するだろう。しかしどんな発展にも利点と問題点はつきものである。

増大する不安定性

この「決別」で実際にどのような影響が出るかは、現時点ではまだ明確になっていない。ドゥテルテ大統領は最近「予測不可能」だと言われることが増えてきたが、これがまさにそれにあたる。

自身が掲げる対薬物戦争の一環として行われている、人権侵害や超法規的殺害を非難されているドゥテルテ大統領は、それ以外にも、勢いで過激な発言をしたり非常識な声明を出したりと、言動が国際的に大きく報道されている。

アメリカと軍事的および経済的に決別するとした今回の発表で、表面的には、ますます反米的になっていくドゥテルテ大統領の発言がとうとう頂点に達したように見えるかもしれない。同大統領は以前アメリカのオバマ大統領について低俗な言葉を用いて世界を驚かせたが、「ろくでなし(son of a bitch)」という発言はオバマ大統領個人に対する攻撃ではないとし後に謝罪している。

それを考えると、ドゥテルテ大統領や大統領補佐官が、アメリカと決別するとした彼の発言は冗談だった、あるいは文脈から切り離されて解釈されたとする可能性も十分にある。これまでも物議をかもした発言は幾度となく同様に対処されてきた。

しかしその一方で、一見勢いまかせに見えるこうした発言は徐々に増えており、フィリピンとすでにビジネス関係を確立している、あるいは同国への投資を検討している国や企業にとって不安定な環境を生み出しているのも事実だ。

地元市場の動揺

地元市場ではすでに、こういった不安定性の影響が出始めている。例えば、米ドルに対するフィリピンペソの通貨価値は、ドゥテルテ大統領が政権について以来4ヶ月の間に5%下落している。

輸出やアウトソーシング業界ではポジティブな影響(商品や労働のコスト低下)がある一方、対外債務返済、特にドル建ての場合はより高くつく。BPO 業界では不安が広がっているが、ペソの下落で手に入る収益が潜在的にあるならば積極的に相殺にあてるべきだろう。

地元の株式市場もここ数ヶ月間は衝撃を受けている。国内外の新しい政策に不安を覚え、ファンドマネージャーらが何億ドルもの資金を引き上げているが、これはリスクで成り立っている市場の性質に合致していると言えよう。

Moritz Gastl 氏は The Manila Times のコラムで次のように述べている。

フィリピン政府は地元のスタートアップ業界の自信を回復し、外国人投資家や外資を引き付けるためだけでなく、地元の複合企業が地元のスタートアップエコシステムでより大きな役割を果たすようになるためにも、新たな事業主を支援するというコミットメントをより強く打ち出していく必要があります。

1つ確かなことがある。フィリピンがどちらに向かおうとも、政府は日々不安をもたらすのをやめ、国内外のビジネス界に新たな基本原則を明確に提示する必要がある。

本記事は J. Angelo Racoma 氏の協力を得て作成された。

【via e27】 @E27co

【原文】

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