
本稿は、2016年10月に上海で開催された、SLUSH Shanghai 2016 の取材の一部である。
フィンランドは、Rovio、Remedy、Supercell といった著名なゲーム企業が生まれた国である。2009年頃からこれらの企業が世界的に注目を浴びるようになってから、新規のゲーム企業がさらに勃興して、それぞれにゲームの魅力を高めている。人口540万人のフィンランドでは、スタートアップは最初からグローバル市場を目指している。
フィンランドの VR 企業にとって中国は、VR ゲームアーケードの普及と莫大な人口もあり、攻めるべきマーケットとなっている。一例として、フィンランドのゲームデベロッパー企業 Reforged Studios は、中国のテック企業 NetEase から2015年10月に250万米ドルの出資を受けている。
TechNode では、月曜(10月31日)に上海で開催された Slush Shanghai イベントにおいて、フィンランドの VR シーンについてさらに深く知るべく、同国 VR スタートアップ4社の CEO らにインタビューを行った。

ウェブ向け VR プラットフォームの作成
Vizor 設立者兼 CEO の Kaarlo Kananen 氏は TechNode にこう語った。
フィンランドは最も積極的に VR を開発している国の一つです。多くのフィンランド企業が VR だけに注力しています。当社スタッフは多くの実績あるゲーム企業や Nokia 出身の才能ある人材ばかりです。
Kananen 氏自身もゲーム業界出身であり、コンテンツクリエーションツールを開発していた。
私がこのビジネスを始めたのは、VR が将来のメディアになると考えたからです。私たちは、VR 制作の使いやすいワークフローを一般向けに提供したいのです。(Kananen 氏)
2015年に設立した Vizor は、VR や360度イメージの制作とシェアをウェブベースで行うプラットフォームである。Kananen 氏によれば、毎月数千のプロジェクトが Vizor VR プラットフォームから発表されている。その中でもフラッグシップ製品の一つが、360度イメージのアップロードサービス ThreeSixty だ。360度写真を撮ったユーザが ThreeSixty のウェブサイトに写真をドロップすると、あらゆるウェブサイトに埋め込み可能な写真の URL を得ることができる。
Kananen 氏は、VR の大規模な普及がウェブ上で起こると考えている。ウェブベースの VR プラットフォームの利点は、アクセスの容易さだ。ユーザはアプリをダウンロードする必要がなく、ブラウザから直接 VR にアクセスできる。
ウェブ上にこそビジネス機会があります。VR を不動産、旅行、ジャーナリズムといったウェブベースのビジネスに組み込めるのです。New York Times を含む多くのメディア企業がこの手法に着目しています。彼らはカスタムアプリを用いてすでに VR を試験的に採用していますが、当社は彼らのような企業にウェブ上で VR を展開してほしいのです。(Kananen 氏)

VR ゲーム企業はマネタイズに苦心
Iceflake Studios の設立者兼 CEO の Lasse Liljedahl 氏はこう語る。
フィンランドでバーチャルリアリティは急速に成長しています。企業は、ゲームに加えて従来の枠組みに VR を導入しようとしています。
Iceflake Studios は VR のコンソールゲーム、モバイルゲーム、PC ゲームを制作している。これらのゲームは VR ヘッドセットの有無にかからわずプレイでき、VR ヘッドセットを持たないプレイヤーでも楽しめるようになっている。同社の最も成功した有料ゲームの一つ Ice Lakes は、iOS と Steam で5万人のユーザを抱えている。Liljedahl 氏によると、同社は1年で25万米ドルの収益があるという。
フィンランドには Android スマートフォン、Windows スマートフォン、iPhone があり、現在は Android が最も普及しています。フィンランドでは VR ヘッドセットで Oculus が最も売れていましたが、今では HTC Vive がより急速に成長しています。(Liljedahl 氏)
現在33歳の Liljedahl 氏は1990年後半にゲーム開発を趣味で始めた。2007年に同社を設立後これまでに16のゲームを制作し、世界中で2,500万ユーザを獲得しているという。そのほとんどが Apple と Windows スマートフォンユーザだ。
2007年には100のゲーム企業がありました。今ではこの業界におよそ3,400人が従事していますが、VR ゲーム企業が利益を得るのは難しいです。当社は全社員に給料を支払うことができる、フィンランドで数少ないゲーム企業です。(Liljedahl 氏)

B2Bが攻めるべきマーケット
Teatime Research は医療用イメージングを手掛けており、医師に3D の医療分析サービスを提供している。CT スキャナの画像、MRI データほかあらゆる種類の3D データから、医師は患者の骨を VR で見ることができる。同社は、身体の筋肉、組織、骨などを区分けして、分離して見られる新技術を開発中である。
Teatime Research Ltd の共同設立者で CSO の Aleksis Karme 氏は次のように語る。
賢い VR 企業であれば、B2B顧客をターゲットにします。ハイエンドの VR コンテンツでなければ、世界で利益を上げることは難しいでしょう。50万台のハイエンド VR ヘッドセットが販売されていますが、B2C(一般消費者)マーケットのユーザはそれほど多くないということです。VR 企業にとって B2B が有力な選択肢でしょう。1~2年の間では、B2C マーケットは利益を上げにくいと思います。
Teatime Research のチームはシステムアーキテクト、UX の専門家、科学者で構成されている。36歳の Karme 氏はデータ分析科学者であり、3D モデリングに22年、中国では古生物学に11年従事した経験豊かな人物だ。
同社はまた、フィンランドおよび海外の建設プロジェクトに向け、アパートのセールスツールを提供している。ユーザはプロジェクトの計画、建設中の進捗状況の確認やマーケティングに利用でき、購入後も付加的な売り上げが期待できる。フィンランド、アメリカ、ヨーロッパ、中国の顧客が主である。
VR 上の体験をもとに、アパート購入契約に至った顧客がすでにいます。これは有望なビジネスです。(Karme 氏)

VR 開発者は結集すべき
VR 開発者を集めているオーガナイザーが FIVR(Finnish Virtual Reality Association)である。FIVR に参加するスタートアップは協業したりお互い助け合い、フィンランドでの VR/AR 技術開発や実装をサポートし推進するためにフィードバックを与えたりしている。FIVR チームの一員である Lollihop は、ビデオゲーム開発を学んでいる24歳の大学生が設立した。
Lollihop の3D ゲームアーティスト、Carl-Anthon Kranck 氏は TechNode にこう語る。
FIVR の VR 企業は無料のオフィス空間と機材を利用でき、政府が援助する補助金への応募も手伝ってもらえます。学生は、基本的な補助金を政府から受けられます。
Lollihop のゲームはまだ開発段階ですが、ユーザからは好意的なフィードバックを得られています。私はまだ大学生で、マーケットを学ぶためにここ中国にいます。
フィンランドのほとんどの VR 企業が比較的初期段階におり、VR をユーザや企業に紹介して認識を高めてもらっているところです。また、フィンランドには VR ハードウェアのスタートアップはあまり多くありません。フィンランドでより多くのヘッドセットが入手できるようになり、第二世代のヘッドセットが出てくれば、市場はより拡大するでしょう。(Kranck 氏)
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