ソーシャルビジネス存続のカギは〝面白いと思える心〟〜シーバス・ザ・ベンチャー ビジネスセミナー「社会起業でスタートアップするには?」から

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Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)

10月下旬、東京・目黒の Impact Hub Tokyo で、酒造メーカー大手シーバスリーガルの主催による、シーバス・ザ・ベンチャー ビジネスセミナー「社会起業でスタートアップするには?」が開催された。

シーバスリーガルは毎年、幻冬舎発行の雑誌「GOETHE(ゲーテ)」の協力により、卓越した社会起業家に助成金を提供する「シーバスブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金」を運営している。また、この基金の受賞者には、シーバスリーガルが社会起業家を表彰する世界大会「THE VENTURE(ザ・ベンチャー)」に参加する権利も提供され、世界大会で優勝すれば100万ドルの賞金を獲得することができる。

このセミナーでは2つのパネルディスカッションが設けられ、THE BRIDGE では両セッションのモデレートをお手伝いさせていただいた。

「ヤングアントレプレナー基金」「THE VENTURE」から得られるもの

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Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)

この日集まった約100名の参加者を前に、ヤングアントレプレナー基金第3回受賞者の SenSprout(センスプラウト)の川原圭博氏と、第4回受賞者の MOLCURE(モルキュア)の小川隆氏が登壇し、受賞までの経緯や受賞してからの変化について経験談を語ってくれた。

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SenSprout は、THE BRIDGE でも以前紹介した導電性インクを使ったスタートアップ AgIC と同じ技術に端を発し、スマート農業センサー「SenSprout」で世界の水問題・食糧問題を解決しようとしている。川原氏は、東京大学大学院で准教授を務める研究者で、SenSprout には技術アドバイザーとして関わっている。

野菜を作るには水が必要だ。牛肉となる牛を育てるにも牧草や穀物が必要で、大量の水を使う。そこで印刷技術を使い、土の中の水分量を正確に測定し、最小限の水で農作物を作れる技術を開発した。日本の農家に寄り添い、彼らに喜んで使ってもらえるものを届けるのがミッション。今後は、世界でも使ってほしいと考えている。(川原氏)

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川原圭博氏
Photo credit: Momoko Takano

小川氏が率いる MOLCURE は、次世代シーケンサーと人工知能を組み合わせて、抗がん剤などに用いる高機能抗体を創出するプラットフォームを開発している。

病気の原因を探し出しと、それを解決するためのモノづくりをしている。世界的な製薬会社でも、成功するのは20件に1件程度。残りの赤字を成功プロジェクトで回収しなければならない。MOLCURE は、成功するはずだったプロジェクトの取りこぼしを見つけ、成功率を上げるお手伝いをしている。(小川氏)

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小川隆氏(右)
Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)

川原氏も小川氏も、起業家であると同時に科学者であり研究者だ。それゆえ、事業に従事する傍ら、学会や国際会議などへの出席にも忙しい。そんな二人だが、世界大会である「THE VENTURE」へ参加した経験を次のように語ってくれた。

16カ国から各国の代表がサンフランシスコに集まり、ビジネスプランを競い合った。プレゼン手法や考え方などからも大きな刺激を受けた。起業家として鍛えられたと思う。アルゼンチンの代表が、農業関係の事業を展開する方だった。受賞をきっかけに一緒に何か始めたい、と考えている。(川原氏)

世界各国の起業家と共に時を過ごせたのは、、他では得られない体験だった。彼らは人間的にも強い。共に過ごしたことで、自分も鍛えられたと思う。今年になって国内の製薬会社3社と話ができ、受賞を機に海外との距離も近くなった。(小川氏)

世界的なインキュベータやアクセラレータの数が増えてきたとはいえ、国境を越えて起業家同士が切磋琢磨できる機会が得られるのはまだまだ稀だ。助成金もさることながら、人脈・機会・スキル・露出といった複合的なメリットが享受できるのは、ヤングアントレプレナー基金と「THE VENTURE」のユニークな魅力と言えるだろう。

気鋭の社会起業家に聞く、ソーシャルビジネス最前線

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Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)

続いて、2つ目のセッションでは、気鋭の社会起業家のお2人にも加わっていただき、世界や日本のスタートアップ・シーンにおけるソーシャルビジネスの高まり、社会起業家としての心得などについても語ってもらった。

ソーシャルビジネス系のプロジェクトを多く扱うクラウドファンディングサイト「READYFOR」の米良はるか氏と、ドローンを使った災害時の地図作成を行うクライシスマッパーズ ジャパンの古橋大地氏だ。

米良氏は、THE BRIDGE がスタートアップ・デイティングとして活動を始めたのと同じ頃、東日本大震災の起きた2011年に活動を開始。最近では、日本財団主催のソーシャルイノベーションフォーラムで米良氏が審査員を務めるなど、日本における社会起業の分野で第一人者的存在となっている。

古橋氏は、ドローンを便利なハードウェアとして捉えるだけでなく、ドローンを操作できる人を有機的につなげることで、社会にどのような利益をもたらせられるかを考えている人物だ。クライシスマッパーズ ジャパンの活動内容については、こちらのインタビューの内容が詳しい。

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古橋大地氏
Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)

古橋氏と米良氏に、ソーシャルビジネスの意義について聞いてみた。

伊能忠敬のように地図作りをどこまで続けられるか、世の中にどのように役立つかを意識して事業展開を考えている。事業の継続性=サステイナビリィが重要。(古橋氏)

では、ソーシャルビジネスを継続させるには、どのような点に注力するべきなのだろう? 5年以上にわたり、ソーシャルビジネスを続けてきた米良氏は、次のように語ってくれた。

「社会問題を解決しなければいけない!」と気張っているより、「社会に欠けている部分を皆でサポートしたら面白いだろうな」「人に役に立てれば生きている実感がありそう』と考える人の方が、長続きする気がするように思う。(中略)

以前は、一攫千金を狙って起業する人が多かったようだが、今は最低限暮らしていけるお金があればよくて社会起業をしたい人、面白さや楽しさが原動力になって事業を始める人が増えている気がする。(米良氏)

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米良はるか氏(右から2人目)
Photo credit: Momoko Takano

そもそも、企業というのは、ソーシャルビジネスかどうかにかかわらず、社会公益性を伴わないと存続することができないので、逆説的に言えば、設立してから存続している企業というのは、広義ではどれもがソーシャルビジネスだと言うこともできる。起業家が思い付いた、誰かを幸せにするアイデア、世の中のためになるアイデアを形にすれば、それは自然とソーシャルなものになっていくのだろう。

小川氏は、

ベンチャーは楽しくないと続かない。僕自身も癌の家系。癌に有効な薬の開発は、人類にとっても重要なミッション。その役割の一翼でも担えるのが、喜びにつながっている。

…と語り、また、川原氏は

大学で研究をしていても、実用化されるのか不安を覚えるが、自分たちが開発した技術でプロダクトを作って農家に納品すると、お金をいただける上に『ありがとう』と喜んでもらえる。これは、研究者にとっては本当に衝撃的な体験。社会の役に立っていることを実感できた瞬間。

と喜んでみせた。

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Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)

パネルディスカッション終了後はネットワーキングの時間となり、登壇者や参加者は、シーバスリーガルが提供したウイスキーを片手に談笑にふけった。

「シーバスブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金」の募集は11月25日までで、応募や条件詳細については、ここから確認することができる。

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Photo credit: Ryo Shimizu (Rphotography-tokyo)