
Rocket Internet は、自社の地域支部の投資先企業の多くでレイオフや売却案が相次いだが、自社のアジア撤退を否定した。
e コマースアプリ Lyke の閉鎖、ホテル予約プラットフォーム Zen Rooms からの数多くのスタッフの離脱(両社とも APACIG の後援するスタートアップ)を受けて、Rocket とカタールの通信会社 Ooredoo のジョイントベンチャーで、シンガポールに拠点を置くAsia Pacific Internet Group(APACIG)が、閉鎖するかもしれないとの噂が先週(3月第1週)流れた。
Zen Rooms が投資家や、ライバル企業を含む買い手に対して売りに出されているとの情報を、Tech in Asia は入手した。
事情に通じた筋によると、APACIG は過去数ヶ月にわたり、すべてではないにせよ、大半の投資先企業に対してコスト削減を加速するよう指示しており、また傘下の数多くの企業に対し、完全に資金援助を打ち切る可能性が高いとのことだ。
私たちは APACIG に問い合わせ、同社が閉鎖予定なのか(そうだとすれば Rocket のアジア撤退の実質的な証となる)、それとも一部の投資先企業への資金援助打ち切りや従業員の解雇を伴う再建手続きが取られているのか、確認した。
こうした質問に対し、APACIG の広報担当者は次のように述べた。
現時点では、APACIG は閉鎖する予定はないと確信を持って言えます。私たちの投資先企業に関する質問につきましては、今後数週間のうちにより具体的な情報をお伝えできると思います。
先週の金曜日(3月2日)、スタートアップコンサルタントの Momentum Works はブログに投稿し、APACIG はどうやら「閉鎖」し、「多くの従業員が(中略)Zen Rooms など様々なベンチャー企業から解雇された」と示唆していた。
道は断たれたのか?
Tech in Asia の情報筋によると、安さを求める旅行者向けにホテルの部屋情報を集約する企業、Zen Rooms に対する出資交渉が期待されていたが、これは失敗に終わり、同スタートアップの財政状況は不安定となった。

Photo credit: Zen Rooms
事情に通じる別の筋によると、Zen Rooms のオーナーたちは、「人々に売払の話を持ちかけている」という。交渉相手には、本日(3月6日)新たに1,100万米ドルの資金調達を発表した、シンガポールに本社を置くライバル RedDoorz も含まれていると思われる。
Zen Rooms は資金切れで、空回りしています。最後の必死の売却でもしない限り、この会社は潰れるかもしれないと思われます。(同筋より)
RedDoorz にコメントを求めたが、Zen Rooms から話を持ちかけられたかどうかについては肯定も否定もしなかった。
Zen Rooms の共同設立者でグローバルマネージングディレクターの Nathan Boublil 氏は Tech in Asia に対し、同社は全従業員のうちタイで勤める10%近くを解雇したことを認めた。
弊社はいつもの通り予算の最適化を行い、比較的収益のある国々でのビジネスを促進し、収益の最も少ない国々では企業再構成を行っています。これは1月から議論されていたことで、それを2月下旬に実行したわけです。(Boublil 氏)
しかし、資金調達の交渉の失敗がレイオフの一要因だっかどうか、Boublil 氏からの答えはなかった。
外部からの融資についてはこう説明した。
話し合いは常に行われており、今も進行中です。
当面の資金は、「事業運営と既存の投資家から」集められると同氏は付け加えた。
噂に言う Zen Rooms の売却に関する質問への回答はなかった。
Zen Rooms は、2017年4月のシリーズ A ラウンドで410万米ドルを調達している。このラウンドには APACIG も参加し、Redbadge Pacific と SBI Investment Korea がリードした。
融資以上に深刻な問題
一方で、Lyke の CEO、Bastian Purrer 氏は Tech in Asia インドネシア版に対し、Lyke のサービス閉鎖を受け、同社スタッフの大部分は中国の e コマース企業 JollyChic に移ると伝えた。Lyke は様々な第3者ファッション小売店からの商品リストをまとめるサービスを行っていた。
同氏によればまた、Lyke の技術チームは移行期間が終われば解雇され、JollyChic 自らの技術開発者に取って代わられるという。

さらに、Lyke が取引手数料から得る収益は運営費と釣り合わず、ベンチャー融資をさらに求めたとしても、決済システムが同社サービスにはないことなど、同社の根本的な問題を解決するには不十分だという。Purrer 氏は、インドネシアでの影響力拡大を狙う JollyChic との合併が Lyke に最善の結果をもたらすと判断した。
Lyke は2016年8月のシリーズ A ラウンドで400万米ドルを調達した。APACIG も参加し、ドイツの Holtzbrinck Ventures がこのラウンドをリードした。
市場は警戒
APACIG や他の手段を使って、ドイツのベンチャービルダー Rocket は、アジア各地の幅広いスタートアップの設立を支援してきた。同社は、東南アジアのエコシステムの主要勢力として広く知られている。
食品配送アプリ Foodpanda、e コマースマーケットプレイス Zalora と Lazada は(後者は Alibaba に買収された)Rocket が東南アジアでローンチしたプラットフォームの中でも特に有名だ。
しかし、すべての投資に対して報酬を確保する Rocket の能力、また同社が投資先企業に付ける評価は、投資家たちから疑問視されてきた。
同社の時価総額は、本記事執筆時点で48億2,000万米ドルであり、これは投資家たちが同社の資産に対し、現金と株式で保有する46億米ドルを超える価値をほとんど付けていないことを示す。同社は2017月9月30日時点で、22億米ドルを現金及び現金同等物で保有していた。同社の株式保有の大半は、食品配送を行う上場企業 Delivery Hero と HelloFresh の株式から成っている。
しかし投資銀行のベレンベルクは、Rocket 傘下の他の大手スタートアップの株は、12億3,000万米ドルを超えるという。
ベレンベルク銀行のアナリスト Sarah Simon 氏は、以前ロイターにこう伝えた。
Rocket にプラットフォームとしての価値を認めたがらない投資家の気持ちは分かるものの、(中略)市場はこの企業に対してあまりにも警戒しすぎたアプローチを取っているというのが我々の考えです。

Photo credit: APACIG
Rocket は資産の一部を売却することにより、自社の評価、自社傘下のスタートアップでの不安定な業績に関する懸念に対処を図った。前述の Lazada の売却の他、Foodpanda を自社が株主でもある Delivery Hero に売却した。
また、Delivery Hero の株式7億7,500万米ドル分を南アフリカのテック大手企業 Naspers に売却し、2億4,300万米ドル分を非公開の買い手に売却するなど、Delivery Hero 株式の部分的売却も行っている。
Rocket の子会社 Global Fashion Group はインドの e コマースストア Jabong をローカル企業 Flipkart に売却し、Zaloraのタイ、ベトナムでのビジネスをタイの複合企業 Central Group に売却した。
Rocket は、赤字ビジネスの重荷も振り払った。11月には自社傘下の中古車マーケットプレイスブランド Carmudi のベトナム支部を売却した。
この戦略は良い結果を生み出し、Rocket は2017年1月から9月までの赤字を前年の7億9,300万米ドルから5,430万米ドルに縮めたと昨年11月に発表した。
しかし Rocket の CEO、Oliver Samwer 氏は投資家に対し、自社傘下の主要スタートアップの多くが利益を出すまでには予想よりも長い時間がかかると話した。
不経済で利益にならない資産を継続的に売却していくことが、Rocket の回復を早める助けとなろう。
(記事中の金額は、1米ドル=0.81ユーロとして、ユーロから換算。)
【via Tech in Asia】 @techinasia
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