奨学金返済を“貸金業”から“人材採用”のチャンスに変えた「Student Loan Genius」が470万ドルの資金調達

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<ピックアップ : Student Loan Genius lands $4.7m new funding>

米国では奨学金破綻が社会問題化してきています。

大学進学以降、親に頼らず学生自身のお金で学校に通うことが一般化している米国社会において、多くの人が奨学金(以後、返済義務のある利息付き奨学金を「学生ローン」とする)を使います。実際、45歳以下になっても70%もの人がローン返済に苦んでいるのが現状です。

例えば2015年にInvestor Protection Instituteが発表したレポートによると、ミレニアム世代の49%が学生ローンを利用しており、40%が退職後の貯蓄や資産形成が心配であると回答。また、Debt.comの記事では、学生ローンを使って営利大学(日本でいう専門学校)に通う人の21%、公立大学の13%、非営利大学の8%が自己破産をしたといいます。

このように、長期の返済義務がライフプランに大きな懸念点を及ぼしたり、たとえ専門スキルを持った人材であってもローン返済できずに自己破産する問題を解決するために登場したのが、Student Loan Geniusです。

福利厚生としてローン返済を支援する

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Student Loan Geniusは、企業の雇用主向けに学生ローンの返済支援をする福利厚生プログラムの作成をサポートするマネージメントツールです。

雇用主は、同社HRツールを通じて従業員の学歴・仕事のパフォーマンス・専門家からのアドバイスの3つのデータを参考に、適切な額の支援金を算定。各従業員に合わせた最適なボーナスプログラムを作成・提供することが可能となります。

ボーナスをもらえる機会が少ない米国企業において、ローン返済支援プログラムはパフォーマンスの高い従業員に長く働いてもらう非常に魅力的なインセンティブになるのです。

大学を卒業してから20年以上も返済を続けるローン利用者と、転職が頻繁に起きる米国の採用事情の課題を上手く解決しているサービスといえるでしょう。

同社がターゲットとしている学生ローン市場規模は、2017年時点で1.4兆ドルに上り、2027年には3兆ドルにまで拡大する成長市場です。この点が投資家に評価されて今回の資金調達につながったと考られるでしょう。

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Student Loan Geniusはローン返済の支援を通じた人材採用と長期雇用の仕組みを提供していました。一方で返済義務のない奨学金(以後、スカラーシップと呼ぶ)を提供する企業と学生をつなぐ、マッチングプラットフォーム「Kaleidoscope」にも注目が集まっています。

米国では毎年720億ドルのスカラーシップが付与されていますが、そのうち70億ドルもの額がプログラム運営費用として支出されています。費用項目としては、主にスカラーシップを与える要件を満たす学生を探したり、ファンドの運営・手続き費用が挙げられます。

Kaleidoscopeは先述した70億ドルもの巨額な運営コストを削減することを目的に、企業向けにスカラーシップ・プログラムの運営代行及びプロモーションを行います。

企業は自社のブランド力の向上と、即戦力になり得る人材とのコネクションを持つことを目的に、スカラーシッププログラムを作成。オンライン上で手軽にスカラーシップ・キャンペーンを作成・公開できます。公開後の学生とのマッチングや、ファンド運営は全てKaleidoscopeが請け負うため、高額な運営リスクを背負う必要がなくなります。

すでに5万人の学生が同サービスを利用しており、こうした実績から130万ドルの資金調達を行いました。

奨学金ビジネスをHR市場として捉える

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奨学金破綻は、日本国外では非常に根強い問題となっています。こうした背景から、人材採用と結びつけることで返済不履行となるケースを無くそうという動きが活発化してきています。

一方、日本における奨学金破綻の実情はどうなのでしょうか?

朝日新聞の記事によると、日本では学生ローン関連で自己破産した人数が、2011〜2016年度までの5年間で約1.5万人いるそうです。単年度で比較すると2016年は、2011年に比べて3,451人が自己破産しており、13%増加したことになります。日本学生支援機構は、こうした実情を踏まえて延滞金の利率を10%から5%にまで抑えたといいますが、未だに歯止めがかかっていません。

米国と比較すれば圧倒的に破綻数が少ないため、あまり社会問題として表沙汰になりません。それゆえ、スタートアップが参入する分野としても注目されていないでしょう。しかし、筆者はStudent Loan GeniusやKaleidoscopeのビジネスモデルが、日本で上手く成長する可能性があると考えています。

理由は2つ挙げられます。1つは、海外の大学に留学する日本人学生数を増やそうとする行政の動き。もう1つは、海外経験のある日本人や、アジア出身の優秀な移民人材を採用したいという企業ニーズの存在です。

日本の奨学金市場を見据えたとしても、ビジネスを成り立たせるための大きな課題感を探すことはできないでしょう。しかし、海外への人材派遣コストの負担と優秀な人材獲得を目指す企業を取り持つことを目的とした奨学金事業を展開することで、大きな商機が見えてきます。

奨学金破綻をしてしまった学生を救うファンドを立ち上げたとしても、NPO法人とでしか成り立たず収益化できないでしょう。しかし、人材採用をコンセプトにしたHR企業として奨学金キャンペーンをSaaSで手軽に作成できるサービスモデルを提供できれば、新たな事業機会が発生すると考えます。

奨学金返済を、“貸金業”ではなく“人材採用”のチャンスと捉えることで開けるビジネスの道があると、Student Loan Geniusの資金調達の事例をみていて感じました。

via Fintech Futures

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