夢の一軒家を共同所有する「Unmortgage」の新手法ーー 所有でも共有でもない「共同オーナーシップ制」とは

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ピックアップ : This startup has raised a massive £10 million seed round to help people who can’t afford their dream house via Business Insider

ニュースサマリー : 一軒家の共同所有を支援する英国拠点の「Unmortgage」が1000万ユーロの資金調達に成功した。顧客は自身の年収の10倍までの価格の一軒家を購入することができる。頭金は合計購入額の5%まで。残りの95%はUnmortgageと提携する不動産ファンドや保険会社が支払う。入居後、毎月一定額の賃貸料を支払うことで定住することが可能。

仮に物件購入を望む場合、月額賃貸料に加えて残りの95%のオーナー権限(所有権)を毎月少しずつ買い戻すことで将来的に一軒家を手にすることができる。顧客の気が変わって引越しを決めた際、入居者の所有するオーナー権限はUnmortgageによって買い戻され、次の入居者に販売されるため、結果として毎月の賃料だけで一軒家生活を満喫できる。

顧客側は夢のマイホーム生活を5%という超低額から開始することができ、かつ引越しを決めたとしても買い戻し金が戻ってくるため安心して生活を送れる。購入当初に95%の購入額を負担する提携企業は長期不動産投資への参加ができるようになり、Unmortgageが算出する不動産市場データから一定額のリターンを期待できる。

話題のポイント : Unmortgageのモデルは新たな不動産投資の形であると言えるでしょう。

顧客が持つ物件を「所有」したい需要を満たしながら、引越しを決めた際にオーナー権限を買い戻す仕組みを提供することで、最終的には毎月の賃貸料を支払うだけで完結する「共有」の形を残してあります。つまり顧客が「所有」は無理だと判断した場合、「共有」という形を選択できるリスクヘッジの出口が用意されているのです

以前紹介した「Divvy Homes」は低所得者向けに頭金の98%を支払う不動産事業を展開していましたが、顧客は選んだ物件を購入せざるをえないモデルでした。一方、Umortgageは「所有」を強制するのではなく、「共有」というのり代を残しつつ引越しが許される柔軟なサービス展開しています。顧客視点から言うと、非常に魅力的なモデルであると言えるでしょう。

ビジネスモデルの根幹にあるのは不動産投資です。実際に投資事業がしっかりと成長路線に乗るかは3年ほどの時間がかかると筆者は推測します。同様の不動産投資サービスを展開するスタートアップに「Loftium」が挙げられます。

同社は新築物件の購入を検討している顧客に頭金最大5万ドルを提供します。同額は機関投資家らから調達。資金提供を受けた物件オーナーは数年間Airbnbのために部屋を貸し出さなければなりません。貸出期間はAirbnbが公開するAPIを通じて得られる需要予測データから算出されます(おそらく数年単位のノルマが課されるでしょう)。機関投資家は長期投資リターンとしてAirbnbの利益が分配されます。

Divvy HomesやLoftiumにしろ、米国で2500〜3000万ドルの大型調達を果たしています。こうした先例からUmortgageのモデルに注目が集まることにも納得がいきます。

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Image by Simplr Solutions

さて、筆者はUnmortgageが提唱する「共同オーナーシップ制」の可能性に非常に注目しています。たとえば小売市場でこの考えが普及したらどうでしょうか?2〜3万円以上する少し手の届かない洋服や家電製品を、頭金の5%出すだけで購入できれば顧客はより手軽に買い物を楽しむことができるかもしれません。

購入後、毎月一定額の支払いを続けながらオーナー権限を買い戻す。仮に途中で商品に飽きてしまった場合、顧客が所有するオーナシップを減価償却を考慮した額で事業者に買い取ってもらい商品を配送すれば、家の中に不要なものを置き続ける必要も無くなります。メルカリやヤフオクに売り出す手間暇もかかりません。こうして購入から転売までのフローを一貫して提供するサービスを確立できるかもしれません。

事業者は配送されてきた商品をサードパーティーのプラットフォームで転売するか、さらに次の人に購入してもらい同じ仕組みで共同オーナシップ制を活用すれば、長く商品を使い回すことができます。たとえ商品をもらい逃げされたとしても、顧客のクレジット情報を小売事業者へ共有すれば、どの顧客がブラックリスト入りしているのか市場周知へつながるクレジット事業を立ち上げられるでしょう。

顧客の規模が大きくなれば、どのような属性の人がどのタイミングで商品を手放すのか需要離脱の予測が可能となるかもしれません。商品に飽きる理由や離脱タイミングがビックデータで把握できれば、製品開発の向上、最適なタイミングでの新規商品提案、商品開発サイクルの見極めなどができるはずです。顧客とメーカーにとってWin-Winの関係を築くことができる構図です。

サブスクリプションモデルが普及した時代、商品を売るタイミングで顧客体験が終わる時代ではなくなりました。データの重要性が叫ばれている昨今であるからこそなおさらです。この時代において、Unmortgageの共同オーナーシップ制は、不動産市場だけでなくあらゆる市場において、新たな消費生活を示唆するキーワードになると予感しています。

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