28分以内配達アプリ「Dingdang(叮当)」がもたらす、中国の医療制度変革

by Tech in Asia Tech in Asia on 2019.1.11

他国の例に漏れず、中国の医療制度もやはり完璧からはほど遠い。中国の医療インフラは、実に14億以上もの人口をカバーする。その巨大なシステムが時折パンクしたとしても何の不思議もないだろう。主要都市の最良の病院の前には、予約のための長い行列ができる。多くの人々が、早朝からその列に並ぶ。中には寝袋持参で夜通し待つ者もいる。

このような状況を揶揄して、現地の人々の間では中国のヘルスケアに関する1つの言葉が生まれた。「スリーロング、ワンショート(三長一短)」。ここで言う「スリーロング」とは、窓口手続の待ち時間、治療を受けるまでの待ち時間 、薬を受け取るまでの待ち時間の長さだ。そして「ワンショート」とは、実際に医師が診てくれる時間の短さを言っている。

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Dingdang(叮当) は、モバイルアプリを使って患者を薬局、医師、病院と結びつけ、医薬品や医療相談を提供するサービス。しかし最大のセールスポイントは、わずか28分以内に薬を届けることを謳っている点だ。このサービスによって、これまで患者が病院で経験してきた「スリーロング、ワンショート」は、「クイック・アンド・ショート」に変わりうる。

クイック配達、ローコスト

2014年に北京でスタートし、2015年2月に正式ローンチした Dingdang。インターネットを活用し、中国における医薬品小売事業のビジネスモデル変革を目指している。複数の中国ネットビジネス大手企業と同様、Dingdang もまた、ヘルスケアサービスというオフラインに固執した古い体質を持つ業界を、無限の可能性を秘めたインターネットと結びつけるところに商機を見出したのだ。

同社は現在、2つの主要な事業部門を運営している。オンラインプラットフォーム「Dingdang Fast Medicine(叮当快薬)」と、オフラインネットワークの「Dingdang Smart Pharmacy(叮当智慧薬房)」だ。

同社の中核事業「Fast Medicine」は、24時間体制の迅速な配達網と、本職の薬剤師や医師によるデジタル相談、そして訪問介護のための予約サービスを提供する。これらのサービスは、昨年8月に Amazon が10億米ドルで買収したドラッグデリバリープラットフォーム PillPack と類似したものではある。しかし、非処方医薬品の配達に PillPack では1週間を要するのに対し、Dingdang は「28分以内、年中無休24時間営業」だ。宅配ピザ並みのスピードで薬を届けることを売りにしている。

「Fast Medicine」は、大きく6つのカテゴリーの製品・サービス情報を提供している。具体的には、医薬品、漢方薬、栄養とヘルスケア、アダルト向け製品、医療機器、パーソナルケアの6つだ。これらのカテゴリーを通して Dingdang は、一般的な風邪、糖尿病、高血圧、皮膚疾患などのほか、伝統的な漢方薬が得意とする解熱や解毒まで含め、さまざまな疾患への治療策を提供している。

一方、Dingdang の「Smart Pharmacy」事業は、医薬品を販売する実店舗を展開。ここを活用して同社は顧客向けの e ファイルを作成し、健康データの収集を行う。そして収集した情報を、Dingdang と提携する製薬会社と共有、そこでの医薬品開発とマーケットポジショニングの計画に役立てる。

これまでのところ Dingdang は、北京、上海、広州、深圳など26都市でサービスを展開しており、200近いセルフサービスのスマート薬局と、パートナーシップを結んだ600以上の従来型薬局店舗を有している。

Dingdang は昨年11月下旬、中国300都市に2,000店のスマート薬局を新たにオープンする計画を発表した。さらには、アプリ内で医師と1対1で随時相談できる「インターネット病院」のサービスも開始。Dingdang は昨年6月に50万人以上の認定医師を擁する医療サービスプラットフォーム「Medlinker(医連)」と提携したが、この提携が新たなサービスとして結実した形だ。

パートナーシップと政府支援を活用

Dingdang の新事業は、中国の医療サービス提供における「ファット・テール問題」を解決することにフォーカスしている。すなわち軽度の疾患、慢性的な痛み、経過観察治療など、必ずしも病院の医師の直接診療を必要としないケースだ。実のところ、これらの症例カテゴリーは中国の医療サービスにおいて大きなウェイトを占めており、中国国内でこれに該当する患者の割合は70%に達するとも言われている。

Dingdang はこの層をターゲットに、オンラインマーケットを通じてより良いサービスを提供し、医療を受ける際の取引コストを削減したいと考えている。その最終目標は、完全に統合のとれた医療サービス。つまり、患者が医療、診断、調薬サービスをすべて1か所で済ませることのできる完結したループの構築だ。

この Dingdang に資金を拠出しているのは、2018年の初めに4,300万米ドルの投資を行った SB China Venture Capital(軟銀中国資本)、さらには、多数の非処方医薬品や漢方薬、消毒洗浄用品、化粧品などを扱う中国資本の医薬品コングロマリット、Renhe Group(仁和集団)などだ。

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Dingdang で売られている医薬品

2001年設立の Renhe Group が Dingdang に提供するのは、実は医薬品だけではない。このコネクションを通じて、Dingdang は Renhe Group が持つ巨大な産業チェーン全体にアクセスが可能だ。具体的には、3つの製薬研究所、5つの物流センター、十数か所の製薬・ヘルス製品製造センター。そこにさらに、260の提携製薬会社と、32万の薬局・医療専門店とのコネクションが加わる。

また一方で、中国商務部も、e コマース分野を含めた製薬部門の成長促進に積極的だ。現状では、中国のデジタルヘルスケア業界は厳しい規制に縛られており、一般小売業など他分野の e コマースと比較すると、この分野での技術革新は遅れている。

だがその停滞したトレンドも、ようやく変わりつつあるようだ。昨年初め、中国政府は「医療セクターとインターネット」に関する公式見解を発表した。その内容は、業界の将来に楽観的な展望をもたらすものだった。それに続いて、昨年8月には e コマース法が可決された(2019年1月1日施行)。政権側が発したこれらのメッセージは、中国政府が掲げるデジタル病院、処方箋と薬剤師の相談プラットフォーム、サードパーティーの流通サービスを活用した受注配達、さらには、処方薬に関する病院と薬局の情報共有強化など、さまざまな面において中国の医療 e コマースの発展を促すものと期待されている。

現在、中国の医療 e コマースセクターの市場規模は170億米ドルを超えると推定される。ヘルスリサーチ企業 IQVIA によると、中国の処方医薬品市場の規模はそれをはるかに上回り、1,200億米ドルを超えるという。しかしながら、処方医薬品のオンライン規制の緩和は未だに進んでおらず、この分野へのインターネットプラットフォームの参入は今なお禁止されている。

中国ハイテク大手との競合

確かに Dingdang は突出した存在であり、中国で最も有望な医療 e コマースのスタートアップだ。だが、今後の先行きは決して甘くはない。まず予想されるのが、中国ハイテク企業大手との競合だ。Alibaba(阿里巴巴)、JD.com(京東)、Tencent(騰訊)。これらはすべて、デジタルヘルス分野にすでに深く進出しており、今後 Dingdang の強力なライバルとなりうる。

Alibaba は、すでに2016年の時点で65のドラッグストアチェーンから成る企業連合 China Pharmaceutical O2O Pioneer Alliance(中国医薬 O2O 先鋒連盟)を創設している。さらに同年、中国南西地域の大規模ドラッグストアチェーンに対する一連の投資の第一弾として、広州に本社を置く Wu Qian Nian Pharmaceutical(五千年医薬)を買収した。

Alibaba はまた、2018年5月、13億5,000万米ドルの取引を通じて、B2C ショッピングプラットフォーム「Tmall(天猫)」上の複数のヘルスケアカテゴリーを Alibaba の子会社 Ali Health(阿里健康)に組み入れた。

また同時に、Alibaba は2018年4月にフードデリバリーのスタートアップ Ele.me の経営権を95億米ドルで取得。これによってネットビジネス最大手の Alibaba は、e コマース分野で先行するのに欠かせないデリバリー・物流インフラを獲得した。Ele.me は年中無休24時間営業、日中の時間帯は30分以内の配達を確約する。もし仮に Alibaba がこのサービスをヘルスケア事業に活用する場合には、Dingdang が掲げる最重要のバリュープロポジション「迅速ドラッグデリバリー」の根幹を揺るがす強力なライバルとなる可能性がある。

また、中国第2位の e コマース事業者であり、国内最大規模の物流ネットワークを擁する JD.com は、医薬品 O2O のビジネスチャンスを最大活用できる戦略的優位に立つ。実際すでに、同社は中国の製薬大手 Shanghai Pharma(上海医薬)と GSK China(葛蘭素史克)の2社と提携し、e コマースのプラットフォーム上に専用店舗@「JD Pharmacy(京東大薬房)」を立ち上げている。

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中国で医療クリニックを運営する Tencent(騰訊)
Photo credit: Tencent(騰訊)

さらには Tencent も、この分野での事業を拡大中だ。昨年7月、同社は Tencent DoctorWork(企鵝医生)と Trusted Doctor(杏仁医生)を統合し、正規の医師を集めたオンラインマーケットプレイスをローンチした。中国で広く普及した WeChat(微博)のメッセージプラットフォームを使って同社はすでに地域病院や薬局とつながっており、月間10億人以上のアクティブユーザが、診療予約や、非処方医薬品・その他の医療機器の購入を同社のアプリ経由で行っている。

中国のその他の若いスタートアップと同様、Dingdang は今後、ネットビジネス大手と単独で競合し続けるのが賢明な策かどうか、経営決断を迫られることになるだろう。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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