シンガポールの歯科業界を改革するスタートアップたち

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目にも留まらぬスピードで技術革新が行われている世界の産業であるが、シンガポールの歯科業界は革新が遅れていると言われている。しかし、複数の企業がこの流れを変えようとしている。

歯科用品を扱うオンラインサイト Lumiere32がその1社だ。共同設立者である Raman Chauhan 氏は「今でも営業マンは歯科医院に直接訪問し、商品を売り込んでいる」と話し、皆がオンラインショッピングしている現状の中、いささか時代遅れなやり方だと嘆いている。

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Photo credit: Unsplash

デジタル・ソーシャルメディアプラットフォームは購入の意思決定に影響を及ぼし、ブランド力の強化や商品のデジタル履歴の拡張をもたらすと Chauhan 氏は語る。

あなたが歯科医師で、ネット記事を流し読みしている時に歯科用品の広告を見つけたところをイメージしてみて下さい。広告をクリックするだけでそのサイトにアクセスでき、問い合わせをすることができます。それが新規顧客の獲得や、より説得力のある販売の手がかりを生み出す手法となります。営業担当者を雇用して、ほんの数分間の商品説明のために1時間近くクリニックで待機させるより有効なのです。(Chauhan 氏)

Chauhan 氏によると、医療品向け流通経路も全く統一化されていないという。

営業担当者による訪問スタイルは30年間にわたり成功を収めており、今でも CAD や3D 画像化・プリントなど複雑な新技術を説明する上で重要であると語る。

しかし、それでもいくつか非効率な面があり、テクノロジーを使って対処することができるかもしれない。この問題を解決するカギは、1か所で購入できる歯科用品向けプラットフォームの提供である。

Lumiere32は2016年初め、歯科医師の Priti Bhole 氏によって設立され、東南アジアとインドをターゲットとしている。Chauhan 氏は6年間の市場調査と IT 戦略コンサルティングの経歴を有し、Cisco、IBM、Microsoft などのテクノロジー会社を顧客としていた。

Lumiere32では現在、650件の歯科医院が登録しており、その半数以上がシンガポールに位置している。

シンガポール国立大学のインキュベータ部門 NUS Enterprise からも支援を受けている。これまで35万シンガポールドル(25万5,269米ドル)の資金を調達しており、来年2月までに60万シンガポールドル(43万7,604米ドル)の追加確保を目指している。

患者のコストと訪問回数を削減

歯列矯正で使われる透明のアライナーをカスタマイズ・製造している Zenyum の設立者兼 CEO、Julian Artopé 氏は「Zenyum はシンガポールで最も大きいアライナーの販売会社」とアピールする。

同社製の器具は従来の透明なものと比べコストは3分の1で、6,000シンガポールドル(4,376米ドル)から8,000シンガポールドル(5,834米ドル)まで多岐にわたる。しかし、軽度から中程度の症例に対する治療に限られる。

主に Instagram、Facebook、もちろん Google といった弊社のマーケティングプラットフォームで、Zenyum は多くの患者にアピールすることができます。

Artopé 氏はそう話す。

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Zenyum の歯列矯正アライナー
Photo credit: Zenyum

患者の診察回数やそれに伴う不安感の払拭は、Zenyum のビジネスを成功させるカギとなる。例えば、同社の主な競合である Invisalign は2、3か月に一度、患者の診察を求めている。

Zenyum の場合、患者がアプリ経由で歯の写真を2週間毎に送信することで、歯科医師は進捗状況や歯の移動具合をチェックできるほか、新たなアライナーを事前に作ることが可能だ。特にこれは診察に行きたくない患者にとって役立つものである。

治療のレベルは高まっていますが、患者はクリニックで時間を費やす必要があまりないのです。

歯科医師は Zenyum と提携することで、従来の歯科用印象材を用いる代わりに、口内スキャナーのような最先端技術を利用して歯の型を取ることができる。また、アライナーをピッタリはめるために必要な歯のクリーニングや抜歯などの二次的治療を、より安い値段で行うことが可能だ。

Artopé 氏によると、スキャナーは侵襲性が低く、より正確であり、印象材で用いられるアルギン酸塩というヌルヌルした物質を口の中に入れることが無くなるので、患者は不快感を覚えることがない。

まだ設立して数か月の同社は、現地ファンドやメドテックの投資家から資金を確保することに成功した。調達額は明らかにされていない。近日、手ごろな価格で購入できるリテーナー(保定装置)を取扱商品に追加する予定だという。

歯の3D プリント

歯科業界でイノベーションのカギとなるのは3D プリンターである。歯科医師が取った口内スキャンを受信した後、カスタマイズされたアライナー、鋳型、入れ歯、その他歯科用途に使われるものを3D プリンターで量産することで、製造コストの削減だけでなく短納期を実現できる。

歯科研究所・歯科医師向け3D プリンターとインクカートリッジを製造している Structo は、シンガポールを拠点とする。特許を取得した同社の MSLA(Mask Stereolithography )テクノロジー は製造コストを減らし、より高い処理能力を持つことに成功したと断言している。

Structo は3D プリンターメーカーのゼネラリストとして2014年、エンジニアである Chin Kah Fai 氏、Huub van Esbroeck 氏、 Devansh Sharma 氏、Lam Siu Hon 氏の4名で設立されたが、最終的に歯科業界に注力することにした。

これまで100台の3D プリンターを世界中に販売。その中で最も大きい市場は北米である。出資者は GGV Capital、Wavemakers、Enterprise Singapore、そして複数のエンジェル投資家がいる。

同社のマーケティングマネージャー Jonathan Lim 氏は次のように語る。

3D プリンターのユーザで最も多いのは、航空宇宙でもプロトタイピングでもなく、歯科医療の分野なんです。

患者ごとに口やあごの形状が異なり、オーダーメイドで製造する必要があるため、歯科医療は他に類を見ないほど3D プリンターと相性が良いという。

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Structo の3D プリンター
Photo credit: Structo

同社の主力商品である DentaForm プリンターは、30分で最大10個の歯列弓をプリントアウトすることができる。テクノロジーによっては、他のプリンターなら同じ処理量で1~4時間はかかると Lim 氏は話す。

他の主力商品 Velox は個人の歯科医師向けである。Lim 氏曰く、医師が使いやすいよう設計されており、プリント・洗浄から硬化(歯科用器具に使う材料を固めること)まですべて作業してくれるデスクトップ型3D プリンターとしては、おそらく世界初ではないかとのこと。

歯科医師の主な日常業務は患者の診断と治療です。3D 印刷や CAD、コンピュータベースの製造ソフトウェアを習得するのは決して難しくありません。彼らは重機械にムダな時間を費やすべきではないのです。

Lim 氏はそう話している。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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