エレベータ向けデジタルサイネージ事業を展開する東京、プレシリーズAラウンドで1.2億円を資金調達

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左から:東京 COO 大塚雅也氏、XTech Ventures ジェネラルパートナー 手嶋浩己氏、東京 CEO 羅悠鴻氏、 東京 CTO 熊谷剛氏
Image credit: Tokyo

エレベーター向けのスマートディスプレイ/デジタルサイネージ「東京エレビ」を使った事業を展開する東京は29日、プレシリーズ A ラウンドで1.2億円を調達したことを明らかにした。このラウンドに参加した投資家は次の通り。

  • XTech Ventures(リードインベスター)
  • East Ventures
  • クオンタムリープ
  • 小澤隆生氏(ヤフー 取締役)
  • 伊藤将雄氏(ユーザーローカル 代表取締役)
  • 関喜史氏(Gunosy 共同創業者)
  • 程涛氏(popIn 代表取締役)
  • 名前非開示の事業会社と個人投資家複数

東京は、東京大学大学院で地球惑星科学を専攻、小惑星探査機「はやぶさ2」に関係する研究に携わっていた羅悠鴻(Youhong Luo)氏らによる創業。当時、通っていた大学の研究棟のエレベータに多くの貼り紙がしてあり、そこからエレベータ向けデジタルサイネージのビジネスを思いついたという。

エレベータ内には、自分とは直接関係の無い他学科の連絡の貼り紙などが多くしてあったのですが、ついついそれに目をやってしまう。エレベータの中というのは暇な時間・空間なので、ついつい注意はそこへ行ってしまうんです。

不動産投資会社の中には、日本で中古のコンドミニアムを安く買って、それをリノベーションして付加価値をつけて、高値で転売する、というようなビジネスモデルでやっているところもあるんですが、エントランスや植生には手をかけるんですが、エレベータに手をつけてる会社はなかった。(羅氏)

エレベータの中や周辺に勝機を感じ取った羅氏は大学の友人らと、市販タブレットを使ったサイネージのモックアップを作成。2017年の末頃には大学院を休学し、このビジネスに本格的に取り組み始めることになる。

ビルオーナーへのメリットをどう創り出すか?

エレベータ内に設置された「東京エレビ」。広告以外には、オーナーからのお知らせ、東京カレンダーや kurashiru などが提供した動画コンテンツが放映されている。
Image credit: Tokyo

東京エレビを取り付けるかどうかを判断するのはビルオーナーだ。ビルの一角に飲料ベンダーが自動販売機を置いているモデルにヒントを得て、羅氏はデジタルサイネージに表示される広告から得られる収入のレベニューシェアをビルオーナーらに提案してみたものの、全然刺さらなかったという。モノは試しに、広告収入を全額ビルオーナーに渡すことも提案してみたが、それでもダメだった。

ビル全体の賃料収入に比べると額が小さいので、興味を持ってもらえないんですね。自動販売機のレベニューシェアでも、月に数万円は稼げるのに、我々が広告料収入から渡せる金額は、それよりも一桁違う。

そこで気がついたのは、エレベータ内の安全性を高めるということでした。エレベータの中に防犯カメラをつけるには、意外と工事費がかかる。サイネージに防犯カメラの機能をつけることで、ビルオーナーに金銭以外のメリットを訴求したんです。(羅氏)

ビルオーナーにとっては、東京エレビの工事費や運用費は発生しない。広告料収入は得られないが、サイネージに備わった防犯カメラで、ビルとテナントの安全を高められるという価値を享受できる。工事が簡単に済むように、東京エレビにも工夫がなされていて、表示される広告内容やコンテンツなどは USB メモリやケーブルを使って伝送されるのではなく、SIM を使ってモバイルデータで取得している。

無論、エレベータのカゴの中というのは携帯電話の電波は飛びづらいのだが、東京では、エレベータのドアが開いている時に動画データをクラウド側から細切れで受け取り、それらを受信完了後に東京エレビ側でマージするという技術を開発した(特許出願中)。ガラス張りで地上しか行き来しないエレベータで、この技術が活躍することはあまりなさそうだが、データ伝送経路を完全ワイヤレスにしたことで、東京エレビ設置のための工事は電源供給だけでよく大幅な簡素化が可能になった。

エレベータのカゴ内の工事はメンテナンス会社の範疇になるが、これを可能とするため、東京は先ごろ、マルチベンダで独立系のエレベータメンテナンス会社 SEC エレベータと提携した。現在のところ、エレベータカゴの中の人の滞留時間などの関係から、設置箇所は6フロア以上ある商業ビルに限られているが、個人がビルオーナーを務める建物を中心に営業展開し、東京エレビはこれまでに3桁以上のエレベータ基に設置されていて、月次で15〜20%くらいの伸びを見せているという。

エレベータ広告から広がる OMO のヒントは中国にあり

エレベータ広告が新聞広告の売上を抜き始めた中国では、この分野を扱うプラットフォームオペレータとして Focus Media(分衆伝媒)や Xinchao Media(新潮伝媒)が業績を伸ばしている。2018年、Alibaba(阿里巴巴)は Focus Media に14.3億米ドルを出資し6.62%の株式を取得、Baidu(百度)が Xianchao Media に21億人民元(約330億円)を出資するなど、いわゆる BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)のエレベータ広告に対する関心は並々ならぬようだ。

羅氏の話によれば、BAT がエレベータ広告プラットフォームに資金を投じているのは、彼らのニューリテール戦略に一環だという。例えば、Alibaba はキャッシュレス・スーパーマーケット の Hema(盒馬鮮生)、フードデリバリーの Ele.me(餓了麼)などを傘下に擁するが、Alibaba にとっては、これらのプラットフォームと同じテーブルの上に Focus Media を置いているという。こうすることで、Focus Media を通じて放映された広告などから、QR コードを通じて Alibaba や Taobao(淘宝)に顧客を誘導することができるようになる。

目の前に商品を陳列しなくても商品を販売できるニューリテール体験は、イギリスのスーパー大手 Tesco の現地法人が韓国の地下鉄で行った実証実験の様子から伺い知ることができる(上の動画)。羅氏は、スマホさえ手にしなくても外出先や移動中にキャッシュレスで買い物ができてしまう時代が到来すると考えており、そんな未来の一角を東京エレビが担えるのではないかと展望を語ってくれた。

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