“学校を100均”にした未来投資型スクール「Juno College」の事業ポテンシャル

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8月20日、米国の著名アクセラレーター「Y Combinator」が2019年サマープログラム・デモデイを開催しました。約170のピッチの中で教育分野スタートアップが意外に多く登場していたのが印象的でした。その中でも筆者の興味をそそられるスタートアップの1つが「Juno College of Technology(以下Juno College)」。

Juno Collegeは1ドルで通学できるプログラミング学校。2012年にカナダで創業した「HackerYou」を前身としています。ターゲットはエンジニア職を手にしたいが未経験、スキルを取得するお金もない転職希望者。

8週間の集中学習コースを提供しており、5万ドル/年の職を得るまで授業料は免除されます。授業料前払いの余裕のある人は1.4万ドルを、後払いを選んだ学生は1.8万ドルの支払いが発生。

学生は2年間で収益の17%をJuno College側に支払い続ける「ISA (Income Share Agreement)」を締結する必要があります。仮に失職した場合(月間4,166ドルの収益を失う)、支払いは停止されます。同校の年間収益は2019年内に300万ドルを達成予定。87%の学生がコース履修しているとのこと。

「学生を証券化」する事業ポテンシャル

筆者が他社スタートアップ事例を交えながら考察したものですが、最も興味を引かれたJuno Collegeが持つ事業ポテンシャルに証券ビジネスへの進出があります。

事例として住宅スタートアップ「Loftium」を挙げさせてください。同社は2016年にシアトルで創業し、累計250万ドルの資金調達に成功している不動産スタートアップ。

住宅購入希望者に頭金約5万ドルを提供。これは住宅ローンではなく、借入金ではないため返済義務は発生しません。その代わり、12〜36か月の間、Airbnb向けに部屋を貸し出し、収益分配をLoftium側とする必要があります。

どの程度の期間、いくつの部屋を貸し出すのかは各地域のAirbnb需要と料金をもとに算出します。一定の利益が出ると事前予測データから判明したら、機関投資家から頭金5万ドル相当の投資を募り、オーナーへと渡る仕組みになっています。この点、LoftiumはAirbnbを活用したいわば「住宅証券会社」であり、5万ドルを負担する必要がありません。

Juno CollegeもLoftiumのようにビックデータに基づいた貸付ローンを展開するとどうなるでしょう。

機関投資家による学生への投資が実行されると同時にJuno College側に入金されるため、収益を学生が就職後に返済するまで待つ必要がなくなります。キャッシュフローが回り続けるため継続的な拡大が可能になります。

証券事業へと手を伸ばすと想定した場合、Juno Collegeは教育機関としての機能だけでなく、ソーシャルレンディングプラットフォームとしての役割も持ちます。レンディング市場も視野に入れると、P2Pレンディングサービスで上場を果たした「LendingClub」規模への成長も見えてくるかもしれません。

こうした巨大なフィンテック市場まで展開可能なポテンシャルを持つのがJuno Collegeだと言えます。社会的に学生の未来に投資するスタイルに批判が集まるかもしれませんが、あくまでも投資と割り切り、一歩進み出したい人に応援資金を出すクラウドファンディングとしてのメッセージ性を持たせれば市場からもポジティブな反応が出てきそうです。

オフライン授業でスケールできるのか?

Juno Collegeに代表される仕事を手にすることを確約した「キャリア報酬型」の教育スタートアップは複数存在します。

競合大手として2017年にサンフランシスコで創業した「Lambda School」が挙げられます。累計調達額は4,810万ドルに達成。6カ月間のプログラミングコースを提供しています。

Lambda Schoolでは100%オンライン授業の形式にしていることから世界展開が可能。加えて履修完了率は86%。一方、Juno Collegeはフルタイムの対面授業にすることでコース履修期間を圧縮。学習効率を上げることで生徒が中だるみしないようにしています。

履修完了率を比較するとJuno CollegeもLambda Schoolもほぼ同率。Juno Collegeは期間をLambda Schoolの1/4にしていることからプログラムを4倍速で回せる計算になります。この点、世界展開は難しいですが、学生数をオフライン授業でありながら最大化させる工夫をしています。

しかし問題点が2つ。1つは9週間の短い期間で就職できるまでのスキルを手にできるのかという点。過去に同じY Combinatorのプログラムを卒業したプログラミング学校「MakeSchool」は12週間のコースから、2年制の大学へと業態を変えています。これは短期間では良質な卒業生を輩出できないと判明したからだと考えられます。

累計調達が1.1億ドルに及ぶエンジニア・PM向けスクール「General Assembly」も3カ月間のコースを提供。対面授業を提供する次世代スクールは総じてJuno Collegeの倍以上の期間を費やしています。

Juno Collegeの収益が年間300万ドル上がっているということは、年間9,000ドルの授業料を返済する卒業生が333人ほどいる計算になります(300万ドル/9,000ドル)。こうした数値から一定数の就職成果が出ていると思われますが、キャンパスを多数展開した際に卒業生の獲得スキルのクオリティを保てるのかが課題となるでしょう。必ずや拠点毎に教育の質のアンバランス感が出てくると思われます。

もう1つの問題がスケールに関して。現在、2,000人が収容できる土地を購入したようですが、北米を中心にキャンパスを拡大にするには多額の初期コストがかかります。不動産事業のボトムネックを持つことになり、スタートアップ的なスケールを狙えるのか疑問に思えてしまいます。

上記2点の課題はありながらも、「教育の民主化」はY Combinatorも注目する領域。今回のデモデイでは奨学金返済サポートサービス「GradJoy」「Blair」「ScholarMe」の3社が登場しており、教育系スタートアップへの熱い視線を感じました。日本でもJuno Collegeモデルのように授業料を先に負担することで、学生の未来へ投資する教育業態が現れそうです。

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