3Dプリントで作るシーフードが店頭に並ぶ日

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ピックアップ:BlueNalu Raises $20M in Series A Financing

ニュースサマリ:2020年2月26日、魚の細胞から魚介類を作り出す「BlueNalu」が2000万ドルのシリーズAラウンドの資金調達を完了した。Stray Dog Capital、CPT Capital、New Crop Capital、Clear Current Capitalが共同でリードを担当し、Nutreco、Griffith Foods、Pulmuone、Sumitomo Corporation of Americas、Rich Products Ventures、KBW Venturesが参加した。

同社は2018年にカリフォルニア州サンディエゴで創業。魚から採取した細胞を増殖させ、3Dプリンター(バイオプリント)を利用して魚介類を成形する技術を持つ。現在はブリの切り身の成形に成功しており、様々な調理に対応できる(競合他社は身が分解するため限られた調理方法しか対応していないとしている)。

今回の資金はサンディエゴ適正製造基準(GMP)のパイロット生産施設開発、チームの拡大、グローバルな運用と流通のための戦略的提携に使われ、市場投入に向けた準備に使われる。

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Image Credit:BlueNalu(2019年12月に実際に振舞われた料理デモンストレーション)

 

話題のポイント:「人工肉」が「天然」「養殖」に続く第3の選択肢として名乗りを上げたのは最近のことです。日本においては導入例が少ないため、知名度がある「Beyond Meat」「Impossible Foods」の植物由来の加工肉だけが人工肉だと認識している人も多いと思います。

人工肉は製造方法で2種類に分けることができます。一つは、Beyond MeatsとImpossible Foodsが作る植物性たんぱく質を元に味・食感を模倣した疑似肉。もう一つは、動物の細胞から食用部位だけを作り上げるラボ肉です。

作るもの(牛・豚・鳥・魚・甲殻類・軟体動物)、作り方(植物由来・細胞由来)の組み合わせでそれぞれスタートアップが新しい市場を作るために挑戦をしている状況です。

では、なぜ植物由来の牛・豚・鳥の人工肉だけが成長してみえるのでしょうか。

消費者の味覚に合わない、価格が高いなどのレベルの高い理由ではありません。単純に供給体制が整っていない、もしくはまだ技術的な課題が残っているため、成長しているかどうかを議論する段階ではないのです。逆にいうと供給が開始されれば十分成長見込みがあります。

Plant-Based Meat Market Growth 2017 to 2019
Image Credit:
The Good food

今回取り上げたBlueNaluは、現段階で明確に供給を意識した戦略を取る数少ないスタートアップです。とりわけサプライチェーンに最適化するための商品企画力、販売力を手に入れるのにシリーズAという機会を上手く利用しました。

原材料に関する専門的なノウハウを持つNutreco、食品業界の世界的製品開発力を持つGriffith Foods、そのほかにも運営、販売、流通に関する専門知識を持つ企業を投資家として迎え入れています。そしてすでにNutrecoとは戦略的パートナーシップを発表しました。資金調達した2000万ドルも大規模生産施設の建設に使われます。

投資家に補完関係にある企業を選び、エクイティによる金銭的な関係を築きつつ戦略的パートナーシップを提携することで、供給に向けて事業計画を一気に進めたいのが読み取れます。

とても順調に見えるBlueNaluですが、驚くべきことに会社設立時に必要な技術を持ち合わせていませんでした。それにも関わらず、創業2年という短い期間で大きな成長を果たしています。その背景には他社とは違う技術選択がありました。

競合他社の全てが採用するラボ肉は作り方は、動物から幹細胞を採取して部位に成長させます。中にはへその緒を元にiPS細胞にしてから作りたい部位を自由に作る方法を開発しているスタートアップもありますが、広義には同じです。

<参考記事>

それに対して、BlueNaluの作り方は部位に成長させる方法を取りません。幹細胞を採取して細胞の役割毎に分離した後に増殖させて、それをインクとして3Dプリンターで部位を成形します。バイオプリントと呼ばれるものです。

再生医療をきっかけに急成長したこの分野の技術には、魚介類の製品を作るのには十分な基幹技術があります。製品の95%が筋肉であるため、臓器ほどの複雑な構造を作らなくてもいいところも相性が良かったのです。

さらに、3Dプリンターの成型方法の中でも1980年代に提案された実績ある手法を採用している点も技術開発の速度を上げ、コストを下げる要因となると考えられます。最近はAmazonでも数万円で3Dプリンターが手に入りますが、BlueNaluが採用している方法は基本的にこれと同じ手法なのです。

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Image Credit:UT San Diego「Lab-grown fish just got real. San Diego startup shows off first slaughter-free yellowtail

 

大規模生産施設の構想設計が始まったのが1年前であることを踏まえると、会社設立から1年で基幹技術の目途が立っていたと思われます。技術がなかったからこそ、柔軟に他分野で実績がある技術を流用し、お金をかけて開発しなければいけない要点を絞り切れたのでしょう。

この技術選定が競合他社とBlueNaluを分け、シリーズAにして供給力の強化にエクイティとキャッシュを振り切れた理由と言えます。

BlueNaluは大規模生産施設の開発フェーズ1に入ったばかりですが、5年後には完成します。そしてこの施設を一人当たりの魚介類消費量が多い北米、アジア、ヨーロッパで数十の場所に複製して供給基盤を盤石なものとする計画です。

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Image Credit:BlueNalu

 

2050年までに100億人に達すると予想される世界人口において、魚介類を含むタンパク質の需要の増加は当たり前にくる未来です。この需要を持続可能な形で満たすための手段として細胞由来の人工肉は妙手と言えるでしょう。

ここまでは順調なBlueNaluは本当に「天然」と「養殖」に続く3番目の選択肢を代表する企業になれるのか、今後も注目していきたいです。